DQ6 | ナノ
 22-1

 すべての武具を揃えてから、一同は再び世界中をまわった。
 夢と現実を含め、今まで行った事がある町や村をすべて訪れ、いろんな人々からの情報を得て、そこから有力な情報を小耳にはさむ。
 四つの武具を集めた勇者は、ゼニス王という者が住む神の城へ招かれる言い伝えを。
 ゼニスとは、精霊ルビスよりかはそれほど知られておらず、有名ではないが、高名な学者や考古学に詳しい人物ならば誰もが知っている名称。本物の神が住むという場所で、天に存在する聖地とされている。城が空を浮遊しており、神が下界を見下ろす。まさに夢のような国で。学者からは喉から手が出るほど知りたい歴史的事実が詰まった場所である。
 それが本当ならば、自分たちは知らないうちに神に導かれているのかもしれない。
 この日が来るのを待ち望んでいたかのように。




――第二十二章 神の城 ――






「ねえ、そういえばレックってラミアスの剣は背中に装備してるけど、防具は装備しないの?」
 バーバラがレックの姿をいつもと変わりない事に疑問を抱いていた。
「…してるよ」
「え?」と、どこがと言いたげな顔。
「ほら…」
 レックが目を閉じて念じると、自ら着ているいつものチュニックの上にオルゴーの鎧が浮かび上がり、肩にスフィーダの盾、頭部にセバスの兜も装着されていた。一同は目を見張る。
「ほらな。装備してるけど、特殊な力で見えないだけなんだよ」と、すぐに通常に戻った。
「へぇー防具を装備したままでも他人からは見えないなんて、それは便利ですねえ。たしかにそんな見事な防具を装備していたら目立ちますし、町の人々に驚かれちゃいますもんね」
「いいなー。あたしもそういうのほしー」
「つーかそれだけ装備してちゃあ暑そうだな。しかも重そうだしよ」
「いや全然。涼しいし、めちゃくちゃ軽いぜこれ」
「…うらやましい」
 久々に夢の世界に訪れた日、一行は魔法の絨毯で上空を飛びまわっていた。
 ある祠では、聖水がわき出る洞窟に大勢の旅人が休憩していて、旅の疲れを癒している。話を聞くと、この辺付近に城が空を飛んでいたという目撃情報があったとの事。
 ありえないとばかりに疑っていたが、誰もが見たとの事から信憑性が高かった。半信半疑で見えたというその地点に向かってみると、そこには空飛ぶ城はなく、いつぞやに見た巨大な大穴が存在していた。
「ここにも大穴だ…」
 絨毯から地上に降りて改めて確かめる。ここは地図から見て、夢の世界の南東の位置。
「こんな所にもあったんだ…えーと…たしか、今までの情報じゃ封印は四つあると言ってたから…」
「じゃあ、ここが最後の封印だろうな。それできっと…何かを封印している魔王もいるだろう」
 一同は気を引き締めた。
「落ちてみる?」
「当然」
 ダーマ神殿、カルベローナ、メダル王、そして残りの一つ。彼奴らはこの国の何を恐れて封印したのだろうか。なにを隠しているのか。今まで以上になにか大いなる秘密が孕んでいる気がする。
 躊躇いもなく、全員で大穴に飛び込んだ。すぐに現実世界の見知らぬ大陸に着地し、あたりを見渡すと不思議な祭壇の神殿が建っていた。
 四方の柱の前に、見た覚えのある紋章が刻まれている。床の四つのボタンを押すと、いろんな紋章に切り替わるようだ。これが意味するものは…
「…伝説の武具の紋章じゃないかしら」
 ミレーユが気づいた。
「たしかに言われてみればそうだな。この稲妻のやつとか」と、ハッサン。
「えーと…今までに得た情報によりますと…」
 チャモロが懐からメモ帳を取り出して開き、重要な情報を確認している。
「今刻まれている紋章はどれもバラバラで、正しい場所に正しい紋章を刻まなければならないのでしょう。先日聞いた方の情報によりますと、神の城へ行くにはある神殿を経由し、大いなる試練を乗り越えなければならないと…つまり、この神殿がそうなのではないでしょうか」
「じゃあその城へ行くには…太陽、ハート、稲妻、十字に合わせればいいのかな」
「そうですね。しかし、あわせる場所も重要だと思いますので…考えられる自然の法則によれば……と、北が頭の場所…つまりセバスの兜の紋章かと。えー太陽ですね」
「了解」と、アモスが北側の柱に太陽の紋章を合わせた。
「右がスフィーダの盾、十字架。左がラミアスの剣で稲妻となります」
 チャモロの指示でミレーユとバーバラが左右であわせている。
「そして、南側が鎧…オルゴーの鎧のハートとなります」
 レックがハートにあわせた。
 途端、目を刺激するような強烈な青い光が神殿全体を包んだ。
「な、なんだあ?」
「まぶしいっ!」と、腕で目を隠す。
 青い光は柱となり、天に向かうようにのびていく。それに続くように、全員の体も軽くなったように浮遊し、何かに吸い寄せられるように上空へのぼっていく。
 呆気にとられながら下を見れば、神殿がもうあんなに小さい。気が付けば、山を越えるほどの高さまで上昇していた。
「か、体が浮いてるっ!ちょ、俺高所恐怖症なんでい!」
 ハッサンが慌てながら蒼褪めている。
「いつも絨毯や空飛ぶベッド乗ってるくせに」
「あれとこれとは高さが違うだろ〜ひいい!」
 ふと光の柱が続く上空をみると、何かが近づいてくる。物体が徐々に鮮明に見えてくると、
「あ、見て!城が…!」
 ミレーユが示す方向に、巨大な城が浮かんでいる。
 しかも、こちらに突撃するかのように迫ってやって来ているではないか。当然錯覚ではなく、城に禍々しい顔のようなものまで浮かんでいる。
 誰もが「魔物なのか…?」と、呆気にとられた。
 城は突然口をあけ、戸惑っているレック達に向かってバギクロスを放った。
「うわあっ!」
「ぎえええ!」
「いや〜〜あんなデカい城が魔物なの〜?こんなのってありー?」
 吹き飛ばされ、仲間達の頬や手足をかすめて鮮血が流れ落ちた。この青い柱から出てしまえば、トベルーラをかけない限り真っ逆さまで一巻の終わりだ。
「くそっ!城相手にどうすれば…」
 その時、背中のラミアスの剣がドクンと大きく脈動する。まるで、戦えと言わんばかりに、自ら鞘から飛び出た。
「ラミアス…。そうか…戦えばいいんだな。…よし!」
 レックが剣を握った。
 聖なる力で勇者モードに覚醒し、レックの瞳が蒼の闘志に燃え上がった。
「城相手に戦うのって気が引けますが、悪の波動を感じるので敵でしょう」
 アモスも奇跡の剣を構える。
「あれはおそらく噂のゼニスの城…。敵が乗っ取っているに違いありません」
 チャモロが全員にトベルーラ(浮遊魔法)をかける。
「城を取り返さなきゃね」
 ミレーユがスクルトを唱える。
「やっちゃおー!」
 構えるバーバラと震えるハッサン。
「ちきしょーやったるか!高い所怖いけど…」
 城が再び巨大な真空魔法を唱えた。
 チャモロが咄嗟にマジックバリアを唱えて巨大な竜巻をやり過ごし、レックが城に向かって飛びこんだ。斬りつける直前に、ミレーユがレックにバイキルトをかける。攻撃力が飛躍したラミアスで城の顔めがけて斬りつけると、どこからともなく魔物の苦悶の声が響き渡る。
 やはり、この城自体が魔物に憑りつかれていると確信した。
 続いて、アモスがゾンビ斬りを放ち、ハッサンが強烈なとび蹴りを見舞う。城が反動で大きく傾いた所で、バーバラがべギラゴンを唱え、ミレーユがマヒャドを唱え、チャモロがメラゾーマを唱える。
 煙をあげながら墜落しそうな城に、レックは目を閉じて念じた。今ならもっと強い精霊浄化魔法を放てる気がする。あんな大きな巨大な城さえも浄化できるほどの稲妻を。
 レックは脳裏に稲妻を強くイメージし、目を閉じた。ふと美しい黄金の稲妻が思い浮かぶ。ライデイン以上により強力な雷だ。
 ラミアスの剣を天に掲げると、上空に雷雲が集まってくる。ラミアスが吸い寄せたように、雲はゴロゴロと轟く。そして、カッと目を開けると叫んだ。
「ギガ…デイィーンッ!!」
 落雷し、城全体がバチバチと放電する。
 悪霊がとりついた城は、断末魔の叫びをあげて清浄化された。



「何者かがこの城にやってくるギギ」
 今の衝撃で、城を操っていた魔物が狼狽えている。
 一瞬で城一帯を覆っていた禍々しい邪気は、何者かの浄化の一撃で消え失せた。大きな振動と共に、城は地上の森の中に墜落する。
「だれだそいつらは!まさか…この城にやってこられるのは、伝説の武器と防具を装備できる勇者のみ…ということはだ…勇者が…?」
 もう一匹の操縦士も不安な表情を見せた。
「わからん。だが、集められる人間がいるとは思えなかったが…でももし、そうだとしたら……とてつもなく厄介だギギ。デュラン様は勇者の武器防具の事を御存じなのかギギ?」
「ああもちろん。知っていて、そのままにしてあるらしいぞギギ」
「じゃあ、本当に集めた勇者がこの城に来たのだとしたら…」
 操縦室にいる魔物たちが、一斉に一抹の不安を抱いた。
 我らが魔王デュランは強いとはいえ、その勇者もまた新たな聖なる力に目覚めつつあるという。一部の臆病な魔物は逃げ出す算段を考え始めた。
「それにしても…一体デュラン様はどういうおつもりなのか…。封印された三つの大地が蘇り、我らが敵の勇者は日ごと強力になっているのに、デュラン様は一向に動かない。そればかりか、何やら楽しんでいるようにもみえる」
「だが、デュラン様に逆らえる者など誰もいないギギ。デュラン様こそがこの世界を我が物にできるお方。だから負けるはずがないのだギギ。この間来た己の欲望のために人間を捨てた奴も、デュラン様はあっさり手懐けてしまっていたギギ」
「あいつか…なんでも地上最強の男と噂に名高い男だという。あいつはたしかに我が魔族にとって使える人間。決して負けるはずがない。勇者が相手と言えど…デュラン様が負けるはずないのだッ」




prev / next


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -