DQ6 | ナノ
 2-3

「まさか…本当にお前のような若者がやり遂げて帰ってくるとは」

 ソルディも大層驚きの様子であった。
 あの素っ頓狂な質問をした若者は、その好奇心だけで偉業を達成してしまったのだ。兵士を志願をする者は、大抵二十歳を過ぎた男性が適齢なのだが、レックは16歳という史上最年少で試練の塔を制覇してしまったどころか、レイドック最強のネルソンまでも凌駕したとなると、全兵士の話題の的となった。

「これで、王様にあえますかね?」
「何を言う。まだお前の実力を私は知らんのでな。何か大きな手柄一つたててこない限りは、陛下に会わせるわけにはいかんよ」
「…ですよねー…」
 そう簡単に王に会えれば苦労はしないというもの。レックはしょんぼり肩を落とす。
「ふ、そう落胆するな。お前ほどの実力なら、今後の活躍次第で私が直々に陛下への謁見を頼みこもう」
「本当ですか?」
 レックの目に輝きが戻る。
「本当だとも。あのネルソン程の強者を倒せたくらいだからな。その若さでたいしたものだな」
「そうですかね。これでもぼかぁ実力の半分しかだしてなくて…」
「何!?」
 ソルディが声を荒立てると、ハッとしてレックは口をつぐむ。
「え、いや…ま、まあちょっと苦戦したかなーなんて…あははは」
 曖昧に言い換えても、ソルディの驚いた顔は変わらない。
「むぅ…底知れぬ奴だな。しかし、お前のようなとんでもない天才肌の若者が兵士になってくれて私も嬉しいよ。今後が楽しみだ。その力、ぜひ陛下と民のために役立ててほしい」
「は、はい」
 手柄をたてれば王様に会えるという希望を持った。
「うむ。では今は新たな指令もないから、しばらく城の中でも見学しているといい。困った者がいたら兵士として助けてあげるように」




 レイドックの王宮の中はとてつもなく広い。
 見学をしていろと言われたものの、下手をすれば一階だけで迷子になってしまう恐れがありそうだ。

 一階は主に大食堂や厨房、レイドックの歴史の展示場、広い庭園等がある中庭となっている。二階は宿泊客などの客間や会議室、大図書館などが中心で、三階は主に作戦司令室や兵隊達の宿舎。四階は玉座や王族のみが住まう事を許された宮殿の中枢部分である。地下も存在し、罪人を服役させる牢屋や宝物庫なども存在する。

 この荘厳な王宮は今年で丁度四千年目となり、長い歴史と古い文化がこびりついていた。古いと言っても、宮殿自体が特別な魔力が施された石でできているために、地震やちょっとやそっとの攻撃にはびくともしない構造となっている。

 レックは王宮の一階をブラブラ見学していると、展示場に飾られてある大きな額縁をなんとなく眺めた。歴代の王族の肖像画がずらりと並んでいる。
 四千年前に建国してからの初代王から現代までの顔ぶれだった。別にこれといって気になる者がいるわけではないが、なぜか妙に懐かしい感じがした。たしかにライフコッドで歴史の授業を受けた時に、これらの歴史上の偉人の勉強はしたので名前と顔は知っている。たぶんそれもあって考えすぎだろうとは思うが、一瞬だけ知っているような感覚を抱いたのは気のせいだろうか。考えすぎには間違いないだろうけれど…。

 ふらりと中庭の方までやってくると、花畑の向こう側の芝生の上で、年老いた老人が何やら悲しそうに座り込んでいる。そばには大きな客車が一台。

「どうしたんですか?」
「ああ、おぬしは例の新人兵士か。あのネルソンを倒し、史上最年少で兵隊になったという」
「げ。噂ってはやいなあ」
 もうレックの噂が兵士だけに留まらず、王宮で働く者の耳にまで届いていた。
「まあわしにとっては兵隊云々とかそんな事より、今は馬の方が大事じゃ」
「馬?」
 レックの目が点になる。
「この王家に伝わる馬車を引ける馬が最近亡くなってしもうてな、その馬を探しておるんじゃがなかなか見つからないんじゃ。この馬車は歴代の王様が乗ったという由緒正しきものでのぅ。立派すぎて重すぎるとはいえ、馬一頭見つからないとは情けない話じゃ。どこかに威勢のいい馬はおらんかのぅ」
「威勢がいい馬、ですか…うーん…あ」

 そういえばこのレイドックへ来る前に、前を歩いていた旅の商人が暴れ馬に襲われた事について噂していたのを耳にした。
 西の方角で商人仲間が野営をしていたところ、とても大きな白い馬が突然現れ、びっくりして怪我をしてしまったと話していた。馬も臆病なのかすぐに逃げて行ってしまい、襲うというよりかは怯えて警戒しているような様子だったという。
 それ以外にも、数多くの人が暴れ馬に遭遇したという話をしていた。今もその暴れ馬が西の方にいるかはわからないが、いるとすれば――…

「おじいさん。もしかしたらですけど、その威勢のいい馬を連れて来ることができるかも」
 レックはひらめいた。
「何、本当か」
「まあ、探してみないとわからないんですけど、明日までちょっと待ってもらえますか?」



 レイドックの西の森は、暴れ馬の他にも巷で有名な山賊も出るという噂もあった。
 無防備な旅人を襲っては金品を奪い取るという、魔王ムドー以外での旅人達の不安の材料となっている。
 そんな噂もレックは知ってか知らずか、ひたすら石ころだらけの荒地をひた進んでいた。先ほど「暴れ馬注意」という立札を見つけて間もなく、噂が正しければこの辺にいるはずだが…と、レックは森の中を見渡した。奥から数人ばかりの人の気配を感じる。

「そこのガキ、命がほしければ金と武器をおいていけ」
 いたのはガラの悪そうな例の山賊数名であった。
「あのーちょっと聞きたいんですけど、ここらへんに暴れ馬ってみませんでした?」
 レックは山賊相手にもひるまずに、普通の町人相手に話しかける態度で接した。
「あん?暴れ馬だとお?もしかして最近子分どもが捕まえた白い馬の事かな。あの馬は結構綺麗だから売れば高くなりそうだしよォ、まあとにかく金品をよこしやがれ!」
 山賊のリーダーがレックに刀の切っ先を向ける。
「いきなり刃物を向けるなんて無礼だな。ぼく、貧乏な旅人だからそんな金なんて持ってませんよ。ほら」
 証拠とばかりに懐から金袋を取り出した。ご丁寧に掌の上に出してみせると、数枚の銀貨がちゃりんと出てくる。恥ずかしながら、薬草数個分買えるか程度しか持ち合わせていない。
「ちっ…しけてやがるな。まあそんなナリじゃあ金なんて期待はしていなかったがな。ならばその背中に背負っている立派な剣をいただこうか。売れば金になりそうだ」
「だめだめ。これは両親の形見なんだからやらないよ」
 破邪の剣の価値はレックにはわからないが、これだけは渡せない。
「ならばここで刀のサビになっちまうがいいぜ!おい、やろーどもやっちまえい」

 リーダー格が手下の子分達に命令を下す。レックはやれやれという面倒くさそうな顔をしたその時――…

「おいおい、そいつは俺の大事な相棒よ!手出しはしねえでもらいたいな」
 どこからともなく知っているような声が聞こえてきた。どこだったかなあと考える前に、その声の主が颯爽と飛びだしてレックの前で着地した。
「お、お前は…………だれだっけ?」
 男は盛大にずっこけた。せっかくの決まった登場シーンも台無しである。
「おいおい、もう忘れちまったのかよ!試練の塔であっただろうが」
「あーえっと…うーんと…あ!ハッサンだ」と、ポンと両手を叩いた。
「思い出したよ。ハッサンだな。たしか男のカンだとかほざいて、間違えて不正解の部屋へ飛び込んで、自滅して教会送りにされた奴だろ」
 試練の塔でのハッサンの(無様な)光景を思い出す。
「やっと思い出したか。っつーか教会送りにされた余計な事まで逐一覚えてんじゃねーよ!せっかく俺様が一緒に暴れ馬を探しに行ってやろうと思ったのによ、先に行っちまってて、挙句の果てにはこんな雑魚の山賊に絡まれてんだもんなぁ」
「え、なんで俺が暴れ馬探しに行くってわかったんだよ」
「城にいたじいさんに聞いたんだ。青い髪の新米兵士が馬を探しに行ったって聞いたら、噂の暴れ馬の事だろうってぴんときてよ」
「へえ…そこまで頭が回るのに、なんで試練の塔の部屋はクリアできなかったんだろうなぁ?」
 レックは得意げににやりと笑うと、ハッサンは顔を真っ赤にしている。
「う、うるせーな!あれとこれとは違うんだばーろめ!」
「まあとにかく、暴れ馬を探しにきたんなら目的は同じゃないか」
「そうだ。うまくいけば暴れ馬を捕まえて俺も兵士にしてもらえるかもしれねーし」
「お前、それが目的だったんだろ」
「ふふん。じゃないとはるばるレイドックまで来た甲斐がねえだろ。レイドック兵士っていえば給料もいいからな。飯もうめーらしいし。旅の武道家としてはいい手に職だと思ったんだよ。治安を守りながら敵を倒すなんて俺の天職じゃねーか。頭を使う任務はできそうもねーけどよ」
「ふふ…いいんじゃないか?ハッサンみたいなパワーバカみたいな兵士が一人いても」
 そういう奴は嫌いではない。むしろ付き合いやすそうだとレックは思った。
「おい。貴様ら」

 山賊がやっと二人の会話に入れたという顔で声をかけた。

「え?」
「なんだよ」
 二人が同時に振り向く。
「俺たちの事忘れてただろ」
 山賊達が怒りにぷるぷるしている。
「あ……ごめん、忘れてた」
「俺なんて完っ璧忘れてたぜ。つーかお前ら誰だっけ」
「ていうかまだいたんだ」
「っぐ…てめえら〜〜人を馬鹿にしやがってぇえ〜もう怒った!野郎ども、とびかかれーー!!」
 山賊たちが一斉にレックとハッサンに襲い掛かった。死闘?がはじまる。


 数分後、二人であっという間にこてんぱんに叩きのめしたことは言うまでもない。
「手ごたえなかったな」
 ハッサンは久しぶりの運動につまらなさそうにぼやいた。
「まあ魔物じゃなくてひ弱な人間だから。暴れ馬も近くの洞穴に檻で閉じ込めたってこいつらが言ってたし、探しに行かないと」
 二人はやっつけた山賊達を縄で縛る。連中は気絶して目を回していて、あとでレイドックの憲兵隊にでも身柄を引き渡すつもりだ。
「それにしてもお前、やっぱ相当な腕だな」
「ハッサンだって、旅の武道家を名乗るだけあって相当な怪力じゃないか」
「ていうか、お前とはなんか初めて会ったような気がしないんだよ」
「奇遇だな…俺もだよ」
 二人は妙に意気投合した。



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