あめのおと

ザーッザーッと地面を叩く雨。
室内にいても響くその音につられて、黄瀬は外をぼーっと見つめていた。
すると・・・
「黄瀬。なにぼけーっとしてんだ?」
「いたっ」
黄瀬の頭を青峰が肘で小突いた。
「練習サボッてんじゃねーよ。赤司にしばかれっぞ」
「もう既に青峰っちにしばかれた気分スよ」
頭をさすりながら、黄瀬は再び外を見る。

「にしてもアレだなあ。こんな雨じゃあ風なんて入ってきやしねぇ」
「確かにそうっスね」
外の風が入ってくるように開け放たれた体育館の扉からは、時々雨の雫が入ってくるだけで涼しい風なんてちっともこない。
しかもジメジメした空気が気持ち悪い。

「あー・・・早くシャワー浴びたいっス」
言いながら垂れてきた汗をシャツの袖で拭う。
「シャワーなんていーから、とっとと練習すっぞ。ほら、1on1すんだろ」
「えっ」
黄瀬が目を丸くしてきょとんとしながら青峰を凝視した。

「んだよ」
「いや・・・だって青峰っちから誘ってくるなんて・・・珍しいなーって」
「別にいいだろ、。たまには」
しれっと言って、青峰は指先でボールをくるくる回す。
一方で黄瀬は嬉しさ全開でぱあぁっと顔を明るくした。
「・・・嬉しいっス」
「それは良かったな」
「うん!」
満面の笑みで頷くと、黄瀬は青峰の腕にしがみついて「早く早く♪」と急かした。





「うわー。まだ雨降ってるっスねー」
練習を終えて着替えを済ませ帰宅しようと外に出ると、まだ雨がしとしと降っていた。

「悪ぃ、テツ。傘忘れたから入れてくんねぇ」
「別にいいですけど・・・」
傘をさして黄瀬が後ろを振り向くと、青峰と黒子が相合傘をしていた。
しかも青峰は「濡れねーように」と黒子の肩を抱き寄せている。
その光景に黄瀬の胸がチクリと痛んだ。

「もー、青峰っちてば。黒子っちにメーワクかけないでくださいっスよー」
「テツ。帰りにバニラシェイクおごってやる」
「本当ですか?」
「ちょっと!無視っスか!?」

目の前で二人の世界を繰り広げられて、正直、黄瀬は泣きそうな気分になった。
黒子っちのことは大好きだし、これが嫉妬だとしたらとても黒子っちには申し訳ない・・・

複雑な感情を抑えるために軽く俯くと精一杯の笑顔をつくってみせる。
「・・・オレ、今日ちょっとこれから用事あるんで。先に帰るっスね」

それだけ言って足早に歩き出す。
おそらく家に向かっているであろう道をひたすらに歩いて、こんがらがる頭の中を整理しようと必死になった。
それでもどうにもできなくて、とうとう立ち止まってしまった。

「・・・んとにオレ・・・ばかだ・・・」
「誰がバカなんだよ」
雨の音を遮ってハッキリと聞こえた声に思わず振り返る。
「えっ!?あ、青峰っち・・・」
そこには、黒子と一緒ではない単体の青峰が傘をさして立っていた。

都合のいい幻ではないかと、黄瀬は何度も無駄に瞬きをしてみせる。
「なんで?・・・てか黒子っちは――」
「別々に帰ることにした。そのへんにあった置き傘みてーなのテキトーに借りたから」
「それっていいんスか?」
「オレがいいって思ったんだからイイ」

つかつかと青峰が近づいてくる。
どうしようかと黄瀬は気まずそうに目を逸らす。
「どうしたんだよ急に」
「なにがっスか?」
「用事なんてねーだろ」
「・・・どーしてそう思うんスか?」
「だってさっき練習終わった後にお前『これで早く家帰ってシャワー浴びてご飯食べて寝るっスー!!今日はフリーだしキャホー☆』って言ってたじゃねーか?」
「あ」

そういえば確かにそんなこと言った。
あまりにデカイ声で言ったから赤司っちに「涼太うるさい死ね」って蹴られたのも思い出した。

「・・・あのっスねー・・・その・・・」
「テツか?」
「は!?」
「オレがテツと一緒にいたのがイヤだったのか?」
「べ、別にそういうんじゃ・・・」
「じゃあ――どうしてお前泣いてんだよ?」
「へ?」

気づかなかった。
いつの間にか、黄瀬の頬を涙が伝っていた。

「ちが・・・違うっス!これは・・・雨っス。ほら、傘壊れてて雨漏りして・・・」
涙を拭おうとしたら手首を掴まれた。
そして傘が重なると同時に黄瀬の頬に青峰の唇が触れてきた。
涙のつたった跡をなぞって目尻までくると、そこに溜まった涙の粒を掬うように唇がちゅっと吸い上げられる。

「・・・青峰っち?」
「っとにバカだなお前は。大バカだ。バーカ」
青峰が黄瀬の髪をぐしゃっと撫で上げる。
「んっ」
犬でも撫でるかのようにぐしゃぐしゃと撫でられて思わず黄瀬は目を瞑る。

「でも、そーゆートコが可愛いんだけどな。お前は」
「え?・・・」

今、青峰っちなんて・・・え?・・・え・・・え―――

「ええぇぇぇぇぇ!!!!」
「ウッセー!!」

信じられずに叫んでしまった黄瀬の頭を青峰がバシッとはたく。
「うー・・・ヒドイッスぅ」
「おら!とっとと帰っぞ」
「あっ。待ってくださいっス!」

駆け出して青峰の隣まで来ると黄瀬はその横顔を窺う。
視線を動かして、傘を持っていない方の青峰の手が無防備であることを確認すると、そーっと手を伸ばしてみる。
そして、指先が軽く触れて握ろうとしたら逆に握り返された。
「っ!」
歓喜のあまり、息を飲んで紅潮する。

お互いに無言でただ歩くだけ。
その中で黄瀬は願う。

――家に着くまでは、どうか雨やまないで欲しいっス・・・じゃないと・・・

壊れそうなくらいうるさく鳴っている胸の鼓動が聞こえてしまうから。





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