DQ6 | ナノ
 12-2

「お前がレックか」
 決闘するための訓練場へ移動すると、例の対戦相手のブラスト兵士団長と対面した。
 彼がアークボルト最強の男であるらしい。肩書きは雷光の騎士。電光石火の如く動く事でつけられた通り名である。
 鳶色の髪の壮年の男で、今まで訓練をしていたのか手には美しいレイピアを慣れた手つきで携えている。
 落ち着きはらった見た目と雰囲気に、いかにも戦い慣れた戦士と言えた。
「よろしくお願いします」
「ああ、よろしく。若いのに実力がありそうだな」
「ぼくぁまだ修行中ですよ」
 二人は笑顔で握手を交し合う。
 戦いはすでに始まっているかのような視線が交錯する。
 口元は笑っているのに、互いの瞳は鋭利なものに変わっていた。
「がんばれよーレック〜」
「しっかりー!」
「レックさんの修行の成果を楽しみにしていますよ」
「早く勝ってあの人を追いかけるんだからねー!」
 仲間達が声援をあげている。
 負けじと、アークボルトの兵士達もブラストに声援を送っていた。それを尻目に、レックは使い慣れていない鋼の剣を見つめた。アークボルトで作られた頑丈な剣
だ。自前の武器ではなく、あえて使い慣れていない武器で勝負した方が、本当の力量を図るのにちょうどいいとの事。それを軽い気持ちで握りしめた。
「では、わしが勝敗の判定人を務めよう。お互い、どちらかが参ったと言うか気絶させたら勝敗が決定する。それ以外はルールなし。よいかな?」
 大臣の言葉にうなずく二人。
「俺とて、アークボルト雷光の騎士と言われている男。そう簡単にやられるわけにはいかぬからな。いざ、参る」
 ブラストが剣を構えると、レックも切っ先を相手に向けた。
「では…はじめ!」
 大臣が手を振り下ろした。
 さっそく両者の睨みあいから始まる。どちらも動かない。
「では…こちらからゆくぞ」
 実力を計るため、まずはブラストが素早くレックの間合いに詰め込んだ。
 それを読んでいたかのようにレックも剣を向け、ぎぃんっと剣と剣がぶつかる。
 フロア中に金属音が反響した。そして、そのまま力比べと言うように両者の鍔迫り合い。火花が散った。
「くっ…」
 剣同士の押し問答で吹っ飛ばされたブラストは横に払う。
 もちろん、レックは無表情で残像を見せて避ける。続いてはやぶさ斬り、回し蹴りとレックに見舞った。寸でのところで避け続けるレックは、すべて先読みしている動きを見せている。
 力だけではなく、恐ろしく素早い。
 やはり「只者ではない…!」とブラストは思った。鍔迫り合いといい、俊敏な動きといい、どれも隙がない。
 あの青い閃光も強かったが、このレックという少年も彼に負けず劣らずの実力なのではないだろうかと感じた。
「では…今度はこちらからいかせてもらいます」
 レックが呟くように言った。
 その途端、今までの動きはお遊びだったと言わんばかりに、格段にスピードが上昇した。あまりのレックの速さに、ブラストは見えない。ただ、大いなる風を感じ、そして…
茫漠としている中で、金属音がまた響き渡り、一瞬のうちにブラストの手から剣が宙を舞った。
 そのまま、ぐさりと彼の背後の床に突き刺ささる。これだけの動きをされれば、武器のない自分などもはや勝ち目はない。
「…ま、まいった」
 ブラストは跪くと、大臣が「勝負あり」と高らかに叫んだ。
「お、勝ったな」
 勝ったのが当然と言わんばかりな態度をしている一同。
「さすがレックさんですね。かなりの神速での一撃でした」と、アモス。
 彼らの仲間は、すべて彼がどんな攻撃をしていたか見えていたよいだ。こちらは全然わからなかったというのに。
 なんとも末恐ろしい者達だとブラストは思った。
―――それに、なぜだろう。
 一瞬だけ、この少年の瞳が空よりも青いものに見えたような気がした。あれは一体…?
 ただ、言えることは、彼の実力はこんなものではないという事。あの青い閃光以上の実力を秘めているのではないだろうか。
 彼の本気は一体どのくらいなのかとブラストは疑問に思ってやまなかった。
「お疲れ様」
 ミレーユがレックの肩に手を置いて声をかけた。
「ああ。そんなに疲れてないけどさ」
「本気はそんなにださなかったんですね?」
 チャモロがきいた。
「いや、俺が半分の本気出したら、ブラストさん死んじゃうから」
 笑顔とも真顔ともとれる顔で答えた。
「レックよ」
 ブラストが声をかけてきた。
「強いのだな。さすがに俺の攻撃をすべて避けて、あまつさえそれ以上のスピードを見せてくれるとは、完敗だ」
「いえ。あなたはまだ怪我が治りきっていないのもありますよ。右手や左足に少しぎこちなさを感じました。青い閃光から受けた傷がそこにあるんでしょう。それに、体が重そうだった。その鎧があなたに合っていないんですよ。まあとにかく、怪我が治りきるまであなたはあまり無理をなさらない方がいい」
 レックは軽くお辞儀をした。
「なんと、そこまで見抜いていたとは…!」
 ブラストは驚いている。
 レックの実力だけじゃなく、洞察力にも。
「あっぱれな試合であった。ではレックとそれに仲間達よ。お前たちの力で、旅の洞窟の魔物討伐を命ずる。頼むぞ」


 二か月ほど前までは魔物もいない通商ルートだった旅の洞窟は、今やすっかり魔物の住処となっていた。
 おまけに魔物が暴れたせいで奥の方で落盤が起き、国境沿いの出入り口は岩で塞がってしまっている。
 アークボルトの兵士達や鉱山で働く男たちが、必死で岩をどかす作業を進めているが、魔物が時々邪魔をしてなかなか捗らない。兵士たちはやってきた青い閃光と呼ばれる者にすべてを託し、洞窟の奥へ歩いていく彼を見届けた。
「…どいつもこいつも…俺に本気を出させてはくれないのか」
 自嘲気味に笑い、アメジストの瞳が細まる。その瞳はひどくうつろげで。青い閃光は、襲い掛かる魔物を一振りでなぎ倒しながら、やる気のなさげに溜息を吐いた。
 奥へ奥へ進み、彼が辿ってきた道のあちこちには、倒したばかりの魔物の死骸が無造作に転がっている。どれもこれも雑魚に過ぎなくて、「つまらない」と吐き捨てる。いや、自分と同等の実力を持つ者がいないからか。それとも、この程度の実力で満足できない自分がいるからか。もはや手ごたえがある相手など、この世にいないのかもしれない。
 魔王を除いては――…。
「……姉さん…俺、必ず世界一になってやるから…」
 ぼそりと吐かれた台詞に、いろんなものが込められていた。



 それから数十分後、レック達も洞窟に到着して奥へ進んでいた。
「おい、魔物の死体があちこちに転がってるぜ」と、ハッサン。
 周囲にあまり時間が経過していない魔物の死体が無造作に転がっている。
「どれも一撃だ。しかも、血があまり出ていないから、綺麗に断面を斬られている」
 レックがしゃがみこんで、死骸の状態を分析している。
「もっとも無駄のない一撃ですっぱりとやられちゃっています。こんな事ができるのは、相当な達人レベルの戦士くらい。青い閃光とやら…やはりものすごい実力を秘めているようです」
 アモスが嘆声をもらす。
「ねーねーはやく行こうよ!早く行かないとあのカッコイイ人魔物のとこまで行っちゃうよ」
 バーバラが急かすように声をかける。
「ハイハイ」
 さらに奥の階層へ進むと、あちこちに魔物の卵が散乱していた。硫黄のような生臭さを感じ、どれも中身が空で割られている。きっと中身をやったのは言わずもがな。
 奥の方に、最も大きな気配を感じた。邪気と強い人間の気配だ。
「あ、あいつだ!」
 見た先には、青い閃光と親玉である魔物が対峙していた。
 魔物の方は五メートルはあるかという巨大な図体をしている。緑色の鱗肌に、巨大な斧を持ち、怒りに燃えた黄色の瞳。
 ドラゴン系の魔物、バトルレックスだった。
 奴は洞窟中に反響するほどの咆哮を轟かせて憤怒している。
「タマゴ…ワタシのタマゴ…ツブシタ…ユルサナイ…コロス!」
 怒りに我を忘れたように、牙だらけの大口を開いた。激しい炎を吐く。
「ふん…こんなもの…」
 青い閃光は息を吸うかのごとく、剣を大道芸のようにまわして受け流している。
「きゃーカッコイイー!」
 バーバラが甲高い黄色い声援をあげた。
 彼らの気配にはとうの昔から感づいていたが、仕方なさそうに青い閃光は振り向いた。
「…なんだ、お前たちは」
 戦闘を邪魔されて不愉快な顔をこちらに向ける。
「あんたを…助けに来た」
 レックが真剣に答えた。
「助けに…だと?ふ…心配ご無用だ。これは俺だけの獲物。後からやってきたお前たちは引っ込んでいてもらおうか」
「…でも…」と、バーバラが前に出ると、レックが片手で遮った。
「大丈夫。あいつに助けは必要ないみたいだ」
 レックが青い閃光を見据えながら言った。
「なんでそんな事が言えるのよ。あんな強そうなドラゴン相手なのに…」
「いいから。あいつは絶対負けないだろう。わかるんだよ…」
 確信はあった。けれど、本当は助けたい一心だった。
 一緒に戦って加勢をしてあげたかった。
 しかし、彼がそれを望むのなら、一介の戦士として手を出すわけにはいかない。
 一対一を望んでいるのに、加勢など入れば誰だって怒るだろう。それに彼の射抜くようなアメジストが、もし手を出せば絶対に許さないとばかりに威嚇しているように思えた。
「そいつの言うとおり、手出し無用だ。いいな?」
「っ…」
 青い閃光が強く念を押すと、バーバラは何も言わなくなった。



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