不器用な恋模様

歳上の恋人って厄介だ。
好きで好きでたまらなく愛していたとしても、なんだか報われないような気がしてならない。
手を伸ばして繋ぎとめようとしても、するりとくぐり抜けられるような予感がする。
そうなるといよいよこっちもヤケになるわけで。

――いつになったらあんたはオレのものになってくれるの?

問いかけるように押し倒してやったら、室ちんはびっくりしたような顔をしてオレを見た。


「・・・どうしたんだい?アツシ」
訳がわからないといった顔をする室ちんに余計にイライラが募り出す。
少し視線をずらせば、その白い喉元で輝く銀色の指輪。
ぐいっとチェーンに指を引っ掛けて引っ張り上げる。
「っ、アツシ・・・!」
室ちんは慌ててオレの腕を掴んできたけれど、オレはそのまま指輪を握り込んだ。
その状態で引っ張れば、ぐぐっと白い首にチェーンが食い込む。
あともう少し力を加えれば、おそらくきっとチェーンが千切れる。
「あんたさぁ・・・ほんとにオレのことが好きなわけ?」
「は?」
「なにその間抜けな返事」
「好きだけど」
「けど?」
氷みたいに綺麗な色素の薄い目を真っ直ぐ見詰めて問いかける。
さっきからその黒目はきょろきょろと動いて、瞳にオレの顔と手元を交互に映していた。
どうやら室ちんはオレの質問に集中していないらしい。
「な、なあ・・・アツシ。離してくれないか?苦しい・・・」
あ、やっぱり。
室ちん、オレからの質問よりも指輪の方を気にしているんだ。
そういう何気ない仕草がイライラをいっそう引き立てるっていうのに。
「室ちんのそういうのってさ。歳上の余裕なの?なんなの?」
「・・・何を言っているのか理解できないよ」
「じゃあバカなんじゃないの?」
ストレートにそう言うと、いつもはポーカーフェイスの室ちんの頭に血が上ったのが分かった。
(あ。もしかして殴られる?)
そんな予感を察知して、すぐさまもう片方の手で室ちんの両手首を纏めて頭上に捻り上げた。
「ッ・・・いい加減に――」
腕が使えないとなると次にくるのは、
(はいはい。足でしょ)
分かっているけど、それよりも先に――
ブチッ
チェーンを引き千切ってやった。
あっ、と室ちんがひるんだのを見計らってからその腰に跨る。
重いかもしれないけど、まあこの人ちゃんと腹筋鍛えてるし問題ないでしょ。
「こんな指輪が室ちんの一番なのね」
「・・・返せ」
声が聞こえた方を見下ろしてから、ゆっくりと唇を動かす。
「やだ」
「ふざけるな・・・!」
「ふざけてなんかねーし。おおまじめだし」

改めてまじまじと眺める指輪は、時代の流れに乗り遅れることなく、およそ十年分の時の重みをしっかりと背負っていた。
つまりそれは薄汚れていた。
遠目からではただの綺麗な銀色にしか見えなかったけど。

「室ちんさ。いつまでもこればっかじゃなくてさ。オレがもっといいの買ってあげるから」
「なにを・・・」
「もう火神なんか諦めなよ」

この指輪を愛おしそうに眺めるあんたが嫌い。
毎晩欠かさず指輪の手入れをして、毎朝必ず首に通すあんたを見てるのが嫌。
オレのことを「愛しているよ」と言ったその口で、あんたが火神の名前を呼ぶのも嫌い。

いくらオレが「室ちん好き」って囁いても、いつもあんたは何食わぬ顔で笑顔を向けるだけ。
もしその相手がオレじゃなくて――

「ねえ、室ちん・・・好き」

少しだけ期待してみたけれど、やっぱり今回も変わらない。
室ちんは少しだけ困ったような顔をしてから、ゆっくりと瞬きをして微笑んだ。
ズキッ
なんだろう?胸の奥が痛い。

「・・・どうして室ちんはいつもそういう顔するの?」
もっと笑って欲しいのに。
恥ずかしがって頬を染めるとかさ。
本当に好きな人から「好き」って言われたら、もっと嬉しそうな顔をしてくれてもいいのに。
「やっぱオレのこと好きじゃないんだ?」
多分きっと、室ちんはオレのことなんか望んでいない。
オレに好きって言われるよりも・・・
「火神だったらいいわけ?」
「そんなことは言っていないだろう?」
「言わなくたってわかるし!」
ああ、なんでこんなに憎たらしいんだろう。
憎くて悔しくて哀しい。
オレはこの人のこと大好きなのに。

オレの手の平で簡単に捻り潰してしまえそうなくらい、小さい小さいこんな指輪を・・・こんなものを愛おしそうにするあんたを・・・
――守りたいって思ってしまったのに。
何でも出来て何も出来ない。すごく綺麗で汚い――そんなあんたをオレは・・・

「・・・ごめん。やっぱり好き」
溢れる想いをぶつけるように、室ちんの唇を奪う。
がぶりと噛み付くみたいなキスをして、角度を変えて貪る。
「んんっ」
唇が擦り合わさる度、室ちんは体を震わせて身じろぎをした。
そういう反応ってたまらなくそそる。
歳上でそういうことに慣れてそうなこの人がたまに見せる初々しい反応。
それがたまらない。
もっともっと、オレしか知らないそんな姿を見てみたいって思ってしまうんだ。
「・・・室ちん」
囁いて、また唇を重ねる。
唇を舐めてから、歯列の隙間から舌を差し入れる。
もっと深いキスがしたくて、つい室ちんの顎を掴んでしまう。
握っていた指輪が落ちて、そのままコロコロとどこかへ転がっていこうとした。
「・・・ん!?」
室ちんは目を見開くと、すぐさま視線で指輪を追った。
それにまたカチンとなった。
室ちんの両腕を拘束していた手を解いて、オレは指輪を拾い上げる。
そしてキスしたまま、それを放り投げた。
カツン、と部屋の壁にぶつかる音がした。
ひとまずはこれで室ちんの気が逸れることはないだろう。
部屋の床でするのは体が痛いかもしれないけれど、今日はこのまま抱いてやる。
そう思って油断しきっていたら――

ガリッ!
嫌な音が内側から耳を貫いた。
直後、唇に痛みが走る。
「ッ・・・い!?」
咄嗟に体を離してから唇にそっと触れてみる。
指先には真っ赤な血がこびりついていて、その箇所を舐めると鉄の味が口いっぱいに広がった。
「ッ、室ちん・・・!」
こっちも対抗して、剥き出しになっていた首筋に噛み付いた。
「いッ――!?」
噛み切らない程度に強く噛み付くと、オレのとは違った血の味がした。
室ちんがオレの両肩をグイグイと押してくるけど、その程度の力じゃオレには敵わないし。
口を離すと、白くて綺麗な首にはくっきりと禍々しい歯型がついていた。
少しだけ満足して顔を上げて、ギョッとする。

室ちんは泣いていたのだ。
「っばか!」
困った・・・。室ちんに泣かれると、オレは弱い。
「アツシのばか!嫌いだ・・・お前なんか・・・」
泣いてる顔を見られたくないのか、手の甲で顔を隠す室ちん。
おまけに「嫌い」なんて言われてしまうと頭が混乱した。
「室ちん、オレは――」
歯型が目に入ってハッとする。
(そうだ・・・室ちんのここ・・・)
いつもあの指輪のあるここをオレが・・・
オレで埋めてやったら・・・?
再び引き寄せられるみたいにして、室ちんの首に顔を埋める。
歯型を労わるようにして唇で撫でてやってから、そのすぐ横を吸い上げた。
「あ、やだ・・・やめっ」
やめろと言われてやめる奴なんていない。
少なくともオレはそういう人間じゃない。
室ちんの両肩を押さえ付けて、首にたくさん鬱血の痕を残していく。
「やめろ、アツシ・・・!頼むから・・・」
そんな声を耳に入れながら、今度はシャツの下をまさぐる。
するすると撫で上げていく肢体は、無駄なものがなくて綺麗だ。
本当にこの人は、見た目だけなら完璧なのに。
「・・・もったいないし。ほんとに」

なんだか鬱陶しくなってきた。
抵抗する室ちんを無理矢理に捩じ伏せて、制服を脱がしていく。
ネクタイを解いて、カーディガンとワイシャツの前を開ける。
その間、どうしてか室ちんは何も言わなかった。
ただ悔しそうな顔をして涙を浮かべるだけ。
袖を脱がすのは面倒だったから、前を広げたままの状態でその姿を見下ろす。
涙目でオレを睨んでくる顔と、中途半端に乱れた衣服。
程良く引き締まった色白の身体。
室ちんは肌の色が驚くほどに白いから、胸の飾りの色も淡くて美味しそう。
舌舐めずりをしてそこにしゃぶりつく。
「っ、あ」
ちゅうちゅうと吸い付くと、すぐにそこはコリコリとしこり始めた。
「きもちいーい?」
顔を上げて尋ねるも、室ちんは困ったように眉を顰めるだけ。
「おかしいなぁ・・・。室ちん、おっぱい吸われるの好きじゃなかったっけ?」
「そ、そんなこと・・・」

(あ)
ようやく室ちんが慌て出した。
顔を真っ赤にする姿を見て、やっぱり当たりだったと確信する。
カリッと歯を立ててやると、
「ひゃっ」
ようやく聞きたかった声が聞けた。
優しく噛み付いて甘噛みしてやる。
ついでにもう片方も押し潰してから引っ張って捏ねる。
「あっ、ん・・・や」
もぞもぞと膝を立てる仕草をされると、無意識なんだろうけれど、なにやら硬いものを押し当てられる。
「当たってるんだけどー?」
「っ!?」
ぼそりと呟きかけてやれば案の定、室ちんは顔を真っ赤にした。
そうそう。
そういう顔を見たいんだよ、オレは。
ちゅうっと一際強く乳首を吸い上げてから、今度は下の衣服を乱していく。
「だ、だめだ・・・!」
切羽詰まったように声を荒げて抵抗してくるけど、そんなの全然通用しないよ。
ずるっと制服のズボンをずり下ろしてから、露わになった欲望に舌を這わす。
「やっ!あ、アツシ・・・やめ、っ!」
両の太腿を押さえ込んで、脚の間に顔を埋める。
「ふぁ!?ん、あ・・・」
オレの口から溢れる唾液と、室ちんの体液が混ざり合っていやらしい音がする。
じゅっじゅっとわざと音を立てて口淫してやれば、室ちんの腰が捩れた。
「や、やぁ・・・!あッ」
どうやら室ちんは快楽を持て余しているみたいだった。
口でされるのは慣れないみたいで、いつも腰が蕩けそうになるんだっけ?
ちゅうっと一際強く吸い上げてやると、室ちんの膝がオレの頭を挟み込んだ。
痛いし動けないしやりづらい。
イラッとして、室ちんの両膝を掴んでシーツに押し付けた。
「あ、やだ・・・こんなの・・・」
恥ずかしい格好をさせられて、室ちんの体温が上がった。
れろれろと先端の敏感な部分を舐めてやりながら、奥まったところにあった入口を見やる。
ひくひくと収縮するそこがたまらなく卑猥でそそられる。
そのまま舌を滑らせて、入口に舌を捻じ込んだ。
「ひぁ!?ん、や・・・舌やだぁ」
泣きそうな声を上げてもやめるつもりなんてない。
指も使って抉じ開けると、さらに奥へと舌を忍ばせる。
気持ちいいみたいで、内壁がひくひくとうねっているのがわかった。
「あ、ひ・・・やぁ、っん」
「・・・室ちん善がりまくりでしょ」
にやりと笑いかけてやると、室ちんの顔がさらに真っ赤になった。
「かわいい」
舌を抜いて指を挿入すると、無遠慮に中を掻き回す。
ぐちょぐちょになった室ちんの中は、オレの指に合わせて絡みついてくる。
「室ちん・・・。も、いい?いれていーい?」
コリコリと奥を刺激すると、ぎゅっと堪えるみたいに目を瞑る室ちん。
その瞼にキスをして耳を口に含む。
「室ちん・・・オレ、室ちんが好き。大好き。好き。好き・・・!」
囁きながら唇を滑らせていく。
やんわりと触れるだけの口付けを無数に落として。
傷だらけの首をいたわるように。優しく――

「・・・――ツシ」
「ん?」
「・・・好き、だ」

歳上の恋人って厄介だ。
好きで好きでたまらなく愛していたとしても、なんだか報われないような気がしてならない。
手を伸ばして繋ぎとめようとしても、するりとくぐり抜けられるような予感がする。

「本当に?」
こくこく、と室ちんが頷く。
「嘘じゃない?」
「・・・ああ」
じっと目と目で見詰め合う。
(やっぱ室ちん綺麗だなぁ)
「ごめんね。室ちん」
こつん、と額をぶつけて囁きかける。
「室ちんの大事なもの、奪っちゃって」
指輪のあった痕を指先でそっとなぞる。
室ちんは瞳にいっぱい涙を溜めて、小さく首を振るだけだった。



その後は無我夢中で室ちんを抱いた。
室ちんはなんだか諦めたような顔をして、終始オレの腕の中にいた。
何度も何度も壊れたみたいに「好き」と呟いて。


「・・・アツシがリングをぞんざいに扱うから」
ベッドの中で、室ちんは指輪を大事そうに撫でたり小指に嵌めたりした。
「ついカッとなってしまった」
「ふーん」
オレとしては指輪を取り戻してようやく落ち着きを取り戻したみたいなそういう態度が腹立つんだけど。
「でも、ありがとうアツシ」
「あー?」
すりすり、と室ちんが擦り寄ってくる。
なんだか室ちんにこういうことされるとむず痒い。
歳上で気まぐれな猫みたいなこの人が。
オレなんかにこんなふうに甘えてくれるなんて。
「アツシがオレをどれだけ好きか分かったから」
にっこりと笑う室ちんの顔――

かあぁぁぁっと顔が熱くなった。
「うっ・・・!やっぱり好き!!」
ぎゅううっと抱き締めて一生離さないと誓う。
いつかきっとこの人の本当の一番になってやる。
そしてこの人を守りたい。
不器用なこの人を・・・――
一生守ってやりたい。

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