どっちつかずなお兄ちゃん 2

好きという気持ちは封じ込めないといけなかった。
何故なら、タイガは大事な弟だから。
アツシ――アツシのことは好きだよ。
アツシに抱いた感情も、タイガに抱いたものと良く似ていたのかもしれない。
今やっと気付いた。
オレはどっちも大切でどっちも欲しくて、どっちつかずでワガママなんだって。


「ふ・・・、ン」
どうしてこうなったのか。
成り行きのままに火神の家に上がり込んで、ベッドルームに通されて。
そして今、氷室は二人の弟の目一杯の愛を文字通り全身で受け止めていた。
「タツヤ」
「室ちん」
右耳と左耳。
同時に息を吹き込まれて囁かれると背筋がゾクゾクッとした。
「室ちん耳弱いもんね」
かぷっと紫原が左耳を噛む。
その光景に「ムッ」となった火神が対抗して、右耳を舐め上げた。
「ふぁっ!耳やめろ・・・」
首を振って振り払おうと抵抗しようとするものの、両サイドの大きな弟達はびくともしない。
「タツヤかわいい」
ちゅっと火神が右目の泣きボクロにキスをする。
「もっと聞かせてくれよ・・・?あんたの声」
囁きながら、その手は服の下をまさぐりはじめる。
火神の手は冷たくて、素肌に触れた瞬間ヒヤッとした。
「タ、タイガ・・・」
長年の片想いがようやく成就して舞い上がってしまったものの、いざこういう状況になると氷室は複雑だった。

――タイガは大切な弟なのに。
その首に輝く指輪を見やると、胸がチクリと痛んだ。

「室ち〜ん。火神ばっかじゃなくてオレの相手もしてよ?」
紫原の指先が左目を隠す長い前髪を梳いた。
普段は隠れている左目が現れると、その瞼に唇を落とす。
「お兄ちゃんならオレのことも甘やかして?できるでしょ?」
「・・・アツシ」
潤んだ氷室の目を紫原が覗き込む。
「ちゅーしよ?」
「ばっ!?」
氷室より先に反応したのは火神だった。
「ざけんな紫原!」
「はあ?ふざけてんのはどっちだし。火神さっきキスしたんだからいいじゃん。今度はオレが室ちんとキスする番だし」
そのまま火神から遠ざけるように、紫原は氷室の体を引き寄せた。
抱きかかえると横抱きにして膝に乗せる。
「室ちん、唇ちょーだい」
ふにっと下唇を親指で押す。
氷室はおろおろと視線を動かして、紫原と火神を交互に見ていた。
「ま、待て・・・アツシ。タイガが――」
「はあ?火神なんて知らねーし。室ちんの恋人はオレでしょ?」
ぐいっと腰を抱いてさらに引き寄せると、鼻先がぶつかりそうなくらい顔が近くなる。
獣のような目をした紫原の貪欲な眼差しに、思わず氷室はドキッとしてしまった。

――アツシはやっぱりかっこいい。
何度見ても思う。
どうしたってアツシはかっこいい。それでいて可愛い。
いっそこのまま身を委ねてしまおうか?

そう思って、氷室はそっと目を瞑った。
紫原の柔らかい髪が頬に触れて、甘い香りが鼻を掠める。
ふにゅっと唇が触れると不思議と心地良い。
そんな二人の様子を歯ぎしりでも聞こえそうな剣幕で、火神は睨み付けていた。
「・・・あー、そうかよ。ならオレはこっちもらうわ」
不機嫌そうな火神の声がしたかと思ったら、ガッと下の衣服に手をかけられる。
まさか、と思うより先にズルッと下着ごと衣服を剥ぎ取られてしまった。
「んぅ!?・・・はっ、タイガ!?」
バッと下半身を隠そうとするものの、先に火神に膝裏を掴まれてしまった。
グイッとそのまま大きく脚を開かれる。
「やめろ・・・!」
脚を振り払ってみるものの効果はなし。
ちゅっと太ももに唇が触れたかと思ったら、強く吸い上げられた。
「あっ・・・!ぅ」
氷室が切なそうな声を上げると、火神は口を離して心配そうに見上げた。
「わりぃ・・・。痛かったか?」
するすると痕をつけた箇所を指先でくすぐられると脚の間がむずむずしてしまう。
「・・・平気、だ」
そう返すと、ニッと火神が笑った。
「ならいいや。もっとあんたのこと奪ってやるよ」
再び下半身に顔を埋める火神。
そのまま脚の付け根の際どいところを舌が這う。
「んっ・・・ば、ばか!」
身じろぎする氷室の体を後ろから支えて、紫原はその首の付け根に顔を埋めた。
「室ちん。オレも続きしてあげんね?」
「・・・は?」
「室ちんが好きなすごくしつこいキス。たくさんしてやるし」
舌舐めずりをした紫原が、顎を掴んで無理矢理に氷室の顔を上に向かせる。
ちゅぷっと唇同士が触れると、すぐにそれは濃厚な口付けになった。
「ん、ふ・・・んぐぅ」
飲み込めなかった唾液が口端から滴る。
生き物みたいに蠢く紫原の舌。
それに合わせて舌を動かしているうちに、とうとう火神の手が熱を帯びた中心に触れた。
「あんたのここ、こんなになってるぜ?」
「!?やっ・・・」
咄嗟に紫原から離れて体を起こそうとするものの、
「気持ちいーんだろ?もっと良くしてやるよ」
ぱくりっと火神の口がそれを咥え込んだ。
背筋にピリッとした電流のようなものが走って、氷室は鞭打ちされたみたいに再び仰け反った。
「や、タイガ・・・ぁ、やめ」
弟の火神がそんなところを無邪気にしゃぶる姿なんて見たくない。
目を瞑った時――
「アララ。室ちんてばイケナイお兄ちゃんだねぇ。弟に恥ずかしいことされて気持ち良くなっちゃうなんて」
「言う、な・・・!」
容赦ない紫原の言葉。
でも、事実だから仕方ない。
「お口のまわりもよだれで汚しちゃってさ。ほんとイケナイお兄ちゃん」
あーん、と紫原の大きな口が唇を塞ぐ。
「んっ、ん・・・」

どうしたらいいのか分からない。
恋人であるアツシと、弟であるタイガ。
その二人に同時に迫られて、嬉しくないはずがない。
嬉しいと思う気持ちと愛おしいと思う気持ち。
そのどちらもが溢れて、苦しくて、おかしくなりそうだ。

ちゅぷちゅぷと音を立てて、火神が中心を舐め上げる。
すっかり硬くなってしまった幹に手を添えて、愛おしそうに吸い付いて裏筋を舐め上げた。
「・・・ぁ、ふ」
真上を向かされた不安定な状態で真上からキスされて、さらに脚の間を舐められるなんて。
背徳感が込み上げる度に、不思議と脳がピリリと痺れた。
「っ・・・、〜〜〜!!」
声にならない声を漏らして、とうとう氷室は達してしまった。
溢れ出た白濁をしっかりと口で受け止めると、火神は何事もなかったように嚥下した。
ビクビクと震える氷室の舌を、紫原は面白そうに吸い上げる。
「・・・室ちんかーわいい」
よしよしと頭を撫でてやるものの、未だ余韻に打ちひしがれて氷室の体は震えていた。
「あ・・・、やだ」
顔を見られたくなくて背けたものの、今度は火神が身を乗り出して覗き込む。
「なあ。あんたの顔、見せて?」
「・・・・・・ぁ」


こんなことはいけない。
どっちつかずで選べなくて。
あまつさえ、それを嬉しいと思ってしまうなんて。
どうかしてる。
どうかしてる、のに――

それでもどうしても愛おしくて止まらないんだ。


[ 204/346 ]



[もどる]
[topへ]
[しおりを挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -