DQ6 | ナノ
 16-2

 聞く耳もたないと言わんばかりに、王はがむしゃらにレックにレイピアを振り回す。
 それをあっさり避け続けるレック。
 本来、王の暴走を止めるべきのベルダンも「あわわわ…」と、戸惑っていて頼りない。
「いい加減にしてくださいますか?あなた…これでもこの国の王だろうに。冷静になれないんですか」
「だまれ!」
 ナマクラなレイピアもだが、この王の動きが随分と不慣れでつたない。
 城での鍛錬を相当怠っているのか、目を閉じていても避けられる程剣に雑念がこもりすぎているようだ。
 おまけに我を忘れてカッカしているので、攻撃が当たる筈もない。
「…人の話もまともに聞けないようだな」
 レックはしびれを切らし、しゃがれ声でレイピアを片手で掴んで受け止めた。そして、ぐっと力を入れると、そのレイピアをぐしゃりと粉々に砕いた。
 破片がパラパラと床に落ちる。
「ひっ!な、なんて馬鹿力だっ!貴様、王子などではないな!魔物か!?妖術使いか!?このー!」
 王の目がさらに血走る。
「どれも違う。呆れてるんだ。あなたのような無神経さに。だからみんないなくなるんだよ」
 レックは王を非難じみた顔で見つめる。
「そうです。王子であるイズュラーヒン様が言うんです。これじゃあどちらが王様の器をお持ちかわかりませんよねー」と、ニコニコ顔のアモス。
「ほーんと、無神経な男ほど醜いものはないわー。たとえいい男でも、非常識な男って苦手ー。やっぱ男は器がでかくなきゃあ」
 バーバラが皮肉るように笑っている。
「ふ、不敬な…っ!こうなったら…」
 そんな時、脳天から勢いよく水が振ってきた。
「な…」
 びしょ濡れになるフォーン王。
 水をひっかけたのはなんとミレーユだった。手には水を汲んできた桶を持っている。
「これで少しは頭の方がすっきりしたかしら?あなたの無神経さでどれだけの人が失望したと思うの。少しは立場ってものを考えなさい!」
 彼女は冷徹な瞳できつく睨みつけると、フォーン王も彼女の威圧的な瞳に怯んだ。
「ミレーユさんって怒るとやはり怖いですね」
「戦闘ではSM女王やら、魔女やらってたまに呼ばれてるくらいだからな」
 わははと笑うハッサン。
「ねえハッサン」と、抑揚のないミレーユの声。
「ひっ、は、はいい!」
 もしかして聞いて…と、直立不動の体勢で立ち上がる。
「ラーの鏡を取ってきて、あの鏡に向けて頂戴」
「か、畏まりましたああ。ハッサンいってきまあす!」
 ハッサンはものすごい勢いで馬車までラーの鏡を取りに行った。
「な、なんなんだ貴様たちは…一体…」
 濡れたまま呆然としている王。
「いいから黙って。お姫様を救いたくはないのですか?」
 チャモロが眼鏡をくいっとあげる。
「な、なんだと!?助けられるのかっ」と、勢いづく王。
「まーねーあたし達、魔物退治で世界を旅してるしィ〜」
 ラーの鏡が到着すると、それをハッサンは鏡姫に向けて掲げた。鏡はまばゆい光を放ち、真実を映しだす。みな一斉に光の中の鏡に注目した。
「なんだ、あれは…」
 鏡姫の手足に、白い蜘蛛の糸のようなものがしばりつけられ、身動きが取れなくされている上にその背後には、恐ろしい魔道師の男の顔が映った。
 魔道師の男はニタニタ笑っている。
 醜く悪事を重ねきってきた中年の男の顔だ。
「これは…み、ミラルゴか…?」
 王は邪悪な魔道師の名を口にした。
「ミラルゴ?」
「だれそれ」
 仲間達が訝しげに王を見る。
「それについてはわしが」
 大臣ベルダンが割って入ってきた。
「この国にはかつて、とある王子と美しい姫がいた。王子はとても優しく勇敢で、姫はとても清廉な心を持っていた。そして、その二人の間に割って入る様に存在していた男がそのミラルゴ。この三人の三角関係…いや、どこにでもある恋物語とはよく聞くが、この鏡のミラルゴを見て、それが作り話ではなく本当の話であると確信した。ミラルゴは王子の存在を快く思わずに殺し、姫を我が物にしようと永劫鏡に閉じ込めてしまい、そいつが滅びるか呪いを解かない限り、この姫の鏡の呪いは解かれることはないという。それが鏡姫の伝説の話だ」
「じゃあ、そいつをなんとかしないと呪いは解けないのか…」
「うむ。噂では、そいつは大砂漠の中の北の湖に囲まれた塔に住んでいるとか。それにしても…そんな場所…あったかなあ」
「なるほど…北の塔だな…よし、この私が…っと、何をする!」
 レックが王を背後から片手で羽交い絞めにする。
 王は足をばたつかせて暴れている。
「すまないが、あなたにはここに残っていてもらいますよ陛下」
「そうです。その腕じゃあ、行っても足手まといにしかなりませんよ」と、アモス。
「なんだと!ぐふ…」
 レックが首のうなじに手刀をいれた。
 たちまち王はうごかなくなり、気を失った。
「では、王を頼みますね。ベルダンさん」
「はいこれ」と、レックがベルダンに気絶した王の体を預けた。
「陛下が城から飛び出さないようこのベルダン、しっかり見張らせていただきますぞ。イズュラーヒン王子殿下、ミラルゴ討伐頼んだであります」
「あはは…王子じゃないんだけどな」
 恐らく、この世界に湖に囲まれた塔なんて存在しないだろう。地図で確認しても、それらしきものは見当たらなかった。ならば、夢の世界に間違いない。一同はすぐさまルーラを唱えた。


 魔術師の塔と呼ばれる頂上には、一軒の煉瓦の家が建っていた。
 ベッドも、家具も、日用品も存在するどこにでもある普通の家だ。少し違うといえば、狭いスペースに自分以上に大きな鏡を飾っていることくらいか。
 鏡の中には、美しい姫が一人、悲しげな顔。
 一人の鼻のとがった髭面の男が、その鏡を前にして愛おしそうな目で見ている。
 愛おしそうというより、歪んだ愛に溺れた狂気の目に近かった。
「イリカ…わしの可愛いイリカ…」
 蜘蛛の巣で動けない姫を前に、甘く猫撫で声で囁く。
「なぜおまえは…いつもそんな怒ったような悲しそうな顔をするんだ。言う事を聞きさえすれば、すぐに出してやるというのに」
 イリカという鏡姫は睨んだまま口さえも開かない。
「わかっておるさ。お前が怒るのも無理はないと…な。王子である男を殺してしまい、こんな所に閉じ込めた恨みを抱いていることを。だが、もうあれから数千年。もうあきらめたらどうだ?どうやってもあの男は帰ってきはせん。長い長い時が経ちすぎた今では、どうすることもできんのだよ」
 イリカは表情を変えない。瞳だけは悲しげだった。
「まあ、いいさ。わしとお前の命は永遠に近い。永劫生きる意味では、たっぷり時間がある。たとえ、何千何万と時が経とうとも、わしはお前が心を開いてくれるのを心待ちにしょう」
 そんな時、塔がズズンと大きく揺れた。
「ミラルゴ様ぁー!」
 慌てた様子でランプのまじんがやってきた。
「何事だ」
「へ、変な人間どもがこちらに向かってきています」
「なに…?」
 双眼鏡で下の方を覗くと、長い長い螺旋階段の下でレック達が魔物と戦っている。フーセンドラゴンや格闘パンサーをあっけなく倒しているではないか。
「げ、何者だアイツラ。結構強いじゃないか。まさか、イリカの事に気づいてわしをやっつけにきた連中か…?な、ならぬ!イリカはわしのものじゃああ!」
 ミラルゴは独占欲の炎を燃え滾らせたのだった。

「どうやらここが最上階みたいですね」
 しばらくして、レック達が頂上へたどり着いた。
「最上階に家が建ってるけど、ミラルゴの家じゃないかしら」
「ごめんくださーい」と、レックがドアを数回ノックした。
「そんな律儀にしなくてもいいんでね?相手は邪悪な魔道師だろ」と、ハッサン。
「まあ、一応民家だし」
 数秒後に扉が開いた。
「ん、なんじゃお前たちは」
 先ほどと全く違った服装でレック達の前に現れた。
 これでも変装しているつもりらしい。
「あのーぼく達、ミラルゴさん探しているんですけど、おじさん知りません?」
 純粋でさわやか系少年を演じているレック。
「ミラルゴ?そんな奴おったかのぅ。わしゃあ知らんぞい」
 現れた中年男は、しらばっくれたように口笛を吹いて遠くを眺めている。
「えーでも郵便受けにミラルゴ様の郵便受けって書いてあるんですけどー」
 アモスが笑顔で郵便受けを見ている。
「それに、この花壇にミラルゴ様のチューリップはぁとって書いてあるし」
 バーバラが花壇の立札を指さした。
「ぐはっ!く、くそうばれてしまっては仕方ないわい」
「いや、ばれるしフツーに」と、あきれ顔のハッサン。


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