DQ6 | ナノ
 6-2

「ありがとう。これでカガミを探しに行かなくて済むんだけど、君たちはラーの鏡を探しにきたんだよね?」
「ああ。あの四角い部屋の中にあるんだろ?」
 レックが浮かんでいる部屋を指さす。
「そうそう。あたしは仕掛けがわかんなくて断念して引き返したんだけど、途中で変な紫色の玉があってさ、サッカーボールくらいの。それとあの空中に浮かんでる部屋ってなにか関係があると思うんだよね」
「紫色の玉?」
「うん、ついてきて。あたし、そこの場所なら案内できるよ」
 バーバラに道案内を頼み、上の階層へ向かった。途中、シャドーやらデスファレーナやらの雑魚魔物が立ちふさがり、何度か戦闘を繰り返した。驚いたことに、その魔物との対戦ではバーバラが活躍していた。彼女は戦闘力が意外にも高く、鞭を操り、攻撃魔法を得意としていた。
 普通の女の子とは思えないほどの軽快な動きと、高い魔法力を誇っていたのである。

「メラッ!」

 バーバラの唱えた火球魔法がシャドー相手に火を噴く。
 物理攻撃がほとんど効かないシャドーに対し、ミレーユ以外の攻撃魔法で蹴散らすことが出来るのはたのもしい。途中で魔力が尽きて引き返す羽目になる事は避けられそうだ。
「すげぇな。ほんと何者だよお前」
「だからー名前以外はわかんないって言ったじゃん」
「それでも、回復魔法以上に難しい攻撃魔法を唱えられるだけですごいと思うけど」
 魔法を扱うには、詠唱するための数式の勉強が必要である。それが高度な魔法になればなるほど、膨大な数式を頭に叩き込まなければならない。
 回復魔法は魔法の中でも簡単な方で、集中力と数式を詠唱さえすればだれでもできるようになるが、一方で攻撃魔法はまた別で、数式を詠唱するのはもちろんの事、魔法陣を描いての契約が必要である。
 契約と勉強さえすれば攻撃魔法も使えるようになるが、だいたい扱う者は学者や僧侶などの知識人が多く、普遍的には広く伝わっていない。だからこそ、彼女がいとも簡単に扱えることに驚く面々。
「なんでかわからないんだけど、使えるようになってるんだよね」
「記憶喪失だっけ?記憶をなくす前に習得してたんだろ」
「たぶんね。でも、あたし回復魔法は苦手だからあんまり使えないんだ」
「変わってるわね。普通回復魔法の方が簡単なんだけど、数式は暗記してるの?」
 ミレーユがきくと、バーバラはこてんと首をかしげる。
「数式?……何それ」
「お前、どうやって唱えてるんだよ。魔法唱えるには数式を詠唱しなきゃいけないんだ」
「さあ。なんか念じるとできるっていうか…あたしにもわかんないんだもん」
「念じるとできる?変わった奴だな」
 三人は不思議に思った。
「聞いたことがあるわ」と、ミレーユが続ける。
「数式を暗記しなくても、念じるだけで魔法を唱えられる者がごくまれにいるっておばあちゃんが言っていた。そういう人は生まれながらに才能と魔力を持っている人なんだろうって。その特殊なケースがバーバラなんじゃないかしら」
「へぇ…すげーなそりゃあ。その数式とやらの詠唱なしで唱えられるなんてよ」
 魔法に興味がないハッサンも舌を巻いた。



「ほら、部屋の真ん中にあるでしょ?」
 バーバラが連れて来た場所は小さな密室空間で、部屋の奥の真ん中には紫色の球がぽつんと置かれている。彼女が言っていた通りにサッカーボールくらいの大きさで、何か強い魔力がこもっていた。
「最初は何かなーって思って触ろうとしたら、静電気みたいにバチバチして、ぴりぴり痛くて触れなかったんだよね。下手すれば火傷しちゃうくらい痛いんだもん。一寸たりとも動かしちゃだめって言われてる気がしてさ、変だよねえ」
「静電気…か」
 ためしにレックが触れてみた。
 ばちんと掌に弾かれた痛みが走った。
「うわーこりゃあなかなか触らしてくんねーなあ」
「でも、この玉はきっとあの宙に浮かんだ部屋と関係あるわね。その玉はこちら側の塔に二個あったのだから、もう二つも右側の塔にあるはず。全部で四つある事になるわ」
「ああ、あの浮かんでる部屋を繋いでるのも四つの稲妻。憶測だけど、この玉があの四つの稲妻を支えているんじゃないかなって思う…たぶん。よし、もう一度やってみる」
 レックが深呼吸をしてもう一度触れる。
「うぐぐ…くっ…」
 ばちばちと放電現象が巻き起こり、髪がぶわりと逆立つ。球の重さはそれほど重くないが、感触が痛くて不快である。鳥肌が粟立ち、全身に稲妻が走ったような痺れを感じ、すぐにでも手を離してしまいたいが、ここで離してしまえばすべてやり直しのような気がして放すわけにはいかない。
「おらーがんばれー田舎小僧〜!お前の力にかかっているんだあ!いけいけー」
「やっちゃえやっちゃえー!世界の果てまで動かしちゃえー!」
「あなた達呑気ねー」
(こいつらうぜー…)
 微笑しているミレーユはともかくとして、ハッサンとバーバラが人の気も知らないで他人事の様に声援を送っている。その応援が逆に鼻につき、見ていてなんだかレックは苛立ったが、動かすことに全神経を注いで渾身の力を込めた。
 なんとか最初から安置されていた場所から一メートルほど横へ動かすと、途端に紫の球体は音を立てて大きく破裂した。
「ふ、風船かよ」
 ハッサンは腰を抜かしている。
「びっくりしたあ。本当に風船割れた音みたいだったね。もしかして何か変わって…あ、見てよ外!」
 バーバラが指さすと、宙に浮かんだ部屋の稲妻が三つになっていた。
「つまり、今のように紫色の球体を横へ動かす事によって玉が消滅し、あの稲妻が消えるようね」
「よし、そうと決まったら残りの三つも動かすか…って、大丈夫かねレック君」
「何がレック君だ。人の気もしらねーでこの野郎。これ動かすのって相当体力いるんだぜ。いたた…」
 腕のしびれが先ほどから続いているが、徐々におさまっていく。結構な労力を消費してしまった。
「じゃあ、手分けして他のも動かすか。動かすの一人一回必ずやれよ」
「えー部外者のあたしもやるのお?」
 バーバラは不服そうな顔である。
「なら、ここでお別れだな。どっか行きたかったら他行けよ」
 ハッサンが腕を組んでスカした態度を見せた。
「うー…わ、わかったわよォ。ラーの鏡見てみたいし。行くとこないし…」
 ぶつくさ言いながらも、バーバラも手伝うことになった。


 こちら側のもう一つの球体もミレーユが動かし、向かい側のもう片方の塔へとのぼる。おなじみの敵さんと遭遇し、魔法と剣と拳で塔の隅々を席捲した。ミレーユの言った通り、こちら側の塔にも二つの紫色の球体が存在した。残りはバーバラとハッサンが嫌々なんとか動かし、すべての球体を消滅させると、宙に浮いた部屋を浮かばせていた稲妻はすべて消えた。
 浮遊力がなくなった部屋はゆっくりゆっくりと下降して、双子の塔の間に挟まれるように地上へ降り建った。レック達は急いで双子の塔を降りて中央へ走る。
「きゃっほーい!」
 遠慮なくバーバラがズカズカと小部屋へ一番乗りし、祭壇の元へ駆け寄った。祭壇の上には、B4サイズの綺麗な鏡が安置されている。
 それは円形状で見事なほど美しく、曇り一つない鏡。
 鏡の周りは緑色の流れるような波のデザインの縁に、青い宝玉がいくつか散りばめられてある。これこそが、夢の世界のレイドックで見た古文書の写真のとおりのラーの鏡であった。
「これがラーの鏡かァ。すっごい綺麗だねー」
 バーバラが何気なく手に持つと、それほど重みを感じないらしい。
「これで魔王ムドーの正体ってのがわかるわけかあ。わくわくしてきたぜえ」
 ハッサンは今まで以上に燃えている。
「ハッサンの奴、まるで戦えるのが楽しみみたいだな。好戦的な奴」
「だってよォ、やっぱ悪い奴をなんとかしないとっていう俺の正義感の血が騒ぐわけよ。お前らだってそうだろ?」
「ま、まあ…そうだけど」
 レックもミレーユも頷く。
「レックなんて困ってる人を放っておけない性質だもんな。魔王ムドーと戦いたいだろ?」
「戦いたいわけじゃないさ。戦わなくて済むならそれに越したことはない。ただ、みんなが笑って暮らせる世の中になればって思う。誰かのために自分が何かできないか…困っている人を守りたいっていうか…」
「ふふ、そういうのをね…勇者っていうのよ、レック」
 ミレーユが微笑む。
「勇者…」
 レックはどきりとした。
「ぷ、レックが勇者ァ?ふ…ぎゃはははは!腹いてえええ〜!」
 ハッサンがあまりのおかしさに抱腹絶倒している。
「う、うるせーなてめー!何がおかしいんだよっ」
「だってよお〜!レックが勇者って…なんか面白くてよォ。くくく…」
 妙にツボに入ったらしい。ツボに入るほどの事もないというのに。
「このやろ…」
 拳で一発ぶん殴ってやる勢いで構えた。
「ねーねー!あなた達は魔王ムドーと戦いに行くの?」
 レックがハッサンに天誅と言う名のゲンコツを食らわした後、バーバラが好奇心に目を光らせて訊いてきた。
「まあ…レイドックへ帰ったら結果的にそうなるだろうなあ。一応王宮兵士だし…」
「あたしも行きたいんだけど」
 笑顔で自分を指さすバーバラ。
「あん?何言ってんだよ。遊びじゃないんだぞ。そりゃあお前は魔法を使えるし、戦闘力は高いとは思うけど…」
「わかってるわよ。でも、あたし…記憶喪失で行くところないし、君たちしか頼れる人いないからさー…また一人になるの嫌だもん。これからの身の振り方だって全然わかんないし…。それにさ、あたしも同じ思いだよ。魔王ムドーってバカがこの世を苦しませてるなら、あたしも放っておけないって思うもの。あたしのこの魔法の力、みんなに役立てたい!いいでしょ?」
「バーバラ…」
「…まあ、こういうウルせー女が一人いてもいいかもな。根性もあるし、鼻っ柱は強そうだしよ」と、頭部のタンコブを押さえてハッサンが笑う。
「ウルせー女とは失礼ね!この可愛いレディに向かってデリカシーがないんだから。この筋肉バカ男!」
「うっせ、ちびギャル。そこまで元気があるなら、魔王ムドーも逃げていきそうじゃねえか」
「はは、そうだな。パーティ全体が明るくなりそうだし」
「ふふ、よろしくね、バーバラ」
「うん!よろしくみんな!」




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