DQ6 | ナノ
 18-3

「そうだっけ?」
 まだ目が眠そうなうつろ顔である。
「そうだよ!なんか幼く見えるよねーそんな髪型してると。いつもと雰囲気が違うように見えるし。意外に髪サラサラしてるし」
 バーバラがじろじろ見ている。時々レックの髪をぺたぺた触ったりしている。
「…だから、見せたくないんだよ。ガキっぽいから」
 洗面台に立ち、櫛を持って自分の髪をとかしている。
「へーでも、そのストレートなレックもいいと思うけどね。ミレーユも喜ぶと思うよ」
「なんでそこでミレーユが出てくんだよ」
「好きな女性の反応って案外知りたいもんでしょ」
「っ…どうせ子供っぽいって言われるから却下だ」

 その日の朝にカルベローナを発ち、ガンディーノに向けて出発した。
 場所は現実世界のはるか南東の方角。町を発つ前、カルベ夫妻というバーバラと面識がある老夫婦に、魔法の絨毯を譲っていただき、これで大陸を移動する事になった。
 船で移動するより全然早くて楽で、邪魔な障害物も越えていける。原理は空飛ぶベッドと同じのようだ。
「いや〜空飛ぶ絨毯って持ち運びも楽だし快適だよな。空飛ぶベッドは夢の世界でしか乗れないしよ」
 スムーズに宙を進める上に景色も眺められて、おまけに風が気持ちいい。
「ほんと、これならすぐにでもガンディーノについちゃいますよ。馬車まで乗っちゃいますから、疲れた時には大変便利です」
 アモスも満足げに風に当たっている。
「そういえば、ガンディーノってどんなところだ?」
「さあ。昔は恐ろしい国だったって事は聞いたことがあります。今はだいぶ住みやすい国になったみたいですけどね」と、気難しい顔のチャモロ。
「へえ……あれ、ミレーユどうしたの?」
 バーバラが先ほどから黙りがちなミレーユに声をかけた。
 彼女の顔はどこか生気がない。
「…え、あ…なんでもないわ」
 そのまま顔を隠すようにして背中を見せた。
「どうしたの?朝からあまり顔色よくないようだけど…」
「…もしかして…便秘か?」
 ハッサンが真顔で訊いた。
「ミレーユに向かって何失礼な事言ってんのよバカ野郎!」
 バーバラがハッサンの頭をスパーンと叩いた。
「いや冗談だろ、冗談!だいたい女って便秘に悩みやすいってよく言うだろ」
「それ言うのがもはや失礼なのよッ!この脳みそ筋肉!ねえ、レックもなんか言ってやってよ」
 レックに視線が向けられる。
「んな事言われたってな…ハッサンがこうなのは今に限った事じゃないだろ」と、あきらめモード。
「うげ…レックひでえっ!俺との熱い男同士の友情を忘れたのかよ」
「は…?お前と熱い友情なんてあったっけ?」
「ひどっ!」


 ガンディーノへは空飛ぶ絨毯のおかげで二日ほどで到着した。
 国の広さと経済力はレイドックに匹敵し、軍事力も年々力をつけてきている。世界中の研究者や高官がこぞって集結し、ここでサミットを開くことも最近ではよくある事で珍しくはない。
 人口も一昔前までは半数以下に減り続けていたが、ここ数年では新しい王が誕生し、住みやすい豊かな国になった事で、大勢の移民した者達が戻ってくる事も少なくない。
 一昔前と言えば、先代の王が恐ろしい独裁政権運営で民衆を虐げていた。
 民衆の意思表示は国の憲兵により抑圧され、反対派は何らかの形で排除、もしくは処刑されたという。
 若い綺麗な女性をさらっては、先代の王に献上される奴隷制度も存在し、町娘達はこぞって男のふりをする者が多かったとか。そして、その独裁者である先代の王が息巻いているどさくさに、城下に潜伏している大悪党集団も人々を震え上がらせた。
 盗み、殺し、窃盗、暴力、売春など、ありとあらゆる犯罪が横行していた時代。のべ数十万人が国の体制で虐殺されたのである。
 今やその数々の犯罪に手を汚した大悪党集団も、民衆を震え上がらせた先代の王も見るかげなく、平和で、穏やかな民主主義な国となっていた。
「広い国だなあ」
 城門から歩いてすぐ、大勢の行商人達が石畳の路地で露天商を連ねている。
 ミレーユはやる事があると言って残る事になり、彼女とバーバラが馬車で留守番となっていた。
「はやくお店を見て歩きましょうか。いや〜おいしそうな食べ物がいっぱいですねえ。じゅるり」
「やっぱ酒だよ酒!新しい酒を買わねーと!酒場にレッツらごーだぜ」
 アモスとハッサンは子供みたいにはしゃいでいる。
「二人ともあわてるなよ…ん」
 向こうの大きな屋敷の方で、老人が土下座している姿が目に入った。
「だから、しつけーじいさんだな!何回こられてもいねーって言ったらいねーんだよ!その娘は!」
「頼む!どうか娘を返してくれ…でなきゃ、わしゃあ死んでも死にきれん」
「あーもーとにかくうるせーんだよクソジジイ!」
 男がいらついたように老人を蹴りつけた。
 老人は尻もちをついて吹き飛び、「うう…」と、呻いている。
「何してんだ老人相手にお前ら!」
 見てられなくなったレックが声を荒げた。
「そーですよ!年寄りはもっといたわるもんです!罰が当たりますよ」
 チャモロ達も飛び出した。
「なんだてめーらは!このガンディーノの闇の組織ギンドロ組に逆らうのか!」
「ギンドロ組?」
「まあとにかく!やっちまえ!」
 一斉に数人のガラの悪い男共に囲まれ、襲い掛かってきた。レックを含めた仲間の男達がヤレヤレとため息を吐く。
 ハッサンは男二人の腕を両腕で捻じ曲げ、アモスは口笛を吹きながら足払いをかけ、チャモロは身体麻痺するツボを一突き。
 レックも首のうなじに手刀を叩きこんで眠らせた。
 一瞬のうちにギンドロ組数人は地面にひれ伏して屈服する。
「つ、つええ…何者だてめーら」
「何者って言われても、通りすがりの旅人ですけど。とにかく、そこのおじいさんに謝ってくださいよ」
「ふん!いなくなった奴に謝れって言ってもなあ」
 そう言われてふと振り返れば、先ほど蹴られた老人はいなくなっていた。
「あれ…あのじいさんいなくなっちまった」
 ハッサンがキョロキョロしている。
「ほんと。消えちゃってますね…」と、チャモロ。
「ていうか、先ほどの老人はなんでここに用があったんでしょう。ねえ、教えてくれますか?」
「ふん誰がおしえるか!そんなもん自分らで…ひっ!」
 アモスが恐ろしいくらいの笑顔で、男の首に奇跡の剣を突きつけた。
「お願いしますよ、ギンドロ組のみなさん。私たち…他人を傷つけるような者達には容赦ないので」
 その目は笑っていない。
「わ、わ、わかった…から、け、剣をしまってくれっ」
 男の一人が観念したように慌てている。
「あはは、わかればよろしいんですよ。私を含め、みんなはあまり手荒な真似が好きではないのです」
 アモスは武器を鞘におさめた。
 男達はほっとした顔で溜息を吐いている。
「数年前、あのじいさんは莫大な借金をこのギンドロに作ってたんだよ。一生働いても返せない金をな。だから、借金の肩代わりとして、仕方なく自分の娘を俺たちの所に売る事になった。その娘はめちゃくちゃ美人だったから、俺達も組のためと資金稼ぎのために、その女を城へ献上する事になったんだよ。なんせ、綺麗な女を王へ献上しないと、こっちまで反旗を翻したって目で見られて、憲兵共に何されるかわかったもんじゃねえからな。仕方なくってやつだ。当時のその王はとんでもなく若い美女が好きでよ、浮気性で、献上されてきた女を食い物にしてたって話だからな…おまけに贅沢好きでよ。典型的な悪代官みたいな奴だったぜ」
「なんてひどい…!」
「最低…です」
 アモスとチャモロが顔をしかめている。
「ひでー…その王もキチガイみたいな奴だが、おまえらも相当ひでー事してんだな…」と、ハッサン。
「し、仕方ねーだろ!当時はそーゆー政治体制だったんだ!若い女を貢に出さないで隠したりすると、国家権力で財産没収に下手すりゃあ排除されちまうんだ。どうせその娘は大層美人だったから、王から贅沢三昧されて大事にされただろう。今の王になってから、献上されて奴隷になった女は解放されたらしいから、あの爺さんも懲りずに毎回ここへくるようになったのもそのせいだ」
「それで、かえせって言ってたんですか…あのおじいさん」
 悲しげな表情のアモス。
「ま、奴隷で解放された女もいれば、そのまま死んだのもいる。その娘がどうなったかなんて俺達ギンドロ組はマジでしらねーんだ」
「………」
 時代背景がそうだったとしても、一同はこの怒りをどこへぶつけていいかわからなかった。
 もう少し、自分たちがこの国の現状に早く気づいていれば、救えたかもしれない。



「ようこそ、ガンディーノ城へ。旅人の方ですね。ご自由に見学ください」
 城の方へ行ってみると、笑顔で門番の兵士にあいさつされた。だいたいの旅人は歓迎しているようである。
「信じられないよな。昔、この国があんなひでー状態だったなんて」
 ハッサンが城の中を見渡しながら言った。
 その昔、ここが奴隷の雇われ場だったなんて信じられない程、不潔さや残虐さを微塵にも感じなかった。城で働いている者のほとんどが普通の民間人にしか見えず、殺伐さもない。挨拶をすれば笑顔で返してくれる者がほとんどだ。
「俺も信じられないけど、ここに奴隷として連れてこられた人…助けたかったよ」
「そう、ですね…でも、今はこの国の王様は素晴らしいと聞きますよ。穏やかで、殺伐とした雰囲気もなく、優しいと」
「一応、王様にもあっておくんだろ?」
「ああ。何か知ってるかもしれないし」



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