DQ6 | ナノ
 21-3

「あたた…」
 腰を激しく打ったレックとバーバラがよろよろと立ち上がる。
 落ちた上の方を見れば暗くて見えない。
 相当深いところまで落ちたのに、打撲だけで済んだのが幸いである。一体このあたりはどこら辺なのだろう。
「はあ〜最悪〜。あんなところから落ちちゃうなんて」
「無事のようだな」
「なんとかね。下が雪のクッションになってて助かった感じ」
 おかげで致命傷にならずに済んだ。
「ていうかここ…寒い〜!はやくみんなを探そうよォ」
「わかってる。んじゃ、とりあえず歩いてみるか」
 当てもなく二人は歩き始めた。
 きっと、他のみんなも心配して探し歩いている事だろう。いつまでもここにいては凍えてしまう。
 手持ちの温度計を見ればマイナス五十を下回っているではないか。
 鼻水でさえ出せば凍りそうだ。おまけに、先ほどまではいなかったのに、どこから忍び込んだのか魔物も徘徊している。
「あれ、あそこに誰かいる」
 しばらくして、向こうの方で一人魔物と戦闘している者がいた。
 華麗に剣を振るい、次々と魔物の死体の山を量産している。仲間達ではない。
 青い帽子に銀髪で、毛皮のマントを羽織ったあれは…
「テリーって人だ!」
 バーバラが声をあげて彼の元へ走った。レックも仕方ないという顔で続く。
「お前たち…」
 ストロングアニマルを葬ってから雷鳴の剣を鞘におさめ、アメジストの瞳を細めた。
「こんにちは〜!また逢ったわねカッコイイ人っ」
 バーバラがにっこり微笑む。
「テリーも…剣を探しに来たんだ?」
 レックも近づいた。
「…まあな。扉が開いていたからもしやと思ってきてみれば…お宅らだったとはな」
「ねーねー伝説の剣を手に入れてどうするの?その雷鳴の剣も名刀なのに」
 ノリよく話しかけた。
 そのノリが鼻についたのか、テリーはイラついた様子で睨む。
「…なんで見ず知らずのアンタに説明しなきゃならないんだ。別に剣をどうするかなんてあんたに関係ないはずだが?馴れ馴れしく話しかけといて…随分無粋な女だぜ。そーゆー女は俺…好きじゃないんでね」
 吐き捨てるような言いぐさに「う…っ!」と、バーバラは幻滅した様子で顔をしかめた。
 レックは苦笑いを浮かべている。
「な、なによその言いぐさ!せっかくこっちは仲良くしたくて軽ノリで話しかけたのにその態度!カッコイイ顔しといて性格悪ッ!陰険ヤローじゃん!」
「くく、陰険ヤローか…ふふ…お褒めの言葉ありがとよ。俺は先を急ぐ。あばよ」
 テリーは颯爽と走って行った。
「あ!待ちやがれコラ!ねえ、はやくいかないと先を越されちゃう」
「わかってる!追いかけるぞ」
 二人も後を追った。

「ちっ…俺のスピードについてこれるとはな」
 テリーは猛スピードで走りながら、次々と魔物を一撃で仕留めていく。同じくレックも行く手を阻む魔物共を武器で薙ぎ払っていく。バーバラは後ろの方で「あんたらはやいのよー!」と、ついて行くのがやっとな様子である。
「あんたもすごいよ、テリー。でも、伝説の剣はどうしても手に入れなきゃならないんだ」と、レック。
「そうか。だが…俺も後には引けないんでね」
 ぐんとテリーのスピードがさらに上昇した。レックもスピードをあげる。
 バーバラはさらに後ろの方で「こらー!走るスピードくらい手加減しろー!」と、叫んでいる。
 いつの間にか現れていた魔物の大軍を前に、テリーはゾンビ斬りやら火炎斬り、イオラで死体の山を築き上げる。
 負けじとレックも稲妻斬り、真空斬り、ライデインと自分の前に立ち塞がる魔物どもを一掃し、道を切り開いた。
 まるで、二人がどちらが魔物の山を作れるかと勝負しているようにも思えた。
(当の本人たちにはそのつもりはないが)
 バーバラはもはや見ているだけで、二人の凄まじい実力に感嘆の声をあげている。
「やるじゃないか。ここまでやれる旅人を見た事ないぜ。お前…何者だ?」
「ただの旅人だよ」と、微笑むレック。
「ふーんだ!あんたには教えねーよーだ!」
 やっとレックに追いついたバーバラがべーっと舌をだした。
「まあ、別に俺にとっちゃあどうでもいい事だがな」
 三人は最後の一匹を軽く斬り捨て、荘厳な扉の前までやってきた。
「ここが一番奥か」
 テリーが勝手に扉を押し開けた。
「あーずるーい!先に開けるなんてっ」
「扉くらいでグダグダ言うな」
 扉の向こうは広い祭壇になっており、透き通った神聖な空気を感じた。
 テリーは辺りを見渡している二人を差し置いて、部屋の奥の広い壇の上にのぼる。
 壇の上で何かを眺めた時、先ほどと打って変わってテリーの表情が消えていく。二人は怪訝に思った。
「……なんだこれは。これがあの伝説のラミアスの剣だとはな…。こんな所までやってきたが、とんだ無駄足というわけか…」
 テリーは深い溜息を吐く。
 レックとバーバラも壇にのぼると、目の前には何世紀も放置されたようなボロボロの錆びた剣が地面に刺さっていた。
 どうやったらここまで錆びてしまうのかわからないほど朽ち果てている。
「なにこれえ。チョー錆びてるし」
「…ひどい痛んでる…。剣が泣いてるよ…」
 レックがそっと触れると、微かに生命の灯を感じた。剣は蘇りたいと嘆いているように。
「所詮、伝説というのはこの程度のものらしい。これじゃあ俺が使っている雷鳴の剣の方がよっぽどマシだぜ」
 テリーはするべきことは終わったとばかりに踵を返して壇をおりる。
「そんな錆びた剣…お宅らに譲るよ。邪魔をして済まなかったな」
「な、なによ…さっきは剣のために張り切ってたくせに」
 バーバラがむっとした表情を向ける。
「ちゃんとした剣だったらの話だ。だが、そこまで錆びてちゃあ、普通の鍛冶屋だったら錆具合に手におえないだろうな。プロ級のプロの鍛冶屋でも見つけない限り、すべてを磨き上げるなんてとてもじゃないが無理だろう。そんな奴がこの地上にいるとも思えない。それほど、その剣は痛んでやがるんだ。普通なら捨てるも同然だよ」
「…そ、そんなの…あんたに言われなくたって、絶対探し出して見せるんだからっ!」
 テリーをキッと睨む。
「じゃあ、余計なお世話かもしれないが言っておくよ」と、あざ笑うかのように正面を向く。
「魔王は強いぜ。あんた達、そんな剣に頼っているようじゃまだまだってことだ」
「なっ……えっらそうに!あんただってこの剣が錆びてなかったら、手に入れて頼ろうとしてたじゃない!人の事馬鹿にしやがって!このキザやろー!とーへんぼくー!すっとこどっこいー!」
「まあまあ落ち付け小娘」
「これが落ち着いてられるかいな!」
 今にも取り乱しそうなバーバラをレックが羽交い絞めにする。
「…また、どこかで会いそうな気がするよ」と、微笑むレック。
「さあ、どうだろうな。俺も含めてお宅らの命がありゃあ、どこかであえるかもな。じゃあな、バカ女と名のある旅人君」
 そのまま、テリーは不敵に笑いながら、扉の外に消えて行った。
「きー腹立つーっ!キザったらしいのーっ!顔はカッコイイのに性格マジ悪いし!」 
 その後、とりあえずその錆びた剣を手に入れた。ザム神官にこの錆びた剣の事情を説明してもらわないと納得がいかない。


「レックー!」
 入り口近くでハッサン達が心配そうに待っていた。
「あ、みんなー!おーい!」と、バーバラが手を振る。
「心配かけてすまない。ちゃんと剣は手に入れてきて…ってうわ!」
 突然、ミレーユに勢いよく抱きつかれた。勢い余って倒れそうになったが踏みとどまる。
「み、ミレーユ」
「バカ…みんな心配したんだから…!人の気も知らないで…」
「ご、ごめん…」
 そんなやりとりに、仲間達は冷やかすような顔で、ヒューヒューなんて言っている。
 顔を真っ赤にしたミレーユはすぐに離れたのだった。

 マウンスノーへ戻ってくると、一同は寄り道せずに教会へ向かった。
 ハッサンがザム神官の部屋を勢いよく蹴り開けて、ズカズカと部屋の中へ入る。
「おお、そなたらか。して、どうじゃった?みつかったか?」
 ニコニコ顔で出迎えたザム神官に対し、全員の顔はその正反対であった。
「ああ。たしかに見つかったぜ」と言うハッサンの顔はやくざ顔負けだった。
「たしかにあったけどさ〜」と、バーバラがレックの方を向く。
 彼は袋の中から錆びた剣を取り出して見せた。
「うわっ!なんじゃこれは?まるっきり朽ち果てておるではないか!」
「そうなんですよ…って、その反応だとザム神官も錆びた事情を知らないようですね。っていうか、これ…本当に伝説の剣なんですかね?こんな錆びた剣が伝説なんてシャレになりませんけど」と、アモス。
「これはどうしたものかのう。んーんーおお、そうじゃっ!」
 ザムがポンと手を叩き、近くの引出しを開けて、手探りでなにかを探している。すぐに綺麗なネックレスを取り出した。
「かつて、ダーマの神殿があった辺りから、まっすぐ南に行った所に町があっての。町の名はロンガデセオ。いかがわしい者が屯するならず者の町じゃが…その町に代々、伝説になるほどの凄腕の鍛冶屋の家系が住んでいたのう」
「本当ですか?」
 全員の目に希望が宿る。





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