秋空ってなんだか寒いっスね

夏が過ぎて秋がきた。

部活終わりの帰り道でのこと。
見上げた秋の空が曇りがかっていてどこか寂しげだったから、
「手つなごっか?」
隣を歩く黒子に黄瀬が尋ねてみた。
すると黒子は別段なんの表情の変化も見せずに目だけ動かして黄瀬を見た。
黒子の大きな目に黄瀬の姿が映る。
黄瀬がにっこりと笑みを浮かべた。

「・・・どうして笑うんですか?」
「黒子っちが今見てるのがオレだけだって思うと嬉しくって」
さらりと笑顔で言う黄瀬に黒子の目が据わる。
「そういう恥ずかしいこと、よく言えますね」
「えー」

落胆の声を漏らして、黄瀬は叱られた犬のようにしょんぼりと残念そうに眉を下げる。
「嬉しくないっスか?」
「・・・・・・」
黒子が無表情で黙り込む。

こういう時。
黒子は何を考えているか分からないから困る。

黙り込んでしまった黒子に、再び黄瀬が宙を仰ぐ。
どう声を掛けたら良いか分からずに、黒子の歩調に合わせて隣を歩くだけ。

(・・・そういえば)
手をつないでいいのか、返事をまだもらっていない。
ちらり、と黒子を見下ろせば相変わらずの無表情。
そこで黄瀬は考える。

もし。
嫌なら「手をつなごう」と提案すれば「嫌です」と即答で返してくるのはず。
それなのに黒子は「手をつなぐ」か否かの返事ではなく、黄瀬が笑ったことに対しての感想を述べた。
これは少し意外だ。
「気持ち悪いです」とか「やめてください」とかならよくあることだけど。

そう考えると、黄瀬のなかに微かな希望が沸々と湧いてきた。

やがて横断歩道へと差し掛かり、信号が点滅したのを見て黒子が立ち止まった。
合わせるようにして黄瀬も足を止めると、無防備にちらつく黒子の手をさりげに見やりそっと手を伸ばしてみる。

ぱっ、と信号が赤へ切り替わった。
「・・・?」
ふと手に感じたぬくもりに黒子が黄瀬を振り仰ぐ。
黄瀬がにっこりと笑って、触れただけの黒子の手をぎゅっと握った。

「手、冷たいっスね」
黒子の手を胸元まで引き寄せると、両手で包み込んで温まるよう握り締める。
黒子の頬がほんのり赤く染まる。
「・・・黄瀬くんが」
「ん?」
「黄瀬くんが早く握ってくれないから・・・」

いじけたように、ぷいっと顔を逸らす黒子。
黄瀬の心臓がズキューンと打ち抜かれた。

「く・・・黒子っち!オレ――」

言いかけた途端に信号が青に切り替わる。
まるで時が止まったかのように、大通りを行き交う車が一斉に止まり騒音が消えた世界。

黒子っちとオレしかいない世界。

「いつでも黒子っちのこと、あっためてあげるっスから!」

寒いならいつでもその手を握ってあげる。
小さくて、消えてしまいそうなくらい白い手をオレがずっと握っていてあげたい。

目をぎらぎらさせて迫る黄瀬に、黒子がクスッと笑みを零す。
「?どうして笑うんスか」
今度は黄瀬が訝しげな顔をする。
すると、めずらしくにっこりと黒子が笑った。

「・・・ありがとうございます。でも、ボクの手が冷たいのは緊張していたからですよ。きっと」
「それって・・・?」

そうしてまた替わる信号。
音の戻った世界で黒子がやんわりと告げる。

「・・・・・・君と一緒にいられることが嬉しいんです。すごく」

秋の空に西日が射した。

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