Better Bitter1

「はぁ・・・」
部屋で一人。黄瀬はため息をついた。
さっきから頭を渦巻くのは、昼間の学校での出来事――


「ちわーっス!青峰っち」
「・・・黄瀬」
いつものように屋上で授業をサボっていた青峰に、黄瀬は笑顔で挨拶する。
にこにこと笑顔の黄瀬とは対照的に、青峰は眉間にシワを寄せてものすごく不機嫌そうな顔をした。
その表情に黄瀬はきょとんとする。
「あり?青峰っち怒ってる?」
「ったりめぇだろ!せっかくマイちゃんとザリガニ捕りにいく夢見てたのに起こしやがって・・・」
「なにその夢キモッ」
「・・・なんだとぉ〜」
「ウソウソウソっス。」
不機嫌オーラ満載で、じりじりと迫ってくる青峰から黄瀬は座ったままの体勢で後ずさる。

その時、後ろについた黄瀬の手が滑った。
バランスを崩して後ろに倒れそうになり思わず目を瞑る。
しかし、いくら待っても来るはずの衝撃がやってこない。
そーっと、目を開けてみると・・・

「おい黄瀬。大丈夫か?」
「!?」

目の前にあった青峰のアップに黄瀬はどきっとして言葉を失う。
あとちょっと近づいたら額が触れ合ってしまいそうなほどの距離に黄瀬の心臓がどきどき鳴る。
「あ・・・青峰っち・・・?」
視線を動かして、さらに心臓が大きく跳ねる。
目線の先にあったのは、自分の腰を抱きかかえる青峰の力強い腕。
いよいよ、黄瀬の思考がぐるぐるし始める。

(あ、あ・・・青峰っちがオレを・・・オレを・・・)

息ができなくなるくらいドキドキして、目眩がするくらい頭が滾った。

「おい。お前、顔まっ赤だけど大丈夫か?」
「だ、大丈夫っス!元気・・・元気っス!!」
「ならいいけど・・・」

言葉とは違い、青峰が心配そうに見つめてくる。
そして黄瀬を抱く腕に力を込めて、じっと黄瀬の目を覗き込む。

「お前、少し痩せたか?」
「へ?」
思いがけない問いかけに目を丸くする黄瀬。
そんなことは全く意識していなかったけれど・・・

「学校とか部活とかモデルとかで無理してるんじゃねーの?少しは休めよ」
「いや・・・あの・・・」
「ちゃんと食ってんのか?」
「・・・その」

(どうしよう・・・)
吐息を感じるくらい、こんな近くに青峰がいて触れられて。
壊れてしまうんじゃないかってくらい体が疼いて、心臓が爆発しそうで・・・

「・・・青峰っち」
「あ?」
「離してくださいっス・・・」
自分でも驚くくらいか細い声で告げると「悪ぃ」と言って、青峰は体を離した。
気まずい沈黙が二人の間を流れる。

先に口を開いたのは青峰だった。
「あのさ黄瀬」
「は、はいっス!」
「オレたち、付き合わねぇ?」

・・・・。
え?

黄瀬の動きが停止した。
目だけ見開いて、青峰を見つめる。
一方の青峰はいつもの青峰の表情で、けれど目の奥には覚悟を決めたような光を宿して黄瀬を見つめる。

「よく分からないっス・・・だってオレたちって・・・」
「好きなヤツでもいんのか?」
「いない!いないっス」
「じゃあ付き合おうぜ」

嬉しかった。
(やばいオレ・・・死ねる・・・)


憧れだった青峰っちからの告白。
ずっとカッコイイと思って、憧れていて大好きで・・・。
それでもきっとこの想いはただの憧れだと思っていた。憧れからくる「好き」なのだと。

でも、その時はっきりした。
これはただの憧れじゃない。
恋愛として、オレは青峰っちが好きだったのだと。

すぐに首を縦に振ればいいだけの話だった。
しかし、オレのだした答えは・・・

「もう少し考えさせてくださいっス・・・」


――バカだオレ。
素直に「よろこんで」って言えば良かったのに。
「うぁ〜・・・」
枕に顔を埋めて、誰に聞かれるわけもないうめき声を上げる。
嬉しくて嬉しくてしょうがないのは事実で、思い返すだけで幸せを噛み締めることができる。

それでも黄瀬の頭を悩ませているのは、この先の見通しだった。
付き合い始めて、その先になにがあるか考えた途端に怖くなる。
もしもうまくいかなくなった時、青峰に嫌われた時、その時オレは平気でいられるだろうか。

「なんでオレ・・・こんな女の子みたいなことで悩んでるんだろう」
ぽつりと呟いて寝転がる。
目を瞑ると青峰の声が耳に響いた。

――オレたち、付き合わねぇ?

ドキドキする胸にそっと手を当てる。
やっぱり自分は青峰が好きで、その気持ちはどうにもごまかすことはできなくて。

(言おう・・・明日、青峰っちに「好きだ」って。だから付き合ってくださいって)

決意を固めて、黄瀬はそのまま眠りに落ちることにした。





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