DQ6 | ナノ
 22-3

「やめてぇー!」
 悲痛に叫び、珍しく取り乱すミレーユ。
「誰か止めてッ…あの子は…あの子はっ!」
「ミレーユ…!?」
 張りつめた空気の中で、剣同士のぶつかり合いが熾烈を極める。
 火花が散るほどの金属音はしばらく鳴りやまない。二人の戦いの様子を固唾を飲んで見守る仲間達。泣きそうな顔のミレーユ。
 テリーの剣術の腕は半端ではなかった。さすがは地上最強の男と言われているだけあって、気を抜けば自分が串刺しにされかねない。
「死ねっ」
「うぁっ…」
 一瞬の迷いで脇に突きをくらい、脇腹から赤い血が滲む。すかさず怯んだところを、もう一度テリーの突きが襲う。間一髪避け、翻って彼の二の腕を反射的に斬りつけた。
「あッ…すまないテリー」
 ついしてしまったと後悔するが、どうも彼の様子がおかしい。
「グアアアア!」
 その声はテリー自身のものではなかった。
 斬りつけた場所から、黒い幽体のような煙が立ちのぼっている。
 もしかして、彼の中に潜んでいる魔物ではないだろうか。たしか、このラミアスの剣は破邪の剣の効果も付与されているはず。ならば…邪を断ち、聖を生かす事もできるはず。勇者の持つ浄化の力とラミアスの破邪の効果で、彼を殺さず、彼の中に潜む魔物だけを滅ぼす事だってできるはずだ。魔術師の塔で悪の心だけを斬った時のように。
「テリー…!お前の中にいる魔物をオレが斬ってやる」
「グオオオオ」
「今、楽にしてやる」
 襲い掛かってくるテリーと待ち受けるレック。
 二つの剣が一瞬の攻防でぶつかった。
「………」
「………」
 両者は背中を向け合ったまましばらく動かず、剣を持ったまま静止。
 レックの肩から鮮血が流れ出て仲間達がヒヤリとするが、一方でテリーが傾いた。
「ぐ…ああ…あ…ばかな…この男の体を乗っ取ったと…いうのに…」
 テリーの体がぐらりと両膝をつくと、破壊の剣が彼の手から床に転がり、前触れもなく消え去った。そのまま倒れて体から全ての煙があふれ、彼を包んでいた魔物の気配もなくなった。
「テリーは…」
 仲間達が走ってくる。
「テリーは気絶しているだけだ。これで彼は正気に戻った」
 レックはキッとデュランを蒼い瞳で睨みつけた。
「高みの見物もそこまでにしたらどうだ!」
「…ふふ…そうだな。…やはり、お前を倒すのはこの私のようだ」
 マントを翻し、デュランが気合を入れる。
 それだけで城全体が揺れ、台風のように風力が巻き起こる。
「うわあ!」
「きゃあ!」
 全員あっけなく吹き飛び、壁にぶち当たったりもんどりうったりしている。
「さあ、かかってくるがいい!勇者とその仲間達よ」
 デュランが高い天井に届きそうなくらい飛び上がり、目にもとまらぬ早業で斬りつけてきた。強力な両刃刀で。
 近くにいたハッサンやチャモロが襲われ、全身をズタズタに引き裂かれて倒れる。
「ハッサン!チャモローッ!」
 続いて高速回転し、ムーンサルトで別方向へ突っ込んでくる。周辺にいたアモスやミレーユやバーバラが傷ついて吹っ飛ぶ。三人もそのまま昏倒した。
「みんな…!」
 全員が気絶して倒れ伏した中で、あっという間に立っているのは自分だけになってしまった。デュランはそのまま高速で動く。
「レックよ。お前の真の力を見せてみるがいい。じゃなければ、私には勝てぬぞ」
「ッ…!」
 いつの間にか背後に迫っていたデュランを、振り向きざまにラミアスを振るうもとらえられない。
(はやい!なんてスピードだ…追いつけない)
 何度振り回すも空を切るばかり。目にもとまらぬ速さに次から次へと翻弄される。
 次第に焦燥しだす頃合いに、
「おそいぞ、レックよ」
 言葉と共に、神速でドッと顔を数発殴りつけられ、腹を蹴とばされた。
「ぐっ…げほっ…げほっ…」
 腹を押さえながらもんどりうって転がり、むせあがる様に血を吐いて咳き込むレック。
 殴られた鼻から血が滴り、先ほどテリーに受けた肩と脇腹の傷からも鮮血が流れたまま。体勢を整える前に、デュランは待ち構えていたようにレックの首を片手で掴んで宙づりに持ち上げた。
「この程度だったとは残念だ、イズュラーヒンよ。全然私の速さに追いついてこれないではないか」
「ぐ…ぅぁあっ…」
 ぎりぎりと首を絞められてあえいだ。
 声をあげようにも声が出ない。
「このまま首を握りつぶしてくれようか…。勇者の生首はそれはそれは大層価値があるからな」
 ますます強く締め上げられた。
「ぅぐ…ぁあぁぁっ……」
 視界がぼやける。
 このままでは…やられてしまう。
 死んでしまう。全滅…する。
 そんなのだめだ。
(ここで終わるだなんて…絶対嫌だッ!)
 その心の声に呼応したかのように、近くに転がっていたラミアスの剣が反応を示した。
「なっ?…ぐあああ!」
 ラミアスの剣がレックと共鳴する。目がくらむような浄化の光がレックの体に迸り、持っていられないとばかりに、デュランは掴んでいた手を振りほどいた。レックは脱力したように床に跪く。
 首を押さえながら荒く呼吸を整えると、床に転がっていたラミアスを手に取り、再び蒼いセレストブルーの瞳でデュランを睨みつける。
「…負けない…!貴様などに…負けるものか!」
 蒼白い浄化の光を帯びたまま、レックはさらに闘志を燃え滾らせる。
「ふふ…ならば…今すぐ死ぬがいい!!」
 怒号と共にデュランが突進してくる。
 逃げない。
 逃げるものか。
 今度こそ、奴を浄化させなければならない。
(いくぞ、ラミアス!)
 剣から途方もないエネルギーが自分に伝わってくる。
 この剣は自分と一心同体であり、命で繋がっている。
 剣は自分であり、また自分も剣。今こそ、ラミアスと一体化する時。
「はぁああ…」
 ラミアスの刀身に黄金の稲妻が宿り、木の幹枝のように姿を変えた。そして、構える。
「ギ、ガ、……スラァアアーーシュッ!!」
 飛んできたデュランを、途方もないエネルギーを込めた必殺剣で吹っ飛ばした。まるで横に薙ぎ払うように。
「ぐはぁあああ!」
 デュランはそのまま勢い余って吹っ飛び、もんどりうって倒れ、仰向けのまま腹に大きな風穴をあけていた。紫色の血を吐き流し、痛みにあえいでいるものの、口元は不気味に笑ったままだった。まだしぶとく笑える余裕があるのかと焦ったが、そうでもないらしい。
「み、見事だ…完全に私の負けだ……」
 潔く自ら敗北を認めた。
「だが、まだ終わりではない。私は強い者が好きだ。だから、お前に教えよう。ムドー、ジャミラス、グラコス、そして私デュランは大魔王様の手駒にすぎぬ」
「…大魔王…」
 レックは目を細めてデュランを見下ろす。
「我らが主の名は大魔王デスタムーア様」
「…デスタムーア…」
 ついにこの歪な魔王の頂点に立つ者の名前を聞くことができた。
 デスタムーア――…彼奴がすべての支配者。レックは鳥肌がたった。
「様々な術を使い…我ら等まともに戦う事すらできぬ……。だから…強くなれ!もっと強くなるのだ。それらの…術を…跳ね返すほどに…」
「言われなくても強くなってやるさ…!必ず…そいつを倒すほどに」
 レックがセレストブルーの瞳をそのままに言った。
「ふふふ…イズュラーヒンよ……いや、勇者レックよ…今度…私が…生まれかわった時も…お主と戦いたいものだな……ぐふっ!」
 笑みを浮かべながら、デュランは満足げに空気中に溶け込むように消えた。
「…勝った…よかっ…た」
 脱力したようにふらつき、レックはその場で仰向けに倒れて気を失った。




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