初めては君がいい

「青峰っちってすげーうまそうっスよね」
「あ?なにが?」
「キ・ス」
帰り道。
突然、黄瀬が言い出した。
こいつは口を開けばこうやってわけの分からないことばかり言う。
しかも最近やたらとなつかれてしまって、ちょっと暇があればすぐにオレのところへ来てこうやって意味の分からない質問してきたり、勝手なイメージを押し付けてくるから困ったものだ。

「・・・そんなの自分じゃ分からねーよ」
笑顔で覗き込んでくる黄瀬から目を逸らし、視線をどこか遠くへ投げかける。
「え?てことは、キスの経験あるんスか!?」
ウザイ通り越してメンドくさいくらい目を輝かせて黄瀬は余計に食いついてきた。

キスなんてそんなもの。
うまい、ヘタどころか中学生の自分にはそもそも経験すらあるはずがなかった。

「青峰っちさすがっスねー・・・オレなんてこう見えて実はまだなんスよー?女の子と付き合ってもキスまでいかないですぐ別れちゃうし」
それは意外な情報だった。
モデルでイケメンな黄瀬のことだから、もうとっくにそういう経験くらいありそうだとばかり思っていた。

意識して見てみると、黄瀬の横顔が女みたいにキレイなことに今更ながら気付いた。
(こいつ睫毛なげぇなー)
さらりと揺れる金髪に、白い肌はさすがモデルだけあって見ているだけでその質感の良さが伝わってくるようだった。
(やべぇ・・・なんか・・・)

触りたくなってきた。

髪をぐしゃぐしゃに掻き回して、なんでかその肌に触れてみたくなった。
どんな手触りがするのだろう。
どんな感触がするのだろう。

考えるより先に、オレは黄瀬を抱き寄せていた。
「・・・え」
黄瀬が驚いて目を丸くして見上げてくる。
「じっとしてろ」
「あ、は・・・はいっス・・・」
黙って腕のなかにおさまる黄瀬の体はかたい。
男なのだから当たり前だけれど、そういうことではなくどうやら緊張しているようだった。
胸に抱く黄瀬の髪が鼻を掠める。
そこから香った匂いに鼻腔がくすぐられてなんとも言えないおかしな気持ちが体のなかをぐるぐると渦巻く。

「・・・青峰っち?」
様子を窺うように名前を呼ぶ黄瀬の声にはどこか切なさが込められていて。
さらに強く抱きしめると、その耳元に直接囁く。

「もっとお前に触ってもいいか?」

尋ねた途端に腕の中の体がさらに強張ったような気がした。
それでも構わず抱き締める。
何も喋らない。沈黙が流れる。
やがて背中のシャツをぎゅっと掴まれるのを感じると黄瀬が身じろぎした。

「・・・いいっスよ」






近くにあった黄瀬の家へお邪魔した。
部屋へ上がり向かい合って座り込む。
手を伸ばして、青峰がシャツのボタンを一つずつ外していく。
それを心配そうに見つめながらも、黄瀬は嬉しさで高鳴る鼓動を胸の奥に感じていた。
本当はこんなこと、するべきじゃない。
自分がいくら好きでも、青峰はそうじゃない。
きっとそうだと頭で理解していても、心の奥は違うと否定を続けている。

オレの憧れの人――その人が今、オレに触れたいと言ってくれた。
好きだ、という言葉が得られなくてもいい。
それでもいいから、もっとオレを知って欲しい・・・。


ボタンを全て外し終えて、青峰は曝け出した胸の白さに息を呑んだ。
そっと触れてみると、ひくんと皮膚が震える。
さらに手を滑らせてみると、キメの細かい滑らかな肌がなんとも言えずに気持ちが良かった。

「・・・なんか恥ずかしいっスね」
頬を染めて黄瀬が言う。
それでも今更引き返せない。
そうした方が余計恥ずかしいに決まっている。
何も言わずに、青峰はそこにあった突起を指先で弾いてみた。

「んっ」
「なに?胸、感じんの?」
「や・・・なんか変っス・・・そこ・・・」
黄瀬の反応が面白くて、青峰は意地悪そうにぐりぐりと指先で捏ね回してみる。
するとそこはだんだんと弾力を増していき、ぷくっと膨れ上がった。

「んん・・・んっ・・・」
声を押し殺す黄瀬を見て、その顔に欲情する。
綺麗に整った顔が苦しそうにするのがたまらなかった。

「・・・あっ」
指の腹で乳首を擦ると唇から声が漏れた。
薄く開いたその唇がやけに色っぽい。
舌舐めずりして自分の唇を濡らして、青峰は黄瀬に口付けた。

「んぅ!?」
ビクリと黄瀬の体が跳ねて目を見開く。
油断しているその歯列を割って舌を入れてみると、ねっとりとした舌同士が絡み合う。
ざらりと表面を擦り合わせてみると、背筋がぞくぞくした。

「・・・初めてした」
「え?」
「キス、お前が初めてだ」
その一言に黄瀬の瞳が潤んだ。

(こいつはすぐこーゆー顔をする)
嬉しいとすぐにそれが顔にでる。
分かりやすくて単純でそれでいて・・・あれ?
一体今、自分は何を思ったのだろう?

考えても分からない。
青峰はその場に黄瀬を押し倒した。
「あ、青峰っち・・・や・・・」
首に顔を無理矢理捩じ込んで柔らかい箇所を吸い上げる。
「あ、ッ」
びくんっ、となった黄瀬の体を組み敷いたまま器用に手を動かしてベルトを緩める。
その動作に黄瀬が待ったをかける。
「や、あの・・・やめっ」
それを振り切って下着ごと脱がすと、熱を持ったそれに指を絡める。
途端に大きく膨れたのが嬉しくて、さらに大胆に手を動かして黄瀬を煽る。

「もしかしてお前、オレに触ってほしかった?」
「ちが・・・!」
黄瀬が耳まで真っ赤にする。
それがまた面白くて、先走りのぬめりを借りて奥の蕾を擦ってみる。

「んぅっ、そこはイヤっス・・・」
「嫌ならなんでこんなにしてんだよ」
溢れる透明をわざと音を立てるように指先で掬って、またそれを後ろへ塗りつける。
指を浅く出入りさせると、黄瀬が辛そうに顔を引きつらせた。
「男同士でヤるのってここ使うんだろ?」
「ん・・・そうっスけど・・・」
「なあ黄瀬」
青峰が真っ赤になった黄瀬の耳元へ唇を寄せる。

「お前のこと抱きてーんだけど」
「・・・え?」
「っ、お前はいつもそればっかだなー。オレが大事なこと何か言うといつも聞き返しやがって・・・」
「ちゃ、ちゃんと聞いてるっス・・・でも・・・」
「でも、なんだ?」
「・・・・・・」
俯いて黙ってしまった黄瀬に青峰が目を細める。

「決めた。優しくしてやんねー」
「へっ・・・?」

黄瀬が聞き返した途端、青峰は窮屈な入口に指を突き立てた。
「ッ――!いっ・・・」
「せまいな」
中に入れた人差し指をくいくいと曲げてみるものの、中は依然締まったままだ。
黄瀬の目に涙が浮かぶ。
「いたっ・・・青峰っち・・・するならアレ使ってくださいっス・・・じゃなきゃ無理」
「ああ?」
「そこの引き出しの・・・」
ついっと黄瀬が指を差す。
指示された引き出しの中のものを見て、青峰は不敵に唇のはしを釣り上げた。

「お前こんなん持ってたのか?」
「・・・ぅ」
「キスはしたことなくてもこーゆーことは経験済みか?」
「ちがうっス・・・」
「じゃあなんだ?」

黄瀬が気まずそうに目を逸らした。
そして震える声で告げる。

「・・・いざという時のために買ったんス」
「ふーん」
たいした関心を抱かずに青峰はローションのボトルを開けると液を手の平へ垂らした。
ぬるりと黄瀬の脚の間に塗りつけて蕾を探ると、さっきより楽に指が中へ埋め込まれた。
だいぶスムーズな動きで奥まで進んでいっては引き抜くを繰り返す。

「痛くねーか?」
「・・・平気っス」
安心してさらに指を増やして、二本になった指で奥を突く。
「んっ・・・ぅ・・・んん」
「んだよ?」
「そこじゃないっス・・・もっと奥・・・」
「ここか?」
「あッ!」
指を曲げてある一点を押すと、黄瀬の中がきゅうっと締まった。
しかしどうして経験のないコイツが、そんなことを知っているのか。
青峰の中に不信が募る。

「お前さ。ここがイイってなんで知ってんの?」
意地悪く、ぐりぐり押すと黄瀬の口から嬌声が上がる。
「あっ、あ・・・あ・・・自分で、したから・・・」
「自分で?」
「青峰・・・ちと・・・したらって考えながら・・・だから・・・」

ぷつり、と何かが切れる音がした。
それは青峰の中にあった、目を背けていた黄瀬に対する感情。
ひたすらに否定し続けてきた感情。

(なんだ・・・そういうことか。オレはこいつを・・・)

「黄瀬」
ずるりと指を引き抜き代わりに取り出す自身の昂り。
それを解れた蕾に押し当てて、黄瀬の顔を覗き込む。

「なんかオレ、お前のこと好きみたいだわ」
「・・・ぇ」
「お前のことが好き」
「・・・・・・」

黄瀬が唇を噛み締めて俯いた。
その頬を涙が伝っていくのを青峰は見逃さなかった。

もう我慢できない。

「・・・あっ・・・ああ――」
答えを待たずに青峰は黄瀬の中へその切っ先を埋めた。
狭いけれど拒むことのない粘膜の卑猥な絡みに、黄瀬の全てを感じ取ろうとした。
「や・・・やぁっ!あおみねっち・・・あおみねっち・・・ンッ」
無意味に名前を呼ぶ唇を塞いで腰を打ちつける。
さっきよりも濃厚な口付けを交わしながら、互いに互いを全身で感じあう。

黄瀬が零す涙の味で、二度目のキスはしょっぱかった。







「・・・青峰っち、初めてのわりに激しすぎっス」
ベッドにうつ伏せになりながら、黄瀬が死にそうな声を漏らした。
「もう一度聞くっスけど、本当に初めてだったんスか?」
「しつけーな。初めてだって言ってんだろ」
「触るだけって言ったのに・・・抱かれるなんて聞いてないっスよ」
「そのわりにすげー嬉しそうだったじゃねーかお前」
「そ、そりゃあ・・・」
黄瀬の頬が朱色に染まる。
同じくらい紅い唇にうっすらと笑みが浮かぶ。
「ずっと好きだった人に言われたら誰だって嬉しいっスよ。嬉しくて死にたくなるっス」
「ばかじゃねーの」
「は!?」

顔を上げた黄瀬の頭を青峰はガシガシと撫で回す。
「死んだらせっかく叶ったもんがムダになんだろーが」

せっかく好きって気づいて両想いになっても、先に死なれたらどーしよーもねーじゃんか。


「・・・そうっスね」







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