DQ6 | ナノ
 5-3

 さらに奥深い階層に進むと、二人の盗賊風の細身の男といかつい男があわててこちらに向かって走ってきた。切羽詰まった様子で、汗だくで息を切らせている。
「おーい!あんたら…助けてくれ」
「どうしたんですか」
 レックが声をかけて近づくと、二人の男は手足を怪我している。
「石像みたいな魔物に襲われちまって…命辛々逃げてきたんだ」
「石像みたいな魔物?」
「最初はここへすごいお宝があるって探検気分で来てみたら、先に来てたはやてのイリアと疾風のジーナっていう噂の盗賊カップルが斬りあいしてたんだよ」
 いかつい男に続くように、もう片方の細身の男も話す。
「そ、それで…俺たち恐ろしくてずっと陰から見てたんだけど、あの二人…なんか様子がおかしかった。我を失ってた感じでよ」
「我を失ってた?」
「ああ。普通じゃなかった。なんかに操られてる感じだったよ。途中からはついにジーナはイリアを刺しちまうわ、へんてこな石像の化け物は現れるわで最悪な展開でよ…今はイリア一人がその石像と戦ってやがるんだ」
「俺たちは怖くてどうしようもなくて…途中その魔物に見つかって必死で逃げる事しかできなかった。はやくイリアを助けてあげないと…あいつ…ひどい怪我で戦ってて…マジであの石像の魔物に殺されちま…いてて」
 いかつい男が立ち上がろうとして、怪我の痛みで力が入らない。
「動かないで…今、傷の手当てするわ」
 ミレーユが鞄から救急セットを取り出す。
「ホイミは使わないんだな」
「ええ。本来、魔法より薬草や包帯で手当てをする方が身体的には安全なのよ。ホイミは精神力を使うし、もしもの時のためにここは薬草の方がいいの」
「ならミレーユ、あんたはこの二人の手当てを頼む。俺とハッサンがイリアさんを助けてくるよ」
 レックとハッサンは奥へ向かう。
「手当てが終わったらすぐに行くから!」



 最奥へ行くと、宝箱の祭壇の近くで一人の男と魔物が交戦している。
 例の若い盗賊風の男はやてのイリアだ。彼は今にも倒れそうで、血だらけの満身創痍の状態で剣を振り続けている。相手の魔物は悪魔と鳥のような外見に、赤く光った目、頭に生えている一本の触角、突き出したとがった耳、背中に生えた蝙蝠のような羽、全身は紫色の石の皮膚の風貌だった。
見るからに皮膚は硬そうだ。動きも素早くて油断ならない相手だろう。
「フギャアアア」
 魔物は甲高く鳴き、レックとハッサンを別の獲物だと定め、一気に襲い掛かってきた。
 二人めがけて鋭い爪が両腕でおろされる。
「「うわっ」」
 ハッサンとレックは左右同時に退いて避ける。爪の凄まじい威力に地面に亀裂が走った。
「あ、あいつ…ストーンビーストか!?」
 回転しながら着地するハッサン。
「いや、色違いだし…違うだろ。名前はわからないけど…。あ、イリアさん、あなたは隠れて休んでいてください。あとは俺たちに任せて」
「…お、お前たちは…いったい…」
 イリアは急に参戦してきた二人に呆気にとられている。
「フギャアーっ」
 続けて横にはらうような二撃目がレックにふりかかった。咄嗟に背中の破邪の剣を抜いて爪を受け止める。大きな金属音が鳴り響き、火花が散り、互いに力比べをするが、押し返されてしまう。
 レックは魔物と力負けして吹っ飛び、洞窟の壁に背中からぶち当たった。
「あたた…力は向こうの方が上だ…」
 背中を打ったようでズキズキする。
「おりゃああーこれならどうでい!」
 今度はハッサンが跳躍し、得意の飛び膝蹴りを魔物の顔面にかます。岩石を受けたような重い一撃に、魔物はもんどりうって倒れ、地面に転がる。
途端、「いってぇ〜!」と上ずった叫び声が洞窟中に響き渡った。
 痛がったのはもちろん魔物ではなくハッサンで、半泣きでひざをおさえてピョンピョンはねている。ハッサンの痛みを伴う飛び膝蹴りは、頭部が少しへこんだだけで大してダメージはあたえていないようだった。
「あいつ硬いな…レック、ルカニを使ってみたらどうだ?」
「ああ、わかってる。今魔法力を集中してる」
 レックが詠唱しながら掌に魔力を集中させている。が、その隙に魔物は第二の攻撃に移っていて、目を怪しく光らせた。
「いけない!あの目はメダパニの効果があるんだ!」
 イリアが近くの岩陰から叫ぶ。
「め、メダパニ!?」
 それを聞いて、咄嗟にレックとハッサンは目を伏せた。メダパニは相手を混乱させて同士討ちさせる残酷な効果がある。一度かかってしまうと、キアリクという覚醒魔法を唱えるか、かかった本人にショックをあたえない限り我には返らないのである。
 間一髪混乱せずに二人はやり過ごした。
「危なかった…!混乱させられたら終わりだもんな」
 二人は体勢を整えた。
「イリアさんとジーナさんが憑りつかれていたのは、奴のメダパニのせいか…」
 レックが原因を断定したその時、
「やべえ、逃げろ!!」
 ハッサンの必死な声にハッとすると、視線の先には魔物が動けないイリアに襲い掛からんとしていた。
 完全に虚を突かれレックは必死に駆ける。魔物は一瞬でイリアの前までたどり着き、鋭い爪が振りかざされた。イリアは怪我で動けずに立ちすくんでいる。二人も追いつけない。イリアは血の気が引いたように目をぎゅっととじた。



「ヒャドッ!!」
 その刹那――頼もしい声と共に、氷結魔法が飛んだ。
 今にも振り下ろされようとしていた爪はピタリと止まり、魔物の全身が瞬時に凍りついた。
「今だ!」
 氷像となった魔物に追いつき、破邪の剣で真横に斬りつける。魔物は上半身と下半身が分かれ、綺麗に断面すらも真っ二つになると、とどめとしてハッサンの拳二発を叩きこんだ。あっけなく粉々になると、辺りから魔物の気配がシーンとなくなった。親玉が倒れた事により洞窟は清浄化されたようだ。
「ふう、…ミレーユ助かったよ」
「間一髪だったわね」
 レックは剣を鞘におさめてイリアに近づく。
「大丈夫ですか?イリアさん」
「ああ…ありがとうよ、助かったよ。あんた達、俺の名前を知っているようだな。あの時、俺はあの宝箱の中身を手に取った途端急に手が動いてよ、頭はだめだってわかってんのに手がとまらなくて…それで愛するジーナに手をかけようとして…って、そういえば…ジーナは…ジーナはどこに!?」
 イリアは必死に顔をキョロキョロさせている。
「大丈夫。彼女は洞窟の入り口付近にいる。はやく行って安心させてあげないと。まずは簡単な手当てをしてからだ。ミレーユ」
「ええ、わかってるわ」
 鞄から例の救急セットと薬草を取り出した。
「かたじけねえ…」
 手当てを終えると、全員で出口を目指した。



「ジーナ!」
入り口付近で泣いていたジーナに声をかけた。
「い、イリア…!?」
 あまりにも夢のような光景に、ジーナは持っていた短刀を滑り落とした。
 洗っていた短刀からはすっかり血が落ちていて、このままどうしようかと考えていた矢先での事。
「あ、あんた…生きて…イリアっ」
 ジーナは次第に涙ぐむ。
「ああ、ジーナッ」
 恋人同士の二人は引き合う。
 求めるかのように抱擁しあい、激しい接吻をしあい、嬉し泣きを繰り返していた。
「あたし、あんたを殺しちまったかと思って…この鏡の鍵をあんたの形見にでもしようかと思ってたんだ」
「よせやい形見なんてよ。だいたい、おまえの攻撃くらいで俺様がそう簡単にくたばるもんかい」
「まあ。よく言うようになったじゃないか」
 再び抱き合い、レック達がいるのもおかまいなしにピンク色の雰囲気を前面にだしている。
「よかったわね…」
 ミレーユは微笑ましく見守っている。
「なんか恥ずかしいなァ。まあ、感動的なんだけどね」
 レックは顔を赤くしている。
「恋人っていうのは、ああいう風に乳繰り合うんだぜ。まあ、ウブなレックにはわかんないか」
 レックの背中をバンバン叩くハッサン。
「うるせーな!それくらいわかるっての」
「チューしてるとこ見ただけで、恥ずかしがってるやつがよく言うぜ」
「ハッサンだって顔赤いじゃないか。エラそうな事言って経験ないんだろ」
「う、うるせーやい!彼女いない歴年齢をナメンナヨ!」
「そ…そうなんだ」と、レックは笑いを押し殺していた。





「あんた達…世話になったね」
 ジーナとイリアが一通り落ち着きを取り戻し、改めてレック達に向き直った。
「せめてものお礼にこれをあげるよ」
 レックに指輪のようなものを手渡した。
「これは?」
「はやてのリングさ。身に付けると素早さが上昇するリングだよ」
「ありがとう…ございます…。えと、じゃなくて、あの…」
 鍵をという前に、イリアは颯爽と「じゃあな」と行ってしまった。それを追うように、「まってよイリア!あたしを置いてかないどくれ」と、ジーナも行ってしまう。
 三人はあまりの彼らの素早さにポカーンと口をあけて佇んだ。
「行っちまったな…どうする?」
 ハッサンの腹が盛大に鳴った。
「とりあえず俺達もアモールへ戻ろう。疲れたしさ」
「そうね。きっと、昨日みたいに教会で寝れば現実に帰れるはず。あそこは夢と現実が重なっている場所だから」



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