DQ6 | ナノ
 21-2

「思えばあれから50年…。ゴランも十分反省したようね…」
 女は遠くを見ながら言うと、ふうっと白い息を吐いた。
「……いいわ。あの村にかけた呪いを解いてあげましょう」
「え…呪いって…」
「そう、あの村を凍りつかせた呪いをかけたのは私なのよ…ふふふ」
 女は両手を広げて深々と念じると、吹雪を巻き起こした。
 冷たい烈風が洞窟中を舞い、凄まじい猛吹雪へと変わる。
 仲間達は近くの岩場に急いで避難して終わるのを待った。
「マウンスノーにかけられし呪いよ…我が声により解き放ちたまえ」
 数百の雪の結晶が洞窟の外めがけて飛びだし、町の方へ飛び散っていく。
 烈風は徐々におさまりつつ、静けさを取り戻した頃、全員は再び顔を覗かせた。
「これで、町の人々はもとにもどったわ。もっとも、彼らにはもう五十年の時が流れたなんてわからないでしょうけどね。一人の男をのぞいては…」
「あなたは…一体…」と、放心している一同。
「私は雪女のユリナ。この地方の自然を守っているわ。私と出会ったことを他人にもらしてはいけない…。その約束をゴランはやぶった。雪山で倒れていたのを助けてあげたというのに…。でもその償いは十分に果たしてくれた。もういいでしょう」
 全員が呆然としている中で、ユリナは冷たく微笑む。
「さあ、もうここに用はないはず。はやくお行きなさい。それと、あなたたちも私のことをしゃべっちゃいけないわ。いいわね?クックッ……」
 気が付けば、自分たちはマウンスノーの町に戻っていた。
 しかも、そこは先ほどと一変して、人々が外に出て動いているではないか。
 雪かきをしたり、氷の池で釣りをしたり、談笑しあったりと、普通の町として機能し始めている。数秒前までたしかに凍り付いていた町だったというのに。
「おや、旅の人。ようこそマウンスノーへ。って、どうしました?随分驚いた顔をしていますが」
「あ、いえ…別に」
「それにしても、ゴランの奴どこに行ったんだろうか。ついさっき一緒に酒を飲んでいたのにいなくなってね。しかも、家には知らない老人が住んでるし…」
「………」
 話してはいけないという約束を思い出す。
 あのゴランの事も、ユリナという雪女の事も、このまま話さないでいたほうがいいだろう。全員はかたく口をつぐんだ。
「ゴランさん…今後どうするんだろうね」
「…うーん…自分だけが年を取ったなんて誰にも言えませんものね。このまま…ひっそりと生きていくんでしょうか…。なんだか可哀想です…」
「あ、そういえばザム神官…!もしかして、五十年そのままだったので、生きているんじゃ…」と、チャモロが思い出す。
「あ、本当ですね!」
「よし!教会に行ってみよう!」
 教会に訪れると、神父と一緒に話し合っているいかつそうな老人が一人いた。
「あのー…」
「ん、なんだ君たちは。わしに用かね?」
 レック達が彼を囲む。
「はい。あなたがザム神官ですか?」
「むう?たしかにわしはザムと言うものじゃが」
「えっと、伝説の剣について教えていただきたいのですが」
「なに!伝説の剣じゃと!」
 ザムはじっとレックを品定めするようにまじまじ見つめ、何かを感じ取った。
「ああ、知っているとも!」と、改めて答えた。
「剣はこの村から北の氷に覆われた洞くつに眠る。お前たちはその宿命の者達じゃな?」
「あ、わかっちゃいます〜?」と、にやつくバーバラ。
「当然じゃ。わしは伝説の剣を扱える勇者が現れるまで、ここで待つようにと預言者に言われておったのじゃ。その者は精霊に認められ、心が水晶の様に透き通った清廉な人物という。まさしくそなたじゃ」
「ど、どうも」
 レックは照れたように会釈する。
「しかし、伝説の剣がある洞窟は、封印の扉がその入り口を閉ざしておるのじゃ。封印を解くには、ある言葉を扉の前で唱えなくてはならぬ。ちなみにわしはその言葉を知っておるが…ちゃんと覚えろよ?ん?んんー? 」
「えーメモしちゃだめなんですかあ?」
「俺、頭使うのでーきれぇでして…」
 ハッサンとバーバラは覚える自身がないようだった。
「だめじゃ。伝説の剣はデリケートでのぅ。不正で手に入れようとする者には天罰が下るという。たとえ、それが本当の勇者であっても、その剣は不正をするような見込みがない者には一切握らせてはくれぬだろう。人間のような命が宿った剣なのじゃ」
 腕を組みながら、これもある意味試練じゃと言い放った。
「剣なのに気難しいわね。勇者でさえ認められるかわからないなんて」
 ミレーユが少し心配そうに言った。
「ツンデレですね、わかります」と、アモス。
「僕たちの実力がためされるのでしょうか…」
「ってことで、お前ら…」
 ハッサンがいきなり躍り出る。
「ちゃんと覚えとけよ!覚えとかねーと、この俺が月に変わってお仕置きだからな!」
「「テメーは覚えねーくせに偉そうに言うな!!」」
 レックとバーバラの容赦ない突っ込みが、ハッサンに決まったのだった。

 暗記しながら洞窟へ行くまでに、結構大変な道のりであった。
 ぶつぶつ暗唱しながらの魔物戦はてこずり、メラミをとなえるはずがメラサムと言ってしまったり、技のやり方を間違えたりと散々であった。
 ただ、ハッサンだけがいつも通りの動きであったとか。
 そして、氷の洞窟の中は、つるつる滑る床でずっこける者が何人かいたが、なんとか封印の扉の前までたどり着く。
 みんなで一緒に「メラサム」と唱え、扉が口を利いた。
『我は汝の道をふさぐ者なり。汝の道切り開きたくば、定められし言葉を我に伝えよ。はじめの言葉はいかに? 』
 扉の前にうっすら文字が浮かび上がってきた。
「わっ…扉がしゃべったと同時に文字が浮かびあがってきた!」
「へえ、三択なんだなあ。そのまま全文を言えって言うのじゃなくてありがたいかも」

一 我、正しき心をもつ者なり
二 時は来たれり!
三 すべては伝説のままに

「えーと…最初の文章暗記担当したやつだれだ〜?」
 レックが訊いた。
「あ…最初は私とチャモロ君が担当しました。その、あの人は自分は正直者だというような事を言ってました」と、アモス。
「なので、たぶん正しき心ってところが関連しそうなので、一番ですよ」
 チャモロがはっきり告げた。
 すると扉が赤く光り、続いて言葉を発する。
『次なる言葉はいかに? 』

一 古しえの姫の美しさを
二 我とともに戦わん
三 力秘めたる刃を

「次は私とバーバラが担当した所ね」
 女性陣が前に出てきた。
「えーと…力持ちの姫が樽をもちあげて……って言ってたよ」
 バーバラが「やっと暗唱から解放されたー」と息を吐いている。
「これはちょっとひっかけ問題なんだけれど、よく読めば簡単。姫と樽というのはきっとひめたるだと思うの。だから答えは三だわ」
 再び、扉は赤く光る。
『最後の言葉はいかに?』

一 今ここに示すべし
二 氷の淵より解き放たん!
三 我らが命のともしびに

「最後は俺が自分で覚えたんだけど…えーと」
 レックが暗唱する。
「…氷を食べる時は寒くて鼻やたんが出てくる…だったかな。つーかきたねえ合言葉だな…。んで、答えは解き放たんってところが関連してるから、二じゃないかな。ニだ!」
 扉はみたび赤く光る。
『汝の言葉、正しきものなり。我、封印をここに解かん』
 途端、扉はまばゆい光を放ち、ゴゴゴと重そうに左右に開く。
『汝の道は開かれた。汝の道を進むがよし』
「やったあ!開いたよーっ!」
 バーバラが両手をあげて喜ぶ。
「これで先へ進めるな。よし、行くぞ」

 次のフロアは、全面ツルツルすべる氷の床だった。
 またもやここで滑って転倒したり、そのまま進みたい方向とは逆に進んだりと、リアル転倒スケートショーがしばらく続いた。
 気を取り直して進むと、今度は氷の落とし穴地帯。
「気をつけろ。ここら辺は地面が割れやすくなってて…」
 その時、バーバラの足元が氷の床を突き抜けた。
「きゃあっ!」
 そのまま深みにはまり、彼女の周りの床が割れる。
「バーバラッ!」
 レックがすぐに手を伸ばして腕を引っつかむも、レックの足場も崩れ、二人そろって奈落へ落ちていく。
「うわあ〜〜!」
「きゃあ〜〜!」
「レックーッ!バーバラッ!」
 ミレーユが手を伸ばして叫ぶ。
 二人は地下深い闇へ消えていった。


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