口元を真白のマスクで覆った息苦しさでもごもごと話す僕の姿はとても滑稽だと思うし、みんなもすれ違う度くすくすと笑う。なにあのマヌケな姿ああハロウィーンかアレルギーって大変だなダサーい今のってワーグか? そうだよ、僕だよ。
僕のこの姿は一年の中で何度かしか見れないレアだと囃し立てる双子の声ももちろん聞こえているけど、わざと知らんふりをして鞄を抱え直す。早いとこ寮に帰らないと、エイブリーの眉間がスネイプ教授みたいになってしまう。

「不快だ」
「もう少し我慢してよ」
「お前はよく平気な顔をしていられるな」
「僕もこの姿はまぬけだとおもっているからね」

階段を降りる途中の鏡に手を振ると、鏡の中の僕が肩を揺らし振り返す。ふふふ、面白い。僕のマホガニーの瞳が強調されて、目の奥の金色が見えてしまいそうだ。少し俯いて前髪を下ろす。

「ハロウィーンにバレンタインデー、イースター、お前は行事の度に人に笑われないといけないのか」
「クリスマスは平気だよ」
「うるさい」

あらら、エイブリーがご機嫌斜めになっちゃった。へにょりと眉を下げてエイブリーの少し早足を追いかける。ほんのり腐ったチーズの匂いがした。ああ、味がわからない彼らは可哀想だ。腐った匂いは決して美味しくないのによく楽しめるなあ、すごいや。

「……あれ?」
「どうした」
「うーん…」

階段を降り切ったところでふわりと感じた匂い。グリフィンドールの一年生がどうして大広間じゃなくて外にいるんだろう。

「ま、いいか。みんな色々あるよね」
「何がだ。自己完結したのか?」
「うん、多分完結したよ」

別に彼女に何かあったところできっと大丈夫だろう。そう思い地下へ行こうとすると、玄関口からぶわりとヘドロと土と下水道と、もう色々混ざったぐちゃぐちゃの匂いが臭った。これは大変だ、はっくしょん!

「エイブリー早く行こう!」
「あ、ああ、一体どうし……何か臭わないか?」
「だから早く行こうって!はっくしょん!はっくしょん!」
「この臭い覚えがある」

トロールか?エイブリーの問いに頷き早く寮へ籠ろうと腕を引く。けれど、エイブリーは動かない。はっくしょん!何してるんだよ、このままだと僕の鼻が取れてしまう。はっくしょん!

「もう!僕だけ先に行くからね!」
「待てスコル、監督生に知らせるべきだ」
「きっと今頃クィレルが大広間に駆け込んでるよ。はっくしょん!」
「待て。……何があったんだ」

エイブリーがじっと僕を見る。なんだか彼らしくない、こういうときエイブリーはいつも真っ先にとんずらするのに、スリザリンらしくね。トロールに対抗心でも芽生えたのかな?冗談だよ。にっこりと目元だけで笑う。

「さあ、僕にはわからないよ」
「スコル」
「わからないよ」
「スコル」
「もう!わからないったら!でもグリフィンドールの一年生は危ないかもね!」
「ハリーポッターか!」
「違うよ!」

はっくしょん!マスクの下は僕の唾でぐちゃぐちゃだ、早く外したい。エイブリーは眉間に皺を寄せて、少し俯いた。……なんとなく、彼の考えていることはわかるけど、まさかエイブリーはそんな善めいたことをする人じゃない、違うはずだ。エイブリーの手をそっと握る。

「早く行こうよ、僕の鼻がもげちゃう前に」
「スコル、場所はどこだ」
「知らないよ、ほら、戻ろうよ」
「スコル」
「君に何が出来るっていうの?」
「スコル」

もう!わからずや!仕方なく僕はマスクを少しずらして、ひどい腐臭の中から柔らかい石鹸の香りを見つけてやる。あとでスネイプ教授に言ってうんと点数をもらわなくちゃやってられない。僕の嗅覚が犠牲になったんだから。ついでに僕の友人が人助けをしたから、その分マクゴナガル教授スリザリンに加点してもらわなくちゃ。


きれいごとの戯れ3/6

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