DQ6 | ナノ
 9-2

 途端、鏡はまばゆい光を放った。
 神秘的な光が部屋全体を包みこむ。呆気にとられて気が付くと、青空と白い地面の空間の中で自分と鏡だけが漂っていた。地平線の彼方まで真っ白で、先ほどいた部屋やターニアは消えてなくなっている。
「ここは…」
 記憶が脳裏によみがえってくる。
――そうだ。
 俺は今まさにムドーに戦いを挑もうとしていたんだ。まやかしに引っかかって、またあの時のような悔しさを味わう所だったんだ。もしラーの鏡がなかったら、俺は…俺達はまた夢の中を彷徨っていただろう。あの時のように…。
 もう、まやかしになんて騙されない。二度も同じ手に引っかかるものか。
 戻らなければ。あるべき場所に。
「…ありがとう、ラーの鏡よ。守ってくれて…」
 そっと鏡を撫でた。
「さあ鏡よ、みんなを導け!そして、ムドーのまやかしを解き放てッ!」
 レックは鏡を高らかに掲げた。鏡はレックの声に呼応するかのようにさらに輝きを放ち、宙に漂っている三人の石像を見つけた。
「ハッサン、ミレーユ、チャモロ!力を合わせて今度こそムドーを倒す!もう俺達は惑わされない。行くぞ!」
 その声に呼応したかのように三人の石像が割れ、一斉に目を覚ます。
「「「レック!」」」と――…。


 まやかしの魔力は鏡の力よって沈められ、もう一度瞬きすると、元のムドーの城に戻ってきていた。
 白い瘴気は消えており、目の前の玉座には黒い衣を纏ったムドーが存在しているのみ。
 四人は改めて戦いの舞台へと戻ってきたのである。ムドーと真正面から戦いを挑むために。
「ムドー!もうお前のまやかしはラーの鏡がある限りきかない。観念しろ!」
 レックが破邪の剣の切っ先を突きつけた。
「ふふ、ははははは…そうかそうかラーの鏡か。そんなものを持っていたとはな」
ムドーは禍々しく嗤っている。
「よろしい…。そこまでわしと戦いたいのなら、夢よりもはるかに恐ろしい現実というものを教えてやろう。いでよ、しもべたち!」
 ムドーの呼び声に、直属の部下であるデビルアーマー一匹と、切り裂きピエロが二匹現れた。切り裂きピエロは「ひひひ」と笑いながら、二本の刃を光らせている。
 デビルアーマーは全身赤い鋼鉄の鎧を纏い、槍のような大剣を振り回して現れた。
「くるわ!」
 ミレーユが毒牙のナイフを構える。
「ああ」
 ハッサンも拳を握った。
「行きます!」
 チャモロもモーニングスターを振り回して構えた。
「さあ!奴らに死を与えよ!」
 ムドーが高らかに命令すると、魔物が一斉に襲い掛かってきた。
「ひひひ!ムドー様に挑もうとは命知らずな人間よ」
 切り裂きピエロが素早くハッサンに斬りつけてくる。
「ちっ、素早い野郎だな。これじゃあ俺様のとっておきもよけられちまうぜ」
「とっておきなんてあるんですね」
 そばでデビルアーマーの攻撃をモーニングスターで受けながら話すチャモロ。
「ああ。精神体になる前の俺の必殺技なんでな…っと!」
 切り裂きピエロのはやぶさ斬りを寸でのところで避ける。
「随分余裕だな…おしゃべりしていると舌をかむぜ。でくの坊」
「へへへ、余裕なのは当然だ。こっちは雑魚相手のてめえらに構ってる暇はねーんでな!」
「何だとっ」
「いくぜ」
 ハッサンが素早く切り裂きピエロの顔面めがけて飛んだ。
 以前の精神体のままであったころより、はるかに素早さが増した動きを見せる。
「融合して精度の増した飛び膝蹴りをくらえッ!」
 切り裂きピエロの顔が驚愕に歪んだ。がつんと大きな一撃を顔面に与え、切り裂きピエロは吹っ飛んで消える。
 もちろん威力も以前より数倍増していた。
「よし一匹撃退!」
 近くでチャモロはデビルアーマーと交戦中であった。何度か重い一撃が振り落とされるが、チャモロは颯爽と身軽な体でよけ続ける。
「ふふん、小僧のくせに素早いではないか。ならば…はああ!」
 デビルアーマーが大剣を振り回す。
 みるみるうちに大きな風が巻き起こり、ゴオっと竜巻ができあがった。まるで真空呪文バギのようだ。チャモロは吹き飛ばされないように持ちこたえながら、デビルアーマーを見据える。
「ぼくに風で勝負しようなんていい度胸ですね。ならば、見せましょう。ぼくの本気を」
「何…?」
 チャモロは念じて詠唱をし始めた。
 流れるように黄色い魔法陣を描く。両手を突きだして掌に魔力を掌に集中させ、一気に解放させる。
「これがぼくの奥の手…真空魔法バギマッ!」
 バギ系の数倍の威力はある真空が巻き起こる。デビルアーマーの風などあっさりとりこんでしまい、さらに巨大な竜巻が出来上がった。ムドーの城全体が揺れ、柱や瓦礫が崩れかかる。バギクロスに匹敵する威力と大きさである。
「くらいなさい!えええい!」
 威力の増したバギマが鋼鉄の鎧めがけて放たれる。
「ぐあああー!ばかなあ!」
 デビルアーマーはバギマに切り刻まれ、巻き込まれて消える。城の屋根が大きく崩れ落ち、夜の満月が自分たちを照らした。
「く、くそ!デビルアーマーがやられちまっただと!」
 ミレーユと対戦中の切り裂きピエロが尻込みする。
「よそ見をしている暇があるのかしら。ヒャド」
 切り裂きピエロの両足が凍りつく。
「くっ…こんな初級魔法!…げ…」
凍りついて足が動かない。
「ふふふ…あら、どうしたの?」
 ミレーユが不敵に微笑む。
「あ、あははは…いやその…」
「なにか手間取っているわね。動けないのかしら」
「そ、そうなんだ。あはははは」
 切り裂きピエロは冷や汗をかきながら、この状況をどうするべきか焦っていた。
 まさか油断してしまうなんて…と、まるで魔女から逃げ場がなくなった小動物の気分である。
「え、えっとーちょっとタンマいいか?この足動かなくてよ…。や、やっぱ、正々堂々と戦おうぜ、な?美人のねーちゃんよ」
「………」
「たのむ!この通り!」
「………」
 ミレーユは黙って懐からナイフを出し、両足めがけて投げつけた。切り裂きピエロの両足の氷枷が割れて、自由になった。
「ほほお、まさか本当に両足を解いてくれるとはな。気でも狂ったか」
「………」
 ミレーユは人形のように無表情で黙ったままである。
「まあいい!氷が解けりゃあこっちのもんだぜ!女ァ、覚悟しやがれええ!」
調子に乗った切り裂きピエロが再び襲い掛かる。しかし、ミレーユは再度不敵に笑った。
「…ばかね。私がなぜあなたを動けなくしたか、全くわかっていないんだから」
「なんだと!?」
 ミレーユの額のサークレットが光る。今までずっと心の中で詠唱をしては魔法力を高めていたのである。一撃で仕留めるために。
「魔法の光…しまっ…」
 切り裂きピエロの顔が恐怖にゆがむ。
「爆裂魔法イオッ!!」
 大きな爆発音が轟く。
 覚えたばかりの強力な呪文が、切り裂きピエロの顔面をとらえて一瞬で灰にしたのだった。
「ふふん、貴様の仲間たちが我らが部下を倒したようだな」
 ムドーが横目でそれを眺めていた。
 レックとムドーは互いに睨みあっている最中である。
「当然だ。頼りになる仲間達なんだから」
 先ほどから何度もムドーに斬りつけているはずが、全く手ごたえがない。まるで石の様に頑丈で、夢の世界のムドー以上に硬くて動きも早い気がする。
「虫けらのくせに、見上げた努力よ」
 ムドーは燃え盛る火炎を吐いた。
「くっ…」
 破邪の剣で炎を防ぐ。恐ろしく熱い。そして、威力も夢のムドーよりはるかに上だ。
 直接炎に触れてもないというのに、腕がじりじりと焦がされて、やけどでヒリヒリする。
「っ…なんて威力だ…」
 一発ふせぐのが限界であった。
 もう一度この炎を吐かれてしまえば、大やけどだけじゃ済まない。ムドーの吐いた炎は、どんなに硬い岩でも鉄でも溶かしてしまう。伝わる熱気だけで、威力がわかってしまった。


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