- ナノ -

はっくしょん!はっくしょん!はっくしょん!はっくしょん!朝の談話室に僕のくしゃみが響き渡る。尋常じゃない回数に、談話室で優雅に朝を過ごしていた生徒たちが心配そうに僕を見る。

「大丈夫か、スコル、聞こえているか?」

はっくしょん!はっくしょん!

「ダメだ、止まる気配が無い」
「マグルの血が少しでも入った生徒は今すぐ談話室から出ろ!女子生徒もだ!」
「早くしろ!」
「っわ、わたし、教授を呼んで」

はっくしょん!

「女は近づくなと何度言ったら!早く出るんだ!」

エイブリーや監督生、その他僕のことを知っている純血たちに急かされみんな談話室を出ていく。ドタドタドタ。はっくしょん!それでもくしゃみは止まらない。原因は明白だ。嫌な匂いだ。はっくしょん!

「げほっ、ラコ、」
「なんだ?」

はっくしょん!

「ド、ラコ」

はっくしょん!

「何?──マルフォイ!お前も今すぐ談話室を出るんだ!」
「どうして僕が!?」
「いいから出ろ、くしゃみでスコルが死ぬ!」

はっくしょん!はっくしょん!監督生がドラコとお付き人たちを談話室から追い出す。エイブリーが慣れた手つきで消臭をした。
くしゅん、ずずっ。純血の生徒たちが見守る中、はあ、と熱がこもった息を吐く。喉の奥がヒリヒリする。全身が脱力感に見舞われた。うう、頭が痛い。これじゃあ本当にアレルギーみたいだ。ソファに体を沈めると、セルウィンが「落ち着くはずだ」とハーブティーを煎れてくれた。ほう、と痛む喉に温かいハーブティーを流す。

「落ち着いたかい?苦しいところは?」
「けほっ……大丈夫だよ、ありがとうセルウィン、みんな」
「全く、ひやひやしたぞ」
「ついに死ぬかと思った」

エイブリーが隣に座り、僕の背を摩る。大丈夫か?もう大丈夫だよ。

「マルフォイが原因なのか?」
「あいつは純血のはずだぞ」
「───まさか」

マルフォイ夫人が不貞を?ひそりと囁くように落とされたその言葉に談話室内がざわつく。憶測でものを言うな、黙りなさい。監督生の厳しい言葉が落とされ、みなはじっと黙った。僕はゆるりと首を振る。

「違うんだ、ドラコはちゃんと純血で、ミスターマルフォイと夫人の子だよ。そうではなくて、その──」
「スコル……、言い難いことなのか?」
「うーん……制服、なんだ」

制服?どういうことだ?

「ドラコの制服に最近僕がよくくしゃみをしてしまうものがついていたみたいで」
「ああ、廊下でくしゃみをする回数が増えていたな」
「機嫌が悪い理由だったか?」
「なんの物質なんだ?花粉か?」
「ドラコが花粉だらけのところに行くとは思えないが」
「とにかく、ドラコの制服はなんとかさせよう。朝食が無くなってしまう」

監督生の優しいジョークに笑い、みんなと共に談話室から出る。廊下の途中で何回かくしゃみをする度にエイブリーが消臭をしようと杖を振ってくれたが、残念なことに広範囲には効きやしなかった。

まさかドラコの制服にまでつくなんて、と内心苛立つ。つまり、ドラコは四階の廊下に行ったのだ。濃い獣の匂いだ、あまり好きではない類の。僕たちの仲間でもあり敵でもある獣だ。少なくとも僕は友好的には考えられない、不快で強烈な匂い。
談話室でも嗅がなければいけないなんて最悪だ、と思っていたら、なんとその匂いは大広間にもあった。廊下のあたりから嫌な予感はしたが、人が多い大広間で今まで嗅いだことは無かったのに。はっくしょん!はっくしょん!はっくしょん!また始まったくしゃみに、エイブリーが僕の首根っこを持ち急いで大広間を出ていく。玄関まで来てやっと息を吐いた。

「食事は厨房に頼めばいい。大丈夫か?」
「うん、うん、落ち着いたよ。けほっ」
「全く休む暇がないな、お前のアレルギー体質は…」

そうだね、休むためには早く四階の獣にいなくなってもらわないといけないんだけど……。嫌だなあ、近づきたくないんだ、でも気に食わない。

「お前のくしゃみが出る成分をつけている生徒が多いのか?」
「予想以上にいたかもね」

スリザリンの席とグリフィンドールの席は離れているとはいえ、あんなに何人もいたら意味がない。僕がスリザリンに欲しかったあの純血の子にもついていたし、ウィーズリーの血筋の子供にも、ハリーポッターにもついていた。それから、あの混血の女の子にも、ドラコにもあったんだからみんなで四階の廊下に行ってしまったのか。まったくやんちゃな子たちのようだ。

「エイブリーは、四回の廊下には行っちゃいけないよ」
「どうしてわざわざ禁止されている場所に行くんだ。───ああ、例の魔法生物か、アレルギー反応が出たんだな。まったく、マルフォイには厳重に注意しないといけない、これは監督生に俺から伝えておこう。何故禁止されている場所へ行くなんて愚かなことを」
「そうだね」

本当に愚かなことにならなくてよかったよ。スネイプ教授とは違って子供の肉は柔らかいから、獣には格好の餌食だろうに。


きれいごとの戯れ1/6