DQ6 | ナノ
 22-2

 墜落した城へ勇者一行は乗り込んだ。
 魔物たちの巣窟となっているヘルクラウド城である。
 元はゼニス王の城で、神聖な城もこの通り魔物共に占拠されていた。元々の美しい外観は大きく魔改造され、壁や床は薄汚れ、空気は邪気まみれである。まさしく動く魔の城となっていた。
 レック達は入口の長い階段をかけのぼり、その先にお出ましたのは門番の雑魚魔物だった。
「キキーッ!?貴様ら何者だ!」
「貴様たちこそ何をしている」と、レック。
「城の中まで入って来れるとはキーッ!ただ者ではないな!」
「…かと言って、われらが同胞のようにも見えないし…」
 魔物がジロジロ一同を見ている。
「おい、やっぱりこいつら…例の勇者かもしれないぜキキー。ほら、さっきこの城が何者かに襲われたらしいって操縦士から聞いたじゃねえかキキ」
「キキッ!勇者だろうがなんだろうがそんなことはどうでもいい。招かれざる客にはそれなりのオモテナシをさせてやろうぜ!」
 レック達と魔物達の睨みあいから、一触即発を孕んだその時―――
『まて…!』と、威厳ありそうな声がどこからともなく響いてきた。
「こ、これは…デュ…デュラン様!?」
「デュラン様だギギッ」
 魔物たちが狼狽えている。
『その者達は私の大事な客人だ。そそうのないように丁重にお通ししろ』
「は、ははっ!」
 二匹はぴんと背筋をのばして畏まる。
「へっ!貴様らがデュラン様の客人とはなギギッ」
「さっさと通れギギッ」
 魔物たちが右左へずらかると、レック達はさっさと通り過ぎ、また長い階段をのぼる。
 大勢の魔物どもからの威嚇するような視線を感じるも、目線を真っ直ぐ前にしてやり過ごす。自分たちを仇名す相手に歓迎ムードなどありはしないだろうが、そのデュランからはなぜか悦に入った声根に聞こえた気がした。
「デュラン…ってのが、今回の魔王の名前なんだろうな」
「あのアホ魔王グラコスより、声からしてよっぽど強そうな雰囲気だったね」
「最後の魔王だからきっと手ごわいはずよ」
「あ、見て下さい。巨大な扉ですよ。あの扉をくぐった先に…」
 全員は再度気を引き締めた。
 この感じは魔王ムドーやジャミラスで感じたものと一緒だ。ビリビリした威圧感が扉を一枚隔てていても伝わってくる。
 それも今までとは比べ物にならないほどの邪気を孕んでいる。この奥に、この城を拿捕した支配者がいるのだと。
 扉を開け、長い階段をつきあがった先には、恐ろしく広い豪華絢爛な玉座の間が広がっていた。
 その奥の中心に大きな玉座にふんぞり返っているのは、魔物にしては端正な顔をした威厳ある魔王の一人デュラン。一目見て今までの魔王以上に強そうだ。
 裸に近い軽装にしては無防備さなど感じられず、強靭な肉体であるつややかな赤胴色の皮膚を惜しげもなく出している。手には頑丈な魔物の首など息を吸うかのごとく吹っ飛ばしてしまいそうな両刃刀。王者の証とでも言うような紫紺のマントを翻し、やって来た勇者一行をいきなり開口一番歓迎した。
「よくぞ来た。伝説の勇者一行よ。私は歓迎する」
 デュランは一番前にいるレックの姿を見てにやりとする。
 今までの魔王とは全く違ったタイプで、予想外な紳士的態度に一同は唖然とした。
「ほほう…たしかに伝説の四つの武具を持っているな」
 レックは知らないうちに、隠していたはずの伝説の装備を身に纏った姿をむき出しにされていた。あまりにも強い邪気なため、防具の聖なるバリアが自然と発動したらしい。
「敵ながら見事なものよ。世界中に散らばる伝説の武具すべてを集められる程の人間がいるとなれば、その者はかならずや我ら魔族にとって厄介な存在になるであろうと…。だが…」
 すっと玉座を立ち上がる。
 気取った足取りで祭壇を降り、こちらに近づいてきた。
「勇者よ…そなたの口から名前をお教え願おう」
「レック…」
 奴の恐ろしい瞳に見つめられ、声に緊張が孕んでいる。
 なぜだろう。
 この者と話していると、なぜか震えがとまらない。
 まさか、怖気づいているのか…?
 今までで一度たりとも、敵に怯えたことなどなかったというのに。
「ふふふ…レックか。素晴らしい…。勇者と名乗る者など所詮は自称に過ぎず、ただのひ弱な人間だと思っていたが、どうやらお前はただの人間ではないようだな。勇者の称号を与えられた真の勇者だったわけだ」
 デュランはレックから底知れぬ何かを感じ取り、恍惚と喜悦に口元をゆがめた。悪寒を感じたレックは震える。デュランの底知れぬ不気味さに。慇懃めいた親しい態度に。
「正直言って私はうれしいぞ!よもや、すべての武具を集められる人間などこの世にいるはずもないと思っていたからな。たとえ勇者と言えども、すべてを揃えるには至難この上ない。ふふふ、その実力どれほどのものか。久方ぶりに血がさわぐわ!」
「……っ…く…」
 どうしてか、やはり恐怖する。ラミアスの剣を握る手が汗ばんでいて、剣先に乱れが起きている。ここまで自分が怯えているだなんてありえない。どうしたって言うんだ。
 奴はそれほどまでに他の魔王とは次元が違うというのか。それとも、ただ奴に威嚇されてビビっているだけか。
「ああ、一応聞いておこう。レックよ、お前が望むのなら、我が配下にしてやってもよいぞ?」
「なんだとっ!」
 レックは眉根をひそめる。
「お前は今まで会ったどんな自称勇者よりも強いだろう。そして、どんな人間よりも美しい無垢で澄んだ心を持っている。そんな穢れのない人間は、だれよりも希少価値がある宝石同然。もしそんな綺麗な人間が、限りない血と邪悪に染まった時、どれほど荒んだ人間になるかが…大層見ものだからなァ」
 全身に身の毛がよだつ悪寒が走ったと共に、レックは憤怒した。
「ふざけるな!誰が貴様などの配下に下るかっ!冗談でもおもしろくもなんともない」
「いいのかね?この偉大な魔王デュランに仕えることは、実質的に大魔王様の右腕になるも同然。永劫鳥かごの中の庇護下におかれ、可愛がり、寵愛してやろうというのだぞ。お前はその絶好の機会を逃すことになるのだが?」
「気色の悪い事を…!何度言おうが、オレは貴様ら魔王の配下にくだるつもりはない!」
 ラミアスを持ちかえて凛々しく宣言する。
「オレは生涯普通の人間として、自分勝手に人間を仇名す魔族を今までも、そしてこれからもゆるさないのだから!たとえそれで自分が命を落とす事になろうとも、オレはその選択を間違いだとは絶対に思わないだろう」
 レックは瞳を真っ青な蒼に染めた。青白いオーラを纏い、威容ある勇者の色に染め上げる。
 勇者として、人々を守りたい。
 泣いて困っている人を助けたい。
 人として当たり前の幸せを奪う魔族を許せない。
 ――ただそれだけの事。
「ふふ…そうか。やはりな」
 期待外れだと言わんばかりに、デュランから微笑みが消えた。先ほどまでの親しみはなくなり、凍てつくような表情に豹変する。
「ならば、ここで地獄を見るがいい。せっかくの機会を台無しにした代償は死んで詫びていただくほかない。そこまで言いきったのだ。勇者として、高貴な王族として、無様な命乞いはするなよ?イズュラーヒン・クルス・レイドック…いや、勇者レックよ。…いでよ!我がしもべよ! 」
 デュランが高らかに叫ぶと、ランドアーマーとキラーマジンガが奥から現れた。
 この地上ではほとんど見かけない魔物ゆえに、デュランがどこぞから連れてきた雑魚魔物にしては強敵な二匹だ。
「スクルトッ!」
 チャモロが守備をあげて護りを固めた。
 キラーマジンガが恐ろしいスピードで迫ってくると、バーバラが身かわし脚から受け流しで翻弄する。バーバラがマジンガの囮になっている隙に、ハッサンがマジンガ向けて走る。恐ろしい両腕の武器を避けつつ、回し蹴りで両腕の武器を蹴り落とす。その刹那、レックがマジンガの間合いに詰め寄り、機械仕掛けの魔物にラミアスで斬り伏せて爆破させた。
 アモスはもう一匹の魔物ランドアーマーの間合いに入り、メタル斬りを放った。
 硬い敵に有効な攻撃特技で、分厚い凶器のような甲羅が真っ二つに斬り落とされる。邪魔なものが無くなり、むき出しになったランドアーマーの本体に、そこへミレーユのメラゾーマがぶつけられる。炎上したランドアーマーは絶命し、あっという間に二匹を颯爽と片付けた。
「さすがだな…。そうこなくては面白くない。でも…次はどうかな。この者はおまえたちと同じ人間。己の欲望があまりに強くて、こちら側に来てしまった悲しくも正しい選択をした男と言えよう」
「人間…男…?」
 一同が眉をひそめる。
 そんな時、奥の廊下からカツカツと靴音をたててやってくる一人の人影が現れた。
 左手にはドラゴンシールド、右手には禍々しい魔物の怨念を漂わせた破壊の剣。
 少しずつ姿を見せると、一同は驚愕した。
「「テリー!!」」
 全員が面食らい、悪に染まったとされる人間の名を呼んだ。
「おや、知り合いかな?このテリーは強くなりたいという理由から、我が配下にくだり、魂をささげた地上最強の男。世のためなどというたわけた理由で戦う者と、己の力量だけのために戦う者…。まさしく聖と悪…どちらが勝つのかこれはこれでなかなか見ものだな」
 おどけた態度で、これからの余興を愉快そうに嗤っているデュラン
「貴様っ!」
 レックはデュランを睨みつける。
 許せない。彼の心を弄び、支配してまで望まない戦いに引きずり込もうとするその卑劣さが。紳士的な魔王と思いきや、残忍で冷酷で浅ましさもやはり見え隠れする。レックは怒りでラミアスの柄をぎゅっと握りしめた。
「さあ、存分に戦うがいい!」
 命令口調に言うと、途端にテリーはいきなり高らかにジャンプし、レックに向かって破壊の剣を振り下ろした。レックはハッとして、ラミアスの刃でがっしり受け止める。あまりの剣圧の強さに床が割れ、足元が床にめり込んだ。
「テリーやめろ!どうしてこんな事に…っ。お前はあいつに操られているんだよッ」
「…ころす…ころす…!死ねっ!」
 がむしゃらに剣を振りまわして隙を突いてくる。
「テリー!」
 早い動作で避け続けるレック。
 テリーは目の焦点が定まっておらず、普通ではなかった。
 彼自身の意志ではない事はたしかだ。なんとか元に戻してやりたい。



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