だから今日くらい名前で呼べ

「ねーねー。黒子っち。それでね、青峰っちが・・・」
昼休み。
黒子が弁当をつついている横で黄瀬はノロケ話に興じていた。
さっきから聞きたくもないのに、黒子の耳には「青峰っちが」「青峰っちの」「青峰っちてば」とかいう黒子としてはどうでもいい話ばっかり。
紙パックのお茶のストローを吸って飲み込むと黒子が息を吐く。
「黄瀬くん、うるさいです」
「へ?」
真顔でピシッと注意されてしまった黄瀬は一瞬だけ目を丸くして、怒られた犬のようにしょぼくれる。
「・・・別にいいじゃないスかー。話くらい聞いてくれたって」
「ボクじゃなくて青峰くんと話せばいいでしょ?あんまりボクと一緒にいると、青峰くん怒っちゃいますよ?」
「そうなってくれると嬉しいんスけどね」
はー、と長いため息の後、黄瀬は机に突っ伏した。

青峰っちがオレにヤキモチ妬いてくれるなんてこと、付き合い始めてから一度もありゃしない。
こうやって黒子っちと仲良く喋っていても、緑間っちと一緒に下校しても、女の子に告白されていても、青峰っちが妬いてくれたことなんてなかった。
一方のオレは青峰っちが桃っちと話していたり、マイちゃんの写真集に夢中になっていたりするだけで、胸が張り裂けそうなくらいツライ思いをしてるっていうのに。

「うぅ〜。青峰っちのばぁか」
「今度はグチですか?」
黒子が箸を口へ運び、たまご焼きを口に含んで咀嚼する。
「そういえば黄瀬くん」
「なんスか?」
「今日は青峰くんの誕生日ですけど、プレゼントとか何か用意しましたか?」

そうだ。
今日は8月31日。
帝光中の新学期は他の学校と比べて一足早く、夏休みをちょうど終えたばかりの今日は青峰の誕生日だ。
それくらい恋人である黄瀬が知らないはずがない。
しかし、黄瀬は苦そうに表情を崩した。

「・・・実はまだなんス」
弱々しい声で告げて、黒子から視線を外す。
それにはさすがに呆れたとでもいうように黒子も眉の形を崩した。
「いいんですか?そんなんで。ソレだから青峰くんに適当にあしらわれるんですよ」
「うっ・・・黒子っちヒドイっスよぉ」

それくらい分かってはいるつもりだ。
これが黒子っちの誕生日であれば、プレゼントは何が良いか、祝いの言葉をどうするかなんて正直すぐに思いつく。
けれど、青峰っちのためとなれば話は別だった。
あの人が欲しがるものなんてオレには分からない。
あの人がどんな言葉を掛けて欲しいのかも分からない。
閃いたとしても、拒絶されたらと考えるとまた考えはふりだしに戻る。
そうして結局、今日という日を迎えてしまったのだ。

「黒子っちぃ〜・・・」
「なんですか?うっとうしい」
神頼みするみたいに黒子の腕に縋りつく黄瀬。
すると真上から声が降ってきた。

「涼太」
「へ?」

この学校で黄瀬のことを「涼太」と呼ぶ相手はキャプテンである赤司しかいない。
しかしこの声は明らかに赤司のものではなかった。
よく知った低音。
大好きな声。

黄瀬が目を輝かせると青峰は黄瀬の頭を掴んで無理矢理に視線を合わせて怒鳴った。
「涼太っ!テメェ、どこにもいねぇと思ったらやっぱテツんとこかよ!!人がどんだけ探したと思ってんだ?あぁ?」
「・・・え」
「いつもウゼェくらい付きまとってくるクセに誕生日の日に限って無視なんて信じらんねーっつの」
「なっ・・・だ、大輝だって人のこといえないじゃないっスか!?」
「あ?」
「いつもかまってくれないし・・・オレだって一生懸命真剣に考えてるんスよ!大輝のバカッ!!」

「あのぉ・・・」
いつの間にか、お弁当を食べ終えていた黒子が控えめに挙手をする。
「痴話ゲンカなら他所でしてくれません?あと、教室内では名前で呼び合うのはやめた方がいいと思いますけど」
黒子の一言に固まる黄瀬。
一方の青峰は「あっ、いけね」とどーでもよさげに後ろ頭を掻いた。
黄瀬の顔がみるみるうちに赤くなる。

「お、おおおおオレ・・・もしかして今、青峰っちのこと『大輝』って・・・?」
「呼んでたな」
「呼んでましたね」
「ぎゃー!!黒子っち忘れてー!!」
急に取り乱して慌てふためく黄瀬に青峰が不思議そうな顔をする。

「いいじゃねーか別に。二人きりの時はいつも名前で呼んでんだし。イマサラ恥ずかしがることねーだろ?」
「青峰っちじゃなくて他の人に聞かれるのが嫌なんス・・・あー、もうオレ死にたい」
両手で顔を覆い隠す黄瀬を眺める青峰。
するとふいに黄瀬の手首を掴んで引っ張り上げた。

「?なんスか」
「こい」
一言投げかけて、青峰は黄瀬の手を引く。
つられるように黄瀬が席から立ち上がる。
「あ、青峰っち・・・?」
そしてそのまま青峰は黄瀬を連れて教室を後にした。

二人が去って行った後に一人残された黒子は再びストローを吸いながらうっすらと笑みを浮かべる。
「・・・よかったですね。黄瀬くん」





「ちょ・・・青峰っち・・・?」
黄瀬が連れてこられたのはほとんど使われることのない、もはや倉庫と化した空き教室だった。
微かに埃のニオイが鼻を掠めるその教室の扉を締め切って内側から鍵をかけると、青峰が振り向いて黄瀬に詰め寄る。
「やるぞ」
「へ?」
一瞬なんのことだか思考が追いつかない黄瀬を壁際まで追い込むと、青峰が手を伸ばし黄瀬の襟足を優しく撫で上げる。

「んっ」
突然触れられて体を跳ねさせる黄瀬に青峰の口角が上がる。
逸れた白い首筋に噛み付き、そこを舐め上げ吸い付く。
「ぁ・・・青峰っち・・・だめっスよ。ここ学校・・・」
「どーせ誰もこねぇよ」
「そういうコトじゃなくて・・・あっ」
今度は前歯で耳たぶを噛まれ、黄瀬の体からだんだん力が抜けていく。
逃げないよう片手で黄瀬の後ろ頭を固定して青峰が耳元で囁く。

「・・・なあ。お前のことだからどーせまた、オレのことが好きすぎてプレゼントどれにしようか迷っちゃいました、だから用意できていませんとか言うつもりだったんだろ?」
「えっ、や・・・あの・・・」
「別にいいぜそれでも。でも恋人なら態度で示して欲しいなー」
「・・・態度っスか?」
「どれだけオレを好きかってことに決まってんだろーが。涼太」

ドキッ
熱を持った色っぽい声で囁かれて、黄瀬は口をぱくぱくさせる。
態度、と言われてもどうすればいいか分からない。

「あ・・・あのっ!オレ・・・んっ」
うろたえる黄瀬の瞼に青峰が唇を落とす。
唇が離れると、黄瀬はその目をじとっと見つめた。
「・・・うー。わかったっス。やってみるっス」
ヤケになって言い切ると、青峰の唇に自分のそれを重ねた。
目を瞑ってためらいがちに唇をくっつけると、次第に角度を変えていき隙間から青峰のなかへ舌を侵入させてみる。
アツイくらいの口内にそっと舌を差し出して遠慮がちに中を探ろうとした時、生き物のように蠢く青峰の舌に思い切り舌を絡め取られた。

「んぅっ!?」
同時に体をぎゅうっと抱き締められると、キスがより深くなってしまう。
呼吸を忘れてしまうくらい濃厚な口付けに黄瀬も答えようと必死に縋りつく。
「ふ・・・んんっ、ん」
互いに頭の角度を変えて舌を絡め合い嬲り合い、黄瀬の口端から飲み込めない唾液が伝う。
最後にそれを青峰が舐め取ってやると前戯のキスが終わる。
目と目が合って、気まずさに思わず黄瀬は視線を逸してしまった。

「おい」
案の定、不機嫌そうな青峰の声に黄瀬がビクリと肩を震わす。
「今日はお前からしろよ」
「・・・青峰っちの鬼畜」
真っ赤な顔をして黄瀬が上目遣いで愚痴る。
「あぁ?」
そんな黄瀬の前髪を青峰がぐしゃりと乱暴に撫でまわす。
「ッ、わかったっスよ!やるから・・・」
青峰が手を離し、黄瀬がその場に膝をつく。

青峰のズボンへ手を掛けてカチャカチャと音を立ててベルトを緩め前を寛げると、形を持った欲望が露にされる。
それを手に取って顔を近づけると、そうっと舌で舐め上げる。
手のなかのそれがピクッと動いたのが分かって少し嬉しい気分になりながら思い切って先端を口に含んでみる。
括れた部分を唇で擦って、窪みを舌で刺激して、さらに根元を手で扱く。
それが青峰から教わったやり方だった。
まだ慣れないけれど、ぎこちないながらも精一杯奉仕する。

これで青峰っちが悦んでくれるならそれでいい。

大きく膨れ上がったそれが口の中を支配する。
頭を動かして舐めているうちに硬いそれが口蓋を擦りあげてくるせいで、黄瀬自身も感じ始めてしまっていた。
「っ・・・、黄瀬・・・でるぞ。だすけどいいか・・・?」
「ん・・・ふぁ・・・いいっスよ・・・」
少しだけ口を離して返事だけ返してまた口に含む。
口の中に訪れるであろう射精に身構えていると、直前で青峰が黄瀬の髪を掴んで引き剥がした。
途端、黄瀬の顔面に生暖かいどろっとしたものが勢い良くかけられた。
「っんん!?」
黄瀬が反射的に目を瞑る。

「あーあ。せっかくのモデルが台無し」
「・・・あおみねっちぃ!」
「悪ぃ悪ぃ」
軽く謝罪して愉快そうに青峰がしゃがみこんで黄瀬の顔を拭う。
ようやっと目を開けられた黄瀬が潤んだ目で青峰を睨み付ける。

「・・・顔にかけるなんてヒドイっス」
「だから悪かったって」
自分の体液で濡れる黄瀬の唇へためらいもなくキスをして、今度は青峰が黄瀬のズボンを寛げる。
「すげー。触ってもねーのにお前のもうグショグショ」
「っ!?そ、そういうこと言わないで下さいっス・・・」
泣きそうに顔を歪める黄瀬のそれに指を絡めて、慣れた手つきで青峰がゆっくりと扱き出す。

「ッあ」
上下に動かして、透明を零す先端を指でぐりぐりして刺激してやると黄瀬は体を震わせて青峰へ凭れかかった。
「あ、青峰っち・・・や、やっ」
「イきてぇ?」
耳元で問われて黄瀬は心臓を跳ね上がらせると、遠慮がちにコクリと頷く。
すると、青峰が速度を変えて黄瀬を責め立てる。
上下に激しく動かされて黄瀬はいやいやと首を振りながら青峰の首へ腕をまわしてしがみつく。

「や、ぁ・・・!もっとゆっくりして・・・やだぁ・・・」
クチュクチュと卑猥な音を立てて弄られる自身を思わず目で捉えてしまい視覚からも強烈に犯される。
もうすぐに訪れるのが分かった。
「あ・・・あおみねっち・・・もうっ・・・」
へにゃりとして訴えると、あろうことか青峰は黄瀬から手を離してしまう。

「あっ!や、やだ・・・オレまだ・・・」
ぎゅっと青峰にしがみついてみるが青峰の手は別の方へ動き出す。
ぬるつく指を滑らすと、窄まる入口を擦り上げる。
黄瀬が顔を強張らせた。
「だ、だめっスよ・・・!学校でこれ以上は・・・」
「オレが責任とる」
「プロポーズみたいに言わないで下さいっス・・・あッ」
つぷん、と青峰の指が埋まった。

「お前んなか柔らけぇな。イヤイヤ言ってたクセにホントは興奮してんじゃねーの?」
「んっ、ちがうっス・・・あ、やっ」
増やされた指が奥を突いて弱点を探られる。
半ば性急に中を掻き混ぜられて擦られて押し広げられて、指を三本も咥えこませられると満足気に青峰が指を抜く。

「お前エロすぎ。もうオレ限界だわ」
青峰が黄瀬の腰を掴んで、再び猛り始めて反り返る自身の上へ落とそうとする。
しかし、途中であることを思いついて笑みを漏らす。
「やっぱやめたわ。お前から入れてみろ」
「へ?」
「できんだろ?」
「・・・ま、できなくはないっスけど」
でも、正直なところ一人でするのは不安である。

けど青峰っちの期待に応えたい。

その一心から黄瀬は自分の腰へ手を滑らせて挿入しやすいよう体勢を整える。
恥ずかしそうに目を伏せる黄瀬の長い睫毛を青峰はただじっと黙って見つめた。

「んっ・・・ふぁ・・・」
感覚に堪えながら、ゆっくりと黄瀬が腰を落としていく。
じりじりと感じる黄瀬の熱に我慢できず、とうとう青峰がいたずらに自ら腰を突き上げた。
「ッひぁ――!?」
その拍子に黄瀬は欲望を弾かせてしまう。
それでもかまわずに青峰は黄瀬の腰を強く抱くと激しく揺さぶり深く突き上げる。

「あッ!あ、・・・だめっ、だめっス・・・あおみねっち・・・」
「・・・涼太」
名前を呼ばれた途端に塞がれる唇。
黄瀬も名前を呼びたかったけれど唇を奪われてしまっては言葉を発せない。
代わりに青峰の体へ長い脚を絡ませて応えた。

「っふぁ・・・だ、だいき・・・」
唇が離れた隙に名前を呼ぶ。
大好きな響きを持つ名前。
その唇がもう一度塞がれる。

「んんッ!――ん・・・ッ」
唇が繋がった状態でも黄瀬は心の内で青峰を呼び続ける。
発せられずに飲み込まれる声。
それでも愛しい名前を呼びたい。

「ん・・・はっ、ぁ・・・だいきぃ――ッ」
「っ――りょうた・・・」

強く強く抱き合って名前を呼んで唇を啄んで。
互いの存在を確かめ合いながら、二人同時に絶頂を迎えた。






「だから。オレ以外の奴の前でオレのこと名前で呼ぶなっつーの。襲いたくなるから」
「最初に名前で呼んできたの青峰っちじゃないっスかぁ」
「だからってお前まで調子に乗って呼ぶなっつの」
「青峰っちが呼んだから、ついオレも間違って呼んじゃっただけで・・・いったぁ!」

バチコンッ
と青峰が黄瀬の額へデコピンをかます。
涙目になりながら黄瀬が額を押さえた。

「もぉ!ホントに意地悪っスよね」
「いいから早く体拭け」

今、二人がいるのは部活の後によく使うシャワールーム。
先にシャワーを済ませ着替えの済んだ青峰の横で、ようやくシャワーを終えた黄瀬がほかほか湯気の立つ体をタオルで拭い始める。

その体を彩るマーキング。
見ているだけでゾクゾクしてきてしまう。

まだ濡れたままのその体を青峰がふわりと抱き締せる。

「さっきお前、プロポーズみたいとか言ってたよな」
「へ?いつっスか?」
「は!?ちゃんと覚えとけバカッ!」
「すんませんス・・・」

腕のなかでしょぼくれる黄瀬を抱く腕に力を込めて青峰が言う。

「ずっとオレを好きでいろよ。それがお前からの誕生日プレゼント」
「はぁっ!?」

言いたいことがあったとしても今は聞く耳なんて持たない。
当たり前だろ。
だって今日はオレの誕生日。
だからこれくらいのワガママ、当然通ったっていいに決まっている。




―――――――――――――――――――

黄瀬の誕生日を祝う文を書いていなかったのでついでに黄瀬も祝う気持ちで青黄にしました。
アンケートの際に「間違って名前で呼び合う青黄」という素敵な意見がございましたので参考にさせて頂きましたが、あまり間違った感がないですね・・・ごめんなさい。
青峰誕生日おめでとゥス!(ノ∀`)


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