DQ6 | ナノ
 16-1

 空飛ぶベッドを手に入れたレック達は、夢の世界の上空を漂っていた。
 ベッド上空からは、メダル好きな王様の城を発見したり、不思議な祠を発見したり、海の上に大穴がぽかりと空いている場所を発見したりと、ベッドの上から様々な施設や不思議な光景を見つけることができた。
 まだまだ見知らぬ場所が数多く存在する。それでも自分たちは本当に遠くまで来てしまったらしい。旅をし始めた頃が随分と懐かしく思えるほどに。あの頃は何も知らなかった人間だったのに、今じゃあ悪者退治をしながら旅をしている。それと同時に、旅をし始めた頃には知らなかったこの世界の真理と事情が、少しずつ垣間見えてきている気がした。
 まだまだ隠された謎が山ほどある。
 勇者の事、魔王の事、そして…自分自身の事が――…







――第十六章 鏡姫とフォーン城 ――







 上空を彷徨っていると、不思議な大きな井戸を発見した。
 何かいい情報はないかと中へ入ってみる事になり、大きな井戸の中を潜った。
 井戸の地下ではレンガ造りの家がどんと建っていて、金持ち風の男が住んでいた。何でも、この先の井戸の中は現実世界へ繋がっていて、フォーン城という国の領土だそうだ。
 城自体は小国ながらもとても美しく、水門の鍵と呼ばれるものを管理しているらしい。だが、今はいろいろ問題を抱えているそうで、城からの者が音沙汰ない状態だとか。
 水門の鍵があればまた世界が広がるだろうと予感した一同は、なんとか水門の鍵を譲ってもらおうと向かうことに決めた。
「いっどまねき〜いっどまねき〜」
 アモスは楽しそうに歌っている。
 先ほどの井戸に井戸まねきが潜んでいた事で、どうもテンションが高かった。
「アモスって井戸まじんとか井戸まねきとか好きだよね」
「いや〜なんというか、人食い箱とかミミックとかは死の呪文が恐ろしくて嫌なんですけど、井戸まねきとかいどまじんって、突然井戸から現れて驚かせてくるだけじゃないですか。そーゆーユーモアだけがある所が面白いというか…やみつきになるんです〜」
「やみつきになるもんかあ?あの井戸まねきとかが。意味わかんねー」
 ハッサンがダンベルを持ち上げながら首をかしげている。魔物は魔物だからあまり可愛げはないと思うのだが…。
「まあ…ヘビじゃないだけマシだけれどね」
 相変わらず蛇嫌いなミレーユ。
「アモスさんの趣味って時々変わってますよね…」と、チャモロ。
「いや〜それほどでも〜」
「「「「褒めてないから」」」」
「みんな、城が見えてきたぜ」
 レックが手綱を握りながら指さした。
 あれがフォーン城。
 遠くからだと花畑に囲まれた美しい城に見えるが、どんどん近づいてみると、どこか寂れた空気が漂う城だった。何日も磨いていない壁は薄汚れ、蜘蛛の巣があちこちはりついていて、おまけに入口に門番が一人もいない。
 とても静かで閑散としているせいか、廃墟の城なんじゃないかと疑ったほどだ。本当にこの城が、あの美しいと評判なフォーン城なのかと半信半疑で門をくぐった。
「お宅ら旅人かい?いや〜数か月ぶりかな」
 1階のロビーで防具屋を営んでいる店主が、だらしない格好でやってきた。売っている品物もホコリがかぶっていて、手入れが全くされていない。外観があれでは中もこれだろうなと仲間達は苦笑した。
「あの…この国はやけに人が少ないですね…」
「ああ、いろいろわけありなんだ。最近陛下はカガミ姫というコレに夢中でね…」
 店主が小指だけを突き上げる。
「カガミ姫ってなんですか?」
「呪いの鏡にとらわれた美しい姫の伝説さ。結構この国では有名な話なんだけど、今じゃその陛下がカガミ姫に心を奪われてる状態かな。なんていうか…ひどい有様でさ、重要な公務すっぽかして鏡に夢中だもんよ。兵隊も民衆も、陛下があんな抜け殻でダメ男状態だから、愛想つかして国を出て行く一方なんだ。これで魔物なんか攻めてきたら、完全におしまいだろうよ。昔はこの国もたくさん旅人が来て繁盛してたのに…」
 ようするに、その王自体がカガミ姫に夢中で公務をさぼってばかりらしい。
 大臣も大臣でまともに働かず、陛下の言いなり状態。そんなこの国の体制に嫌気がさしたのか、兵隊も毎日のように辞めていく者が後を絶たないそうだ。兵隊だけじゃなく、国に住んでいる民衆も移住を考えている者が多い。
 当然ながらそれが続けば国は衰退し、こうして廃墟と間違えられるほど寂れてしまうのも無理はない。

「あのー…」
 城の奥のまでやってきたレックが、そっと玉座の間を覗いた。
 城内に兵士の姿が一人も見当たらなかったので、一国の玉座の間の扉を無断で開けるのを悪いと思いながらも、仕方なく。中には一人の位の高い男。
 こちらに気づくと、目をギラリと光らせたようにズカズカやってきた。
「なんだ貴様!ここは神聖な玉座の間。不逞な輩め、何しにここを訪れたのだ!」
 大臣のような男が、開口一番いきなり怒鳴り散らした。
「いや、あの案内役の兵士が一人もいなかったので、誰かいないかなと覗いただけでして…」
 それは本当だ。
 入りたくて入ったわけではない。
「嘘をつけ!この侵入者共め…!このベルダンが退治してくれるわ。覚悟せいっ」
 シャキンっと、腰にぶら下げている錆だらけのレイピアを抜いて、切っ先を一同に向けた。まったく手入れなどされていない無茶苦茶なナマクラ刀である。
 仲間達は「ちょ…勘弁してくださいよ」と、慌てて両手をあげた。
「問答無用じゃ!てやああ〜!」
「ちょ、タンマですって…!」
 大臣が隙だらけの型で襲い掛かってきた。
 その時、「やめてーー!!」と、誰かの甲高い声が響き渡った。
「私達はレイドック王子御一行なんだからあーッ!」
 バーバラの大きな声だった。
「何!?」
 レイピアをハッサン向けて振り下ろそうとしたベルダンの動きがぴたりと止まる。
「だから、私達はレイドック王子御一行なんです。それで、この方はレイドック第一皇子イズュラーヒン・クルス・レイドック殿下にあらせられる!フォーン陛下と直々に会談を申込みにきました!」
 「おい、何勝手な事言ってんだよ!今は王子じゃないのに」
 レックはいい迷惑だという顔だ。
「いいじゃない!あの大臣、頭カッカしてるから、きっと何言ってもきかないでしょ。だから、王族を名乗った方がいろいろ話に乗ってくれるかもしれないし」
「だからってなあ…」
「レイドック…か。あの世界一の面積と経済力を誇る大国…。軍事力もあのアークボルトに匹敵するほどの強国と名高く、王のあの政治力と外交力は皇帝と言われるほどの手腕…。あの国家と国交を結び、条約の一つや二つでも結んでおけば、我々としても悪い話ではなく…ぶつぶつ」
 ベルダンは一人でぶつぶつとつぶやいている。悪辣じみたお代官のように。
「あの大臣…完全に一人の世界に入ってますね」
 チャモロが呆れてみている。
「なんか変な事たくらんでそうね…」と、ミレーユ。
「はっ!ならば…レイドック王子ならば…我が陛下も心を開くかもしれぬ!同じ王族同士気が合うだろうて。さあ、イズュラーヒン殿下、地下室へご案内いたします。陛下は地下室にいらっしゃるのでどうぞこちらへ」
「は…はぁ…」
 なんだか嘘をついているようで気が進まないレックだったが、こうでもしなければ陛下に会えないのならば仕方がないと思った。
 ベルダンの案内により、地下深い場所まで階段でおりる。たいまつをつけていても薄暗く、向こうの方で兵士が立っていた。扉はそこだけ豪華な金色の扉で、堅く護られている。ベルダンがレイドック王子が来たことを説明すると、兵士は退き、鍵を開けて一緒に中へ入った。
 扉の奥には、二十代ほどの若い王が大きな鏡に向かって話しかけている。
 愛おしそうに鏡に触れ、愛の言葉をボソボソと呟いているようだ。
 鏡の中には、切なげな表情を浮かべながら、何かを訴えているようにしている美しい姫がいる。
「ああ…姫…あなたは一体だれなのですか。なぜこのような場所に…。あなたの事を考えると胸が痛い…。なんだってしてさしあげたいというのに…ああ、私の姫…愛しい…愛しすぎてたまらない…今すぐにでも抱きしめたい。その君の憂いを帯びた瞳がたまらない…アイラブユー…アイニードユー」
 聞いているだけで恥ずかしくなるような古くてクサい台詞を、ズラズラ真顔で囁いている王。レック達はどう反応していいやらわからない。
 おまけに、全然こちらの気配に気づいていないようで、自分の世界にすっかり浸っているようだ。
「ごほん。あのー…陛下」
 なんとか隙を見て話しかけたベルダンに気づくと、王は見知らぬレック達を見て驚いている。
「なんだ、その者達は!あれほど知らない旅人をここへ入れるなと言ったであろう!鏡姫は見世物ではないのだ!帰れっ!」
 先ほどの台詞の数々を恥ずかしいとも思わず、ズカズカと鏡の祭壇を降りてくる王は憤る。
「い、いやこの者達はレイドックの使者達であります。そして、こちらの方がレイドック王子殿下イズュラーヒン様です」
「なんだと」
 ベルダンがレック達を紹介するも、王の憤りはおさまる様子を知らない。
「そうか、あの強国と噂に名高い国か!国がデカい事をいい事に、我が国を笑いに来たのか!そうであろう!?傲慢稚気な奴らめ」
 これでは言いがかりもいい所である。
 またもやベルダンのように腰のナマクラレイピアを抜いてレック達に向けた。
「いや、違いますって…」と、両手をあげて苦笑するレック。
「いいから、それ降ろしてください」
「うるさい!」



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