らぶりぃすてっぷあっぷ

10月9日。
なんの変哲もないただの一日だと思っていた。

「紫原くん。誕生日おめでとうございます」
登校してくるなり、黒子は開口一番でそう言った。
帝光中学校バスケ部は今日も元気に朝練。ロッカールームで着替えていた紫原は、口をもぐもぐさせながら黒子を見下ろした。
「ん〜、ありがと黒ちん」
「プレゼントはお菓子……ですが既にたくさんもらってるみたいですね」
黒子が差し出すのはコンビニの袋。中身は紫原が大好きなお菓子がぎっしりだ。
「姉ちゃんと兄ちゃん達がくれたし」
得意げな顔で紫原は自らのロッカーの中を披露する。スクールバッグの他に、お菓子の詰まった袋が2袋ほど占領している。
「すごいですね。まるでバーゲンセールでも行ってきたみたいです」
「ここに黒ちんからのお菓子もプラスっと」
「あ」
まだ黒子の手にあった袋を自然な流れで奪うとロッカーにしまう。パタンと扉を閉めると、紫原は幸せそうな笑顔を浮かべた。
「誕生日ってだけで皆お菓子くれるから嬉しいし」
「良かったですね」
「うん!」
そんな会話を交わしていたらロッカールームの扉が開いた。
「あっ。赤司くん、おはようございます」
「おはよう」
「赤ちんおはよー」
キャプテンである赤司は誰より先に登校している。運動着姿ということは、職員室へ寄り体育館の解錠を済ませた後ということだ。
「ずいぶんご機嫌だな、紫原」
「うん♪だって俺、誕生日だから」
「え」
普段はあまり感情を表に出さないはずの赤司が珍しく驚いた顔をした。
「あれれ?言ってなかったっけ?」
紫原が首を傾げる。
「……すまない。知らなかった」
「まあ別にいいけど。赤ちんは忙しいし、俺なんかの誕生日覚えるよりももっと覚えるべき大切な数字がたくさんあるもんねぇ」
「…………」
すっかり黙り込んでしまった赤司はそっと目を伏せた。
「紫原くん。そういう言い方はないと思います」
「あーはいはい」
適当にあしらいながらお菓子をぼりぼり。赤司は依然、俯いたままだった。
「……あの、紫原」
「なに?」
「本当にごめん。何もあげられなくて……」
本気で落ち込んだ様子で、赤司は顔を上げようとしなかった。そんな赤司を見て、紫原はお菓子を摘む手を止めた。
ぼりぼりと口を動かしてから、ごくんと嚥下する。
「じゃあさ、赤ちん」
「……?」
赤司がゆっくりと顔を上げる。すると紫原はちょいちょいと手招きしてみせた。
「こっちおいで」
言われた通り近寄る赤司。紫原の前まで来ると、
「あともう一歩」
一歩踏み出す。
「うーん、もうちょっと」
もう一歩。
「もっと」
さらに一歩。
紫原と体が触れあいそうなくらい近付いたその時。
「赤ちんゲット〜」
がばっと抱き竦められてしまった。
不意打ちのことに赤司は一気に体温が上昇した。カッと耳まで熱くなる。
「む、紫原……!」
「プレゼントに赤ちんもらっちゃったし」
うりゃうりゃと赤司の肩に紫原が頭を擦り付ける。紫原の柔らかい髪がくすぐったい。
それだけじゃない。
抱き締めてくる紫原の温もりとか、力強さとか。そういうものを感じた途端、赤司はなんだかむず痒くなった。
が、すぐにそれが心地良いものだと気が付く。
「……紫原」
「んー?」
「ありがとう」
へ?、と紫原が顔を覗き込んだ。
赤色の大きな目。まっすぐにそれを見詰める。
「生まれてきてくれてありがとう」
よく通る澄んだ声が耳に響く。
ぽーっと紫原の頬が上気して、すぐに満面の笑顔を見せた。それはお菓子をもらった時よりも幸せそうに。
「うん!オレ、赤ちんに会うために生まれてきたし」
ぎゅうぎゅうとさらに強く抱き締める。
そして目の前に晒された赤司の首に唇を寄せていく。
「っ、紫原……?」
ちりっとした痛みを感じた後に紫原が体を離した。痛みのした箇所をそっと撫でて紫原が微笑む。
「これで赤ちんはオレのものだし」
「?」
訳が分からず赤司が首を傾げたその時――

「あの、二人とも……ボクのこと忘れていませんか?」
気まずそうに黒子が挙手をした。ゆっくりと黒子の方を見やって、赤司はさらに顔から火が噴いた。
「お、お前たち……!?」
そこには黒子だけでなく、いつの間にか緑間、黄瀬、青峰の姿が。
「朝から大胆っスねぇ」
「赤司も意外にノリノリだったよな」
「は、破廉恥なのだよ!」
口々に言葉を浴びせられる。
堪え切れず、赤司は咄嗟に紫原から体を離そうとしたが。
「赤ちん」
呼ばれたかと思ったら腕を掴まれる。
「離さねぇし」
普段は子供みたいなくせに。
こういう時、紫原は卑怯だ。
それと同時に紫原が歳上になったことを実感した。


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