DQ6 | ナノ
 3-4

 昼食を食べ終えてまったりソファの上で寛いでいると、グランマーズが再び水晶をもってやってきた。
「さあて、お前さんたちの事だがね、やはり人から自分の姿が見えんというのは不便じゃろう?」
「ま、まあそうですね。このままじゃレイドックに行けないし…」
 レックが透明な自分の体を見ながら言った。
「そこでじゃ。お前たちの姿を見えるようにするには、夢見のしずくという物が必要じゃ」
「夢見のしずく?」
「あたしも夢見のしずくはよく使うんだけどね、今はそれを丁度切らしておってだな、取りに行きたい所なんじゃ。だが、その夢見のしずくは南の方角にある夢見の洞窟という奥の祭壇でしか手に入らない。今はたちの悪い凶悪な魔物がその洞窟に住み着いてしまってのぅ、ミレーユだけで取りに行かせるとなると心もとない。お前たちが夢見の洞窟へ取りに行ってほしいのじゃ」
 グランマーズが水晶に両手をかざして念じると、水晶に夢見の洞窟の様子が映し出される。
「え、俺達がですか?」
「そうじゃ。自分達が透明なのだから自分達の力で困難を解決する。これも修行だと思って行くといいぞ」
「まあ、このまま見えないなんて嫌ですしね」
「そういえば、なんでミレーユや婆さんは俺達が見えるんだ?」
「ふ、あたしはともかくとして、ミレーユも元はお前さんたちと同じだったからじゃ」
「同じ?」と、ミレーユの方を見る。
「私も元はあなた達と同じで、透明で誰からも見えなかったのよ。それでおばあちゃんが助けてくれたの。一度精神体となって見えなくなった人間は、他の精神体も見えるようになるのよ」
「ほーそうだったのか。でもなんでばあさんは見えるんだよ」
「それは占い師においての企業秘密ぢゃ!教えることはできん」
「企業秘密って…いろいろ謎だよなあ」
 悪意がなければ別段知りたいとはそれほど思わない。でもいろいろと謎が残る老婆である。
「とにかく、はやく夢見のしずくを取ってくるんじゃ。話はそれからだね。ミレーユ、お前さんも道案内としてついてっておあげ」
「はい」


 夢見の洞窟は昔は神聖な儀式に使う鍾乳洞であったが、しずくのその甘い香りが好物な魔物を呼びよせてしまい、そのまま洞窟を乗っ取り、しまいには洞窟内はいろんな魔物であふれかえるようになってしまったらしい。
 今じゃあその魔物のせいで、観光客どころか腕のたつ旅人でさえ近寄らなくなった。夢見のしずくを欲しがる研究者達にとっては痛手である。
 夢見のしずくは透明な物体を鮮明に写し出す効果があり、大変貴重な物。往年、ありとあらゆる研究材料に重宝し、喉から手が出るほど欲しがる者が後を絶たない。ここでしかそれがとれないなら尚更だ。
 そんな一番奥にはこの洞窟を牛耳る親玉が住み処にしている。グランマーズ曰く、そいつを倒せば洞窟内も綺麗に浄化され、元の綺麗な鍾乳洞に戻るという。
 どうせ奥の魔物を倒さない限り、しずくを持って帰れはしないだろうとの事から、魔物退治もついでに頼まれてしまった。
「ぶえっくしょん!」
 ハッサンが大きなくしゃみをかました。ひんやりとした洞窟内で反響している。結構な肌寒さを感じるので無理もない。
「びっくりした。ハッサンのくしゃみは突然すぎるんだよ」
 心臓にわるいとばかりに、レックは魔物の気配を読む集中力が切れた。
「しょうがねーだろ。なんか下に行けばいくほど冷え込んでるしよ…それに」
「ハッサン伏せて」
 突然ミレーユが懐からナイフを出す。
 わけもわからずに「ひっ」と、ハッサンが上ずった声をあげて伏せると、ナイフを投げつけた。
 ナイフはハッサンの背後に迫っていたベビーゴイルの急所に刺さり、絶命する。
「ひぇ〜…い、いたのかよ」
 全く気が付かなかったらしいハッサン。ベビーゴイルは跡形もなく消え去ると、わずかばかりのお金を落とした。ミレーユがナイフを拾い上げる。
「気を付けてよ。魔物がいるって言っていたでしょう」
 氷の様に凍てついた目で言った。
 先ほどの柔和な微笑みを浮かべていた彼女はいない。
「…強いじゃないか」
 レックがミレーユを見つめる。
「常に感を働かせておくようにって言ったのはあなたよ」
「え?」
 なんのことだ、とレック。
 ミレーユはすぐにふっと笑う。
「なんてね。奥へ行く事によって魔物が増えているわ。油断しないでちょうだいね」




「うめえ、うめえ。ぐびぐび。このしずくはマジでうまいぜ」
 夢見の洞窟の最下層、悪魔のような緑色の魔物がツボに溢れんばかりのしずくを貪っている。
 かつては神聖なしずくを生む祭壇であったこの場所は、このブラディーポやその他の魔物達によって穢されていた。
 せっかくのしずくも、この魔物のせいで大きな壺半分以上は飲み干されてしまっている。
「ブラディーポ様、ブラディーポ様!大変でございます」
 数匹のヘルホーネットが慌てて飛んでくる。
「なんだ騒々しい」
「変な人間どもがこちらへ向かっています」
「なんだと!」
 ブラディーポが驚いたその時だった。
「そこまでだ!夢見のしずくを飲み荒らす魔物共め!」
 連中が驚いたのもつかの間、レック達はすぐそばにきていた。
「お前らか。この洞窟に忍び込んだ人間どもは。そんな命知らずは俺様が食ってやるよ。丁度つまみがほしかった頃だからな」
「なにをー!俺らなんか食べてもうまくねーよっ!」
 ハッサンが迫りくるヘルホーネット数匹に回し蹴りを見舞いした。
「いや、俺やミレーユはともかくとして、ハッサンは筋肉モリモリだから肉が有り余って歯ごたえありそうだからいけるんじゃない?」
 言いながら、レックはあっさり残党のベビーゴイルを斬り捨てた。
「レック!てめー俺があの緑の化けモンにくわれてもいいのかー!」
「食われても死ななそうな間抜け面してるくせに」
「んだとお」
「あんだよ」
「もう二人とも!漫才している場合じゃないでしょう」
 ミレーユが呆れながら最後の雑魚にとどめをさすと、残りはブラディーポ一匹のみ。
「貴様らよくも子分どもをやってくれやがったな!人間の分際で。この俺自ら引導をわたしてくれるわ!」
 ブラディーポの硬くて弾力ある長い尻尾が、レックとハッサンに襲い掛かる。
「うわっ!」
「ぐわ!」
 レックが剣ごとはじかれ、ハッサンは尻尾に吹き飛んで岩壁に叩きつけられた。
「いってぇー!硬い尻尾だな」
 腰を打ったハッサン。
「あいつ守備力はなかなか高いようだな。ならば…」
 レックは魔法を詠唱する事にした。
 流れるように楕円に片手を動かし、小さな白光の魔法陣を作る。物理的に守備が硬い敵の守備力を下げる補助魔法の一つである。
 なぜこんな魔法が使えるのか自分でもわからないが、いつの間にか体得していた。
 右手に魔力を集中させ、ブラディーポに掌を向けて静かに唱えた。
「ルカ二」と――。
 青白い負のオーラがブラディーポを包む。体に重力がかかった。
「なっ…くそ体がっ…人間が魔法を使いやがるだとお!生意気な!」
 守備が低下した体は俄然重くなり、脆くて物理攻撃を受けやすくなった。
 レックは再び剣をかまえて立ち向かう。
「ハッサン大丈夫?…ホイミ」
 ミレーユが倒れているハッサンに近づき、念じながら掌を傷口にかざした。
 掌から癒しの光が注がれ、ハッサンが受けた傷がたちまちふさがっていく。
「おお、ありがてぇ。これが回復魔法か。レックはホイミできるくせに薬草で我慢しろって今まで使ってくれなかったからな」
 その愚痴がレックの耳にも入った。
「うるせーなァ…あいつ余計な事思い出しやがって」
 ブラディーポの連続攻撃をふせぎながらぼやく。
「ちきしょう。奴ら回復魔法まで唱えやがるのか!人間どもめ…なめた真似を」
「回復だけだと思ったら大間違いよ」
 ミレーユがすぐに立ち上がり、神経を集中させる。彼女が何かするんだと察知し、レックは退いた。
「くらいなさい」
 ミレーユが早口で詠唱しだすと、額のサークレットが魔力を高めて輝く。
青色の魔法陣を描き、高めた魔力を掌に集させる。敵に向けて高らかに叫んだ。
「ヒャド!」
「なっ!ぐあああー!」
 無数の氷の刃がブラディーポの体を貫通させ、氷づかせる。みるみるうちに体が凍てついていき、それが全身に及んでいく。奴は氷の氷像となり全く動かなくなった。
 氷結魔法はミレーユが最も得意とする魔法で、最も使用率が高い。
 一般でも火球系魔法に次いで二番目にポピュラーな魔法の一つ。
ブラディーポには絶大な効果をもたらし、三人はやったかと溜息を吐く。が――…
「ちっきしょおおう!よくもおお!」
 自力で氷像を打ち破り、脱出した。まだ息絶えてはいなかった。
「ヒュウ、しぶとい野郎だな。ミレーユの魔法をくらったのに…」
 ハッサンが呑気に口笛を吹いている。
「人間どもめ…われら魔族をバカにしおってからに!」
 よだれと体液、紫色のどす黒い血を大量に巻き垂らし、今にもブラディーポはほっといても息絶えそうだが、このまま終わらせてはくれなさそうだ。
 目がぎょろりとしていて、怒りで理性を完全に失っている。こういう怒りで我を失った敵は何をしでかすかわからない。
「そこの魔法を唱えた生意気女だけは殺してくれるわ!しねえっ!」
 最後の攻撃とばかりに、近くにいたミレーユに襲い掛かった。



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