DQ6 | ナノ
 12-1

 東の地にアークボルトという軍事国家がある事を聞いた。
 レイドックに匹敵するほどの強国であり、世界的有数の軍事国家であるとされ、気になった一行はモンストルがある大陸を東の方へ船で向かっていた。
 甲板の上では、誰かがいつものように退屈そうに地平線を眺めているかと思えば、意外にそうではなかった。
 仲間達は汗水たらして特訓に励んでいる様子である。
 瞑想をしたり、魔法書を読んだり、素振りをしたり、組み手をしあったりと、暇な時間を修行にほとんど費やしている。全員は鍛錬に真剣だった。ダラダラした様子もなく、それぞれが率先して修行に励んでいる。あまり見られない少し珍しい光景だ。
 時折現れる海の魔物に修行の成果を見せつけたり、新たに覚えた魔法や特技の披露を行ったり、ダーマの書の影響もあって仲間達の実力はみるみるうちに上昇する。
 仲間になったアモスの実力は、もちろん頼もしいの一言だった。
 一見、人のよさそうな温厚な彼だが、戦闘になれば真剣そのもので、あっさり海の魔物を我流の剣さばきで片付けていく。剣の実力だけでいえばレックに匹敵するほど。パーティの最年長者でもあり、人一倍努力をする彼の実力は伊達ではない。
 そんなアモスの実力を心強いと思いながら、東のアークボルトの地に到着した。






――第十二章 アークボルト ――







「ここがアークボルトかぁ。でかい城だなあ。城の中に全部国が収まってるって聞いてたけど、めちゃくちゃ広そうだ」
 一同が馬車から降りて、近くにあった小屋にファルシオンを繋がせた。
 すぐそばに、大きな看板が立っている。仲間達が眺めると、『強者求む』という触れ書き。
「なんなのかなあ、強者求むって。兵隊でも募集しているのかな」
 バーバラがじっと看板を見ていると、背後からやってきた旅人と接触した。
「あ、ごめんなさい」
 反射的に謝罪すると、青い帽子からはみ出している白い銀髪が目に付いた。珍しい髪色に見入り、腰には使いこまれた有名な名刀にも気づく。
 一瞬、見ていたレックは大きな力の波動を感じた。
 この旅人は「できる」と――…実力のすごさを察する。
「悪いな。急いでいるんだ」
 青い服装の旅人は小声で口にし、さっさと城壁の門の向こうへ消えて行った。
 放心状態だったバーバラは、堰を切ったようにテンション高くなった。
「ねえねえ!今の人、超かっこよくなかった?あんないい男滅多にいなさそーなくらい超タイプだったわ!きゃあー!」
 バーバラの目がすっかりハートマークになっている。
「まぁ〜たバーバラの悪い癖がはじまったぜ」と、ハッサン。
「まあまあ。若いのだからいいじゃないの」
 ミレーユは微笑ましく見ている。
「いつもの事ですしね」
 チャモロは苦笑いを浮かべている。
「お前、ほんとに惚れっぽい女だな。いい男なら誰だっていいのかよ」と、レック。
「ふーんだ。デリカシーのないレックにはずえったい惚れないけどね!つーか惚れてもあげないけどさ!」
 わざとらしく語気を強調して言うバーバラ。
「けっ…デリカシーがなくて悪かったな。俺だってお前のような男まさりはこっちから願い下げだっつーの。ていうか、あいつ…只者じゃなさそうだったな」
「ええ。ちょっと相手をしてみたいなあって思うくらい、強さの波動が別次元でした」
 達人であるアモスも実力を認めている程だった。
「でしょ〜?あんなカッコイイんだもん!きっと超強いに決まってるでしょ」
 まだバーバラはうっとりしている。
「あー…お前はだまってろ。で、どうする?一応、王様にあって話を聞いてみようか」
「そうですね、ちょっと立札の事が気になりますし。それに、今の旅人の事も知りたいですから」
 一同はアークボルトの城の扉をくぐった。



「お前たち、城の外でいけすかない旅人を見なかったか?」
 レック達を新たにやってきた旅人と見込んで、城の兵士に声をかけられた。
「あの青い帽子かぶってた銀髪の旅人ですよね?」
「そうそう。マジで強いらしいぜ。アークボルト最強の男ブラスト団長を倒したって話だ。目にもとまらぬ動きが閃光みたいだから、青い閃光だって肩書きが付いたらしい。まさか団長があの軟弱そうな旅人風情に負けるとは…くっ…何かの間違いだと信じたいよ。いや、そうじゃなかったら我らが団長が負けるはずなんて到底あり得ないぜ」
 同じ国の兵士として悔しそうに拳を震わせている。
「かなり強いみたいだね…あの旅人」
「青い閃光かぁ。たしかに青い格好だよな」
 少し論点がずれているハッサン。
「それで、なんでこの国は強い者を求めているんですか?」
 チャモロが改めて訊いた。
「ああ、この国の北の方に、旅人が国境を越えるための洞窟があるんだけど、そこにえらい強い魔物が住みついちまってよ、旅人達を通れなくしているんだ。そこを通らなきゃ向こうの大陸へ行って商売もできないし、何かと不便だ。ブラスト団長も住み着いている魔物に挑んだんだが負けちまって…で、仕方なく強そうな旅人に魔物討伐を頼んでいるのさ。不本意だが、あの青い閃光に」
「だから、強い者が必要なのね」
 ミレーユが腕を組む。
「見たところ、お前たちもまあまあ強そうだな。若いのに団長と戦うつもりか?」
「え、いや…まあ、強い魔物が住み着いているのなら、なんとかしたいと思いますけど」
「やめとけやめとけ。青い閃光はともかくとして、お前たちレベルじゃあ負けるのがオチだぜ。団長はめちゃくちゃ強いんだからな!それでも戦いたいなら別だが」
「いや…そういうわけじゃあ…」
 別に誰かと戦いたいわけではない。
 人々を苦しめる悪い魔物がいるなら、それを倒すのに越した事はない。
「その魔物って、団長さんレベルでさえ負けたという事は、かなり強いんですね」
「そりゃあな。もう数百人以上の犠牲者が出ているんだよ」
 兵士が目を伏せて言った。
「その数百人以上の犠牲が出てるのに、一人であの青い閃光とやらを行かせたんですか?」
 レックが非難じみた顔で見つめた。
「…ああ。護衛は必要ないって突っぱねた。大勢いると逆に動きづらく、足手まといになるってよ」
「そんなあ。いくら一人で大丈夫なくらい強くても、めちゃくちゃ不安だよ。サルも木から落ちるって言うじゃない。ねえ、レック、こうなったらあのカッコイイ人追いかけようよ!力になってあげようよ」
 バーバラがレックに頼み込む。
「…おまえ…あきらかに私情をはさんでるな」
「いいじゃないの!結果的に魔物退治にも繋がるんだしっ。放っておけないもん」
!その通り、結果的に魔物退治ができるのならという事で、王様に謁見することになった。



「よく来た。旅の者たち」
 玉座の間で、アークボルト王はきりっとした顔を見せた。
「話はすべて聞いておろう。あの旅の洞窟に住まう魔物を退治できる者を探しているという事を。最初はブラスト団長と我が軍で挑んで勝てると踏んでいた。いや、負けるなどとありえないと思っていたのだ。だが、どうした事か、軍は半数近くがやられ、ブラストも深い手傷を負い、このままでは全滅するだろうと不本意ながら、おめおめと引き返す事となってしまったのだ。旅人よ、お前たちも青い閃光のように、魔物に挑むか?」
 王が静かに訊いた。
「…はい。魔物退治なら私達も手助け致します」
 レックが跪きながら頷く。
「ならば、ブラスト団長と一対一の勝負をしていただきたい。勝つことが出来れば、そなたらを強い者達とお見受けし、魔物退治を改めてお願いしようと思う。それでよいかな?」
「わかりました」
「無事、魔物を退治し、骸を持ち帰った暁には、我が国に伝わる宝剣雷鳴の剣を差し上げますわ」
 王の隣の玉座に座っている王妃が微笑む。
「あの王妃様、綺麗ですよねえ」
 アモスは麗しく微笑んでいる王妃に見惚れている。
「アモスもアモスで違った意味で惚れっぽいよね」
「いやいや、私はどの女性にも必ず惚れるというわけではありませんよ。ただ、ああいう気品がある方は特に好みというか……あの手の女性にはあこがれるんですよね〜」
「お、アモスにも女のよさがわかるようだな。俺はどっちかと言うと色っぽい女が好きなんだが、ああいう気品がある女も好きだぜ。仲間だな、俺達」
「そうですね」と、アモスとハッサンががっちり握手をしている。
「あんたら、あほらしーキズナで結ばれてんねー…」
 呆れ顔のバーバラ。
「ブラスト団長と一対一のようですが、大丈夫ですかレックさん」
 代表として、レックが戦うことになっていた。
「ああ、平気だよ。兵隊相手には戦い慣れてるし」
 いつぞやの試練の塔で、ネルソンと戦った事を思い出す。
「無茶しないでよ」と、ミレーユ。
「すぐ終わらせるさ。そこで見てな」
 レックは不敵に微笑んでいた。



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