ハロウィンの合言葉は?

今日はハロウィンだからといって、クラスの女子や友人達からお菓子をたくさんもらった。
大好きな飴ちゃんも貰うことができたし、少しだけ上機嫌に木吉は部活へと向かった。
体育館へ行くとまだ練習は始まっていなかったらしく、各々が準備体操をしながら雑談にふけっているようだった。
「なに話してるんだ?」
木吉が声を掛けると、小金井が振り返り笑顔を向ける。
「あ、木吉〜。トリックオアトリート!」
「え?」
振り向きざまにそう言われ、一瞬木吉が面食らう。
きょとんとした木吉の様子に小金井が「ん?」と首を捻った。
「なんだよ木吉。つれないなー」
伊月が愉快そうに笑い飛ばす。
「トリックオアトリートって言われたら、返すことがあるだろ?」
土田に促されて、木吉が視線を宙に泳がした。
「・・・んー?」
顎に手を当てて考え込む木吉に一同が唖然とした。
「もしかして木吉、知らないの?」
おそるおそる小金井が尋ねる。
「なにが?」
その一言に、三人が顔を見合わせた。
状況が分からない木吉は、そのままの表情で三人を見やる。

「ハロウィンはいたずらをしてもいい日なんです」

ふいに聞こえてきた、やけに落ち着いた淡々とした声。
見下ろすと、黒子がちょこんとそこに立っていた。
突然現れた黒子に皆が一斉に「わっ!?」っと反応した。
「く、黒子・・・」
びっくりしたように伊月が胸を押さえる。
しかし黒子は平然とした様子で「あ。すみません」と一言謝り、木吉に向き直る。

「木吉先輩」
「ん?」
「トリックオアトリートはお菓子をくれなきゃいたずらする、ということです。でも、逆に言えば『お菓子はいらないからいたずらしてくれ』という意味にも取れませんか?」

「は?」
黒子の主張に声を上げたのは、木吉ではなく他の三人。
特に小金井に至っては意義ありと言うように挙手までして黒子に詰め寄った。
「黒子、そういう嘘はやめよう!こいつ本当に信じちゃうから」
「・・・あながち嘘ではないと思いますが」
さらりと微笑して流す黒子。
木吉は考える。

トリックオアトリート――いたずらして欲しい。

「コラッ!そこのお前ら!!練習しろダァホッ!!」
わいわい騒いでいたら日向の声が耳に響いた。
準備体操をして体を解しながら思う。
いいことを聞いた、と。




「あ?何しに来たんだよテメェ」
学校帰りに木吉がわざわざ立ち寄ったのは、自分の愛しい相手の家。
呼び鈴を鳴らして、ドアの隙間から現れた花宮に木吉は満面の笑みを浮かべた。
「寂しくなかったか?マイハニー」
「うぜぇ死ね」
ばたんっ、と扉を閉じようとしてくるから、すぐに足を挟み込んで阻止する。
じとっ、と嫌そうな顔で花宮が見上げた。
「もしかして照れたのか?」
「んなワケねーだろバァカ」
そんな花宮を内心で「可愛いな」なんて想いながら木吉がにっこりと笑う。
その顔に花宮も少しだけ、どきっとすると気まずそうに扉を開けて木吉を自宅へ迎え入れた。
「・・・っ、寒いからな。風邪ひかねーうちにとっとと入りやがれバカ」
「ははっ。花宮かわいいな」
「ッ!うるせー禿げろ」
そう言う花宮の顔は真っ赤だった。



「来るなんて思ってなかったから、もてなすもんなんて何もねーぞ」
なんだかんだ言って、花宮は木吉を部屋まで通した。
いつ見ても花宮の部屋は綺麗に整頓されていて、モノトーンの落ち着いた雰囲気の色調は相変わらずだった。
「だいだい来るなら来るって言やーいいのに・・・いつもテメェはそうやって思い付きばかりで――」

ぎゅっ

背を向けて、捲し立てる花宮を木吉が後ろから抱き締めた。
身長差のせいで、花宮の後ろ頭にちょうど鼻が擦り付けられる。
「本当は寂しかったんだろ?」
「・・・ちげぇ」
「嘘。寂しいって顔にでてるぞ?」
「でてねぇ・・・」

どこか弱々しい花宮の声。
花宮がこういう声を出す時、たいていは図星だと分かっている木吉が口元を緩める。
「今日はハロウィンだなー」
「だからなんだよ」
「真とずっと一緒にいたいなー」
「っ!?」
花宮が顔をカッと熱くする。
抱き締める木吉の目の前にある、綺麗な形をした耳までもが茹でダコのように赤く染まった。

「名前で呼ぶなっつってんだろ!!死ね!!」
「オレが死んだら、真は寂しくて死んじゃうだろ?あ。でも真が死んだら一緒に天国いけるのかー」
「絶対ぇオレは天国とかいかねー」
「『いかない』じゃなくて『いけない』の方が正しいかもな。真、悪いことばかりしてるから」
ははは、と笑い飛ばす木吉を花宮がキッと睨み上げた。

「ウッセーんだよテメェは!いつまでひっついてんだよ殺すぞ離れろ変態ジジイ!!」
ぎゃーぎゃー喚いて暴れる花宮を離そうなんて、どうして思えるだろうか?
「わっ、お、おい・・・ちょっ、なにす・・・!?」
そのままもつれるようにして、花宮をベッドに押し倒した。
「・・・なんの真似だよ」
「なにって、こういうことしたいんだけど?」
にっこりと笑って、花宮を真下に見下ろす。
じとー、と睨んでくる花宮は顔を赤くして、眉をハの字に歪めて唇を引き結んで悔しそうに瞳を潤ませている。
こうなったらつまり花宮もまんざらじゃないということらしく。
悪童と名高い花宮からは想像もできないくらい――

「可愛いな」
ちゅっ
木吉が花宮の唇を音を立てて啄んだ。
たったそれだけの行為なのに、さらに花宮は顔を火照らせる。
カーッ、となっていく顔と歪む表情がたまらない。

「真。今日はなんの日だ?」
「ハ、ハロウィンだろ・・・んなことくらい知ってるっつーの」
「じゃあ言うことがあるだろ?」
「んだよ?」
「ハロウィンにお決まりの合言葉」

にこっ、と微笑む木吉を花宮が目を据わらして見つめ返す。

「・・・・・・トリックオアトリート?」
花宮が少し震える声で様子を窺うように、上目遣いにそう返す。
「正解♪」
調子良く呟いて、木吉が再び口付ける。
唇を重ね合わせて、角度を変えて舌を交える。
意外にもあっさりとキスを受け入れた花宮。
(やっぱり真も欲しかったんじゃないか)
そう思うと微笑ましい。
軽く笑みを浮かべながら、木吉は次第にキスを深くしていった。
「んんっ、ふ・・・ぅ」
するとそれに応えるように、花宮が木吉の首に腕を絡ませる。
唾液が溢れてくちゅくちゅ鳴る音とか、漏れる吐息がたまらない。
「・・・、真」
キスを解いて髪を撫でる。
柔らかい真っ直ぐな黒髪を、指先で掬って落とす。
「・・・・・・話がちげぇ」
「なにが?」
「トリックオアトリートって。オレが言ったんだから、いたずらするのはオレがお前に、じゃねーのかよ」
「そうなのか?」
花宮が「はぁ?」と顔を歪めた。

「だってオレはトリックオアトリートは『お菓子はいらないからいたずらして』っていう意味が込められているって、そう聞いたんだけど?」
「どこ情報だよソレ!?」
喚く花宮の唇に、木吉がそっと人差し指を立てて押し当てた。
「嫌か?」
「なにがだよ?」
「オレにいたずらされるの」
「・・・」
「真?」
「・・・・・・」
「まーこーと――」
「うっせーな!!嫌じゃねーから今こんなことになってんだろーが!!そんくらい察しろバカッ」

木吉の口元がふっと緩む。
途端に花宮の唇を塞いで、大きな手でその体をまさぐりだした。
「ふ、っぁや・・・!」
シャツを捲くって胸の先の突起を摘めば、面白いくらい反応してくれる花宮が可愛くてしょうがない。
指先で押し潰して捏ね回すと、弾力を増していく凝った乳首。
そのまま唇を滑らせて、顎から首のラインを舐めてから、露にした乳首にねとっと舌を押し当てた。
「や、めろ・・・あっ」
体を捩らせて、花宮が木吉の肩を押し返そうとする。
しかし思うように力が入らないらしく、とても弱々しい。
がりっ、と調子に乗って歯を立てる。
「ひゃんっ」
絶対に普段の花宮からは想像もできないくらい、やけに可愛いそそる声。

もっと先が欲しくて、ズボンを寛げて花宮の昂りを取り出すと、ついでに大きく膨れ上がった自分の欲望と一緒に握りこんで擦り合わせた。
「っ、あ!や、やめ・・・」
先走りがとろとろと溢れ、それを塗りつけるようにして弄り回す。
互いの先から零れる雫が混ざり合って、粘ついた音がいやらしい音が部屋に響いた。
「ん、やぁ・・・木吉ッ」
花宮が、ぎゅっと目を瞑る。
これはそろそろイきたいという合図だ。

だが、そうはさせないよ。
握る手を離して、木吉が花宮の顔を覗き込む。
「な、なんだよ・・・まだ――」
くいっ、と後ろの窄まりを押してやると花宮が息を呑んだ。
「・・・もうかよ?」
潤んだ目で見詰めてくる花宮の額にキスを一つ落として、木吉が指を挿入する。
二人分の先走りで濡れた指をぬるぬる滑らせて中を暴くと、抉じ開けて掻き回してから、内壁をゆっくりと擦り上げていく。
「っ、くぅ・・・」
体内を探る異物感に花宮が眉を寄せる。
それでもこれから受け入れる負担が少しでも軽減されるように、中をせわしなく解される。
奥の凝ったところを指の腹で押されると、それに弱い花宮が目を見張った。
「あっ!テメェ・・・そこは嫌だって言って・・・あぅっ」
「だめだぞ?ちゃんとしとかないと後でツラくなるのは真の方なんだから」
ぐりぐりと押し当てて弄ると、花宮が膝を立てて抵抗するから掴んで外に押し倒す。

もうそろそろいいだろう。
そう思って指を抜いて、代わりに宛てがう熱。
欲望の塊をゆっくりと中へと埋め込んでいく。
「あ、ッぁ・・・――んあぁ!?」
何度抱いても花宮は挿入の異物感が苦手らしい。
目尻に涙を溜めて、口を大きく開ける姿には悪童の面影なんてない。

「天使だな。これは」
苦笑して抱き締める体。
花宮の体はちゃんと鍛えられていて筋肉の張った、バランスのとれた肉体だった。
柔らかくもないし、良い感触がするわけでもない。
それでも木吉はこの体が好きだ。大好きだ。

「好きだよ」
「んあっ、やめ・・・動くなっ」
囁いて耳を食む。
身を乗り出せば自然と奥を抉ってしまう。
苦しそうに震える花宮の唇を啄んでから、涙の張った潤んだ目を覗き込む。
「ッ、早くイかせろバカッ!」
精一杯に強がった、そんな可愛い顔でそう言われてしまうと歯止めが効かなくなってしまうじゃないか。

「じゃあおねだりしろよ」
「はぁ?」
「真」
名前を呼んで微笑めば、花宮は悔しそうに視線を泳がした。
そして恥ずかしそうに頬を紅潮させて唇を震わせる。

「〜ッ・・・とっととイかせろ鉄平!!」
叫ぶみたいに言ってから、顔を手で覆って隠す花宮。
「色気のないおねだりだなー」
クスクスと笑いながら、木吉が体勢を整える。
「・・・悪かったな」
ぼそりと吐き捨てた花宮が拗ねたような顔をしてきたから、前髪をぐしゃっと撫で上げて宥めてやる。
「やめろ」
「お前のそういうところがオレは好きだぞ」
「んっ」
優しく唇に吸い付いてから、腰を打ち付けて揺さぶる。
「あっ、んあ・・・やめっ、ろ――」
「やめたらイけないだろ?」
「や、やぁ・・・あ」

こんな風に甘い声を出すのも。
ツラそうな顔を見せるのも。
全部オレだけのもの。

そう思うと愛おしくてたまらない。
握りこんだ花宮のそれが限界まで張り詰める。
揉みしだいて弄り回すと、痙攣したように震える体。
「や、あぁ――・・・」
小さく絞り出すみたいな声を上げて花宮が絶頂する。
一拍置いてから、木吉も花宮の中に欲を吐き出した。

息を切らす花宮の唇に噛み付くようなキスをしてから見詰めあえば、いつものキツイ眼差しで花宮が睨み付けてきた。
「・・・本当にお前死ね」
「どうして?」
「死ね」
どうやら機嫌を損ねてしまったようで、そっぽを向いて顔を隠してしまった花宮に、どうしたものかと木吉が小さく息を吐く。

「・・・なわけねぇだろばか」

消え入ってしまいそうなくらい、か細い声。
ちゃんと聞き取れるように顔を近づける。
「・・・お前が来んの待ってたんだからな」
「え?」
「カボチャのケーキとか。食うかと思って」

木吉の顔がみるみるうちに綻んだ。
「い、いる!ありがと」
「だー!もういいから早く抜け!!風呂入りてぇし、汚ぇし最悪だッ」

素直じゃない恋人と過ごすハロウィンはどこか不思議で落ち着かない。
けれど声を上げて言えることは。

トリックオアトリートに続く言葉は『Happy Halloween』。



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