目を細めて、じっと教員席を見る。瞳孔が開いてしまっているかもしれないけど、僕は猫じゃないから上手く操作できないんだ。距離があるから僕の目がどうなっているかあいつからは見えないはずだ。ただ、じっと見ている僕につられてエイブリーやセルウィンたちもまたじっと彼を見ているから少し怪しまれるかもしれない。ちらちらとこちらを見てはきょどっている様子に、ふふふと肩を揺らす。

「クィレルをおちょくって楽しいか?」
「ふふ、楽しくないよ」
「だろうな。そろそろスネイプ教授が怒るぞ」
「ただでさえニンニク臭い男の隣の食事がストレスになってるんだ、この前の一年の初授業でポッターをいびり倒したらしい」
「そもそも目立っている奴が気に入らないんだ、それがグリフィンドールならなおさらだろう」
「色々な要因が重なったな」
「ハリーポッターかわいそうだね」
「グリフィンドールだから仕方がない」

僕を挟んでぽんぽん会話をする中でつぶやくと、二人は声をそろえた。監督生が眉間を揉んで「あまり大きな声で言うんじゃない、媚を売っておくべきだと考えないのか」と言う。いくら英雄といったって子供だよ。セルウィンが監督生を鼻で笑った。スリザリンも案外喧嘩が多い、グリフィンドールと違うのは口論か家柄かってところだ。慣れたようにエイブリーが紅茶のカップを二人の前に置き、紅茶を入れた。途端に優雅にティーカップをつまんで静かになるんだから、英国人っていうのは不思議だ。

「それで、クィレルがどうしたんだ」

はっくしょん!

「わ、大丈夫か、今のは大きかったぞ」
「セルウィン、クィレルが席を立った」
「なるほど、ニンニクだかよくわからん匂い草に反応したのか」

監督生がサッと無言で消臭魔法をかけた。ありがとう、その魔法どんどん上達するね。エイブリーが香りをダージリンで上書きする。うーん、いい匂いだ、ありがとう友よ。じっとクィレルから目を離さないまま背を見送る。ちょっと転けた、お転婆だ。あのターバンは洗濯してほしい。
ニンニクも匂い草も湿った土もヘドロも血もごった煮にされたとんでもない匂いから解放され、ぴすぴすと鼻腔の中をダージリンの香りで満たし気分が良くなった。なのでミートパイの器半分を取りお皿にのせる。そこへ、レポート終わりらしいインクの匂いをさせたドラコとそのお友達が大広間に入ってきた。余談だけど、スリザリン生は僕のためにインクの種類を限定してくれている、とてもやさしい寮だよ。性格は悪いけどね。そしてマルフォイとお近づきになりたいらしい監督生がいそいそと席を空ける。

「あ、スコル、エイブリー先輩!」
「こんばんはドラコ」

エイブリーは後輩のかわいい挨拶に一つ頷くだけの返事をした。ちゃんと挨拶したらいいのに、だから無愛想って言われるんだよ。お前はどうして後輩に呼び捨てにされてるんだ。スコル先輩なんてむず痒いからだよ。

エイブリーは少食だから、ちまちまとデザートのショコラケーキを食べている。オレンジピールのいい匂いだけど、僕はやっぱりお肉がいいなあ。ドラコが僕のお皿の中のパイを見て頬をひきつらせた。

「どうしようかなあ」
「何がだ」
「明日のことだよ」
「明日?ハロウィーンか?今年は何かするつもりなのか?」

ううん、違うよ。口の中がミートでパンパンになっちゃったから、首を振る。

「ふぁれふんふぁよ」
「みっともない、飲み込んでから離せ」
「行儀が悪い」
「咀嚼時は口を閉じろ」

いろんな方面から飛んできたお怒りの声に口を閉じて頬をパンパンに膨らませもごもごと食べる。食べるときは適量を口に入れてください。はい、ごめんなさいドラコ。スリザリンはお行儀にもとても厳しい。
しばらくゆっくり噛んで綺麗に飲み込むと、サッと飲み物が差し出された。その手を見ると、爪は少し長めだけれど何も塗られていない綺麗な手、辿ると犬みたいな顔をした女の子が僕にオレンジジュースの入ったゴブレットを差し出していた。顔が少し緊張している。僕のうわさを聞いたのかな。

「ふふふ、ありがとう、もらうね」
「おや、くしゃみが出ないのか」
「珍しい」

女子生徒相手なのに僕からくしゃみが出ないことが友人たちの中では重要らしい、エイブリーもセルウィンも女の子をまじまじと見る。そりゃそうさ、彼女はネイルもしていなければキツいシャンプーも使っていないし、使っているクリームは無添加のミルククリームだ。この匂い、この前発売されたやつだ、ここの会社の製品は独特の香りがする。でも、マグル製品なのに。ドラコがパンジー、そう彼女を呼んだ。

「パンジー?ああ、パンジー・パーキンソンか」
「パーキンソン家の娘か」
「あんまりそうじろじろ見ちゃだめだよ。ごめんねパンジーちゃん」
「い、いえ、大丈夫です」

少し硬い、耳障りはあまりよくない高い声だ。緊張で上ずってるのかな、僕ってそんなに緊張する相手?それとも隣二人の座高が高いからかもしれない。僕はさながら宇宙人だ。ドラコが、お友達に隣の席を進めた。パッとパンジーちゃんに顔に灯りがともる。かわいいなあ。

「二人とも僕がくしゃみをしない相手が珍しくて仕方がないんだ」
「明日にはスリザリン全員が噂をするぞ」
「パーキンソン、スコル宛の手紙をよこされるかもしれないがすべて焼いていいからな」
「ちょっと」
「誰が暖炉にくべるかの違いだろう」

そういうことをいうからどんどん僕の印象が悪くなるんだぞ。でも燃やすだろ?当たり前だろう。もう、どうしてエイブリーが返事をするの。
でも燃やすのは事実だから、僕はおとなしくパイの最後の一口を飲み込んだ。どうして魔女は手紙に粗悪品の匂いをつけちゃうんだろう。ホグズミードに売っているかわいらしい匂い付きの便箋は僕のくしゃみを止まらせない恐ろしいアイテムだということもホグワーツの掲示板に書いておいてもらいたいものだよ。口には出さずに鼻を鳴らすと、セルウィンに肘でつつかれた。こっちもつつき返す。こら、行儀が悪いぞ。はあい、ごめんよエイブリーママ。

「それで、ハロウィーンがなんだって?」
「サプライズゲストが来るみたいだよ」
「ほう、ゲストが。誰だ?ミスターマルフォイか?」
「やったねドラコ」
「え、ええ…」

やめなさい、後輩を困らせるな。監督生が眉間を揉んだ。はあい。もちろん嘘だよドラコ、安心してね。

「クィレルが関係してるのか?」
「そうかもね」
「また勘か。グッドかバッドか」
「ウィーズリーの双子たちにはきっととってもグッドだよ」
「なら俺達にはバッドだな。明日はスリザリンの席にはプロテゴをかけておこうか、スネイプ教授に言ってくる」

監督生が席を立った。眉間にしわがすごいスネイプ教授の元に向かう背にぺたりと”おおまぬけ”と紙が貼られたのでくふふと笑う。エイブリーを見ると、彼は興味がないらしい。ウィーズリーの双子に会話が聞こえていたのかな、ごめんね監督生。グリフィンドールの小さな笑いに混じって小さく笑う程度には、僕たちだってお茶目だよ。


きれいごとの戯れ2/6

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -