2章 小さな自警団


一行は、ようやくイーリス城下町に戻って来た。


「安いよ、安いよ!!

今ならこの果物3つで180ゴールドだ!」


「只今セール中!そこのお嬢さん、是非うちのアクセサリーを見て行ってください!」



賑やかで売り手のよく通る声や歩いている人々の話し声が聞こえる。


「まあ……とても賑やかなんですね……」


始めて見る光景にルフレは目をキラキラさせる。



「…この辺りにはあの地割れの被害が無いようですね、良かったです。」


フレデリクが安堵の息をついていると



「おお……エメリナ様じゃ……」



老人の声がしたのでそちらを向くと、たくさんの兵に囲まれながら美しい女性が微笑み、手を振っていた。



「あ、あの方は……?」


「あの方はイーリス聖王であらせられるエメリナ様です。」


「え?王がこんな町に?」


不思議そうなルフレにフレデリクは補足をした。


「王はこの国の平和の象徴です。

今はペレジアとの関係もあり国が緊張状態ですから。

ああして王自ら姿を見せ、民の心を鎮めているのです。」


「…この国は、素晴らしい王が治めているのですね…」


ルフレのその言葉にリズは嬉しそうに、そして何処か誇らしげに言った。



「でしょでしょ?だって私のお姉ちゃんだもん!」


「ああ、リズさんのお姉さんですか………….え?お姉さん?」


「?そうだよ、エメリナお姉ちゃん!すっごく優しいんだよ!」


「え、あの方が姉という事はつまり…」


「リズ様とクロム様はこの国の王子様とお姫様ですよ。」



「ええっ!?で、でも2人は自警団じゃ」

「王族が自警団をやって悪い法は無い。」

「確かにそうですが…」

「まあ、気軽に話しかけてくれ。

と言ってもお前は誰にでも丁寧だな。」


そうやって軽く笑うクロム。


ルフレはそうか、と手を小さく叩いた。


「フレデリクさんは、2人が王族だから丁寧な口調なんですね」

「いえ、私もルフレさんと同じく誰にでもこんな口調ですが」

「…………………」


…………フレデリクは、それだけ真面目な人物である。




「姉さんが城に戻るようだ。
俺たちも行こう。」


そう言って一行は王城に向かった。











王城の中は煌びやかな物がたくさんあるわけではなかったが、高級感に溢れ、王族が住む場所なんだと改めて実感した。



部屋の中央には先程の聖王エメリナが佇んでいる。

隣の彼女は側近だろうか。


「クロム、リズ、フレデリク。
賊退治、ご苦労様。」

「ああ。やはり奴らはペレジアの奴だ。」

「そうですか……困りましたね…」


エメリナの隣にいた女性がクロムに向かって頭を下げた。

「申し訳ありません、クロム様。
我々天馬騎士団が行ければ良いのですが………」

「気にしないでくれ、フィレイン。
天馬騎士団は王都の警備で手一杯だ。

それに、ルフレもいるしな。」


いきなり名前を出された事にルフレは驚いた。


「ルフレとは、そちらの?」

「ああ、新しい自警団の仲間だ。

一緒に賊退治に協力してくれた。」


「そうですか。ありがとう、ルフレ。」


「い、いえ、そんな」


優しく微笑むエメリナにルフレは頭が回ってないのか上手く返事を返せずにいた。


「失礼ですがエメリナ様。

彼女は記憶喪失の身。
素性がしれません。
賊である可能性は0とは言い切れません。」


フレデリクは共に戦ってくれた彼女を信頼し始めている。

しかし、エメリナに何かあっては危険だ。


「フレデリク、何を……」


当然、クロムはフレデリクの言葉の真意を読み取れていなかった。



「此処に連れて来たという事はルフレを信頼してるのですね、クロム。」

「ああ、もちろんだ。」

「なら私も信じましょう。

フレデリクもありがとう。

2人のためにいつも感謝してるわ。」


「いえ、私は私の役目を果たしただけです。」


そう言ってフレデリクは小さく頭を下げた。



「クロム。」

「何だ?」


「今から、最近頻繁に現れる謎の兵士の対策会議を行います。
あなたにも、参加して欲しいのです。」


「ああ、分かった。」


クロムはエメリナと共に奥の部屋に向かった。


「じゃあ私達は外に行こう!」


見せたいところがあるんだ!


リズはルフレの手を引いて駆け出した。







しばらく走った後、リズはある建物に入った。


「じゃじゃーん!此処が私達クロム自警団のアジトでーす!
さ、入って入って!」

「あ、はい……」

中には魔道書に調合薬、鎧などがあった。


そして


「リズ!」


綺麗な髪の毛をカールさせた気品あふれる少女が走り寄って来た。

「ご無事でしたの!?お怪我はありませんこと!?」

「あはは、大丈夫だよ。
お風呂とご飯は困ったけど。」

彼女はリズを大変心配していたのだろう。

リズはありがとうね!と言っていた。



次に横からブロンドの髪をオールバックにした青年がやって来た。


「おうおう、俺様のライバルクロムはどうした!?
まさか腰抜かしたか?」

「大丈夫だよ。本当にヴェイクはお兄ちゃん大好きだね!」

「冗談でもそれはやめてくれないか…」

「クロム様が無事……良かった…」

上品な少女の後ろでこれまた可愛らしい女性か胸のまえで手を組んでいた。

「聞いてくださいまし!スミアったら花占いのしすぎでアジトを花でいっぱいにしちゃったのですよ!」

「それだけお兄ちゃんを心配してくれてたんだね、ありがとうスミアさん!」

「い、いえ…私なんて……」



ところでよ、とヴェイクと呼ばれた青年がルフレを指差した。


「この人は誰だ?」

「あ、そうだ!

新しく自警団の一員になるルフレさんでーす!」


「ルフレです。よろしくお願いします。」


「おう、よろしくな!」

「よろしくお願いします。」

ヴェイクとスミアが挨拶を返してくれた。

しかし

「……私、庶民の方と馴れ合うつもりはありませんわ。

リズに近過ぎませんこと?失礼させていただきますわ!」

少女はふんっとそっぽを向き、去ってしまった。


「………………」

「き、気にしないでね。マリアベルはちょっと恥ずかしがり屋なんだよ」

自警団の皆がすかさずフォローを入れた。


「お前ら、集まってたんだな。」


そこにクロムがやってきた。


「クロム様!」


スミアはクロムの元に走り寄ろうとした。


その時。


びたーん!!


スミアが盛大にすっ転んだ。


「だ、大丈夫かスミア?」

「うぅ、すみません……私ったらいつもこうで……」


スミアは立ち上がり、埃を払う。


周りの皆の状況から察するに何時ものことなのだろう。



「皆、聞いてくれ。
俺はフェリア連合王国に向かう事になった。

そこでだ。
この自警団からも名乗りをあげた奴を連れて行く。」

「じゃああたしも行くー」

「俺様も行くぜ!」

「……僕も頑張ろう。」

リズやヴェイクは真っ先に名乗りをあげた。


「…………」

「スミア、お前も来るか?」

「!クロム様……でも、私はまだ自分のペガサスさえ……」


彼女はどうやら見習い天馬騎士のようだ。


しかしあのドジっぷりだ。
まだ自分のペガサスさえ居ないのだろう。


「見ているだけでも勉強になるさ。ただし、俺のそばを離れるなよ。」

「……!はい、クロム様!
約束します!」

スミアは嬉しそうに頷いた。







翌日




クロムはあたりを見回すと、大きく頷いた。


「よし、全員揃ったな。じゃあ出発するか………」



と、その時。



「ままま、待ってー!!!」




声のする方をみると、緑の鎧を身につけた青年が全速力で走ってきた。


「はあっ、はあっ……ああ、間に合った……」

「ソール?」

「つ、ついさっき聞いたんだけどフェリア連合王国に行くって本当!?」


「ええーっ、情報遅っ!てっきりソールは来ないのかと思ったよー」


リズはヴェイクの方を向いた。


「ていうか、この事は昨日のうちにヴェイクが伝えておくって言ったよね?」

「あ、俺様とした事が忘れてた」

「んもーーー!!
ヴェイクってば本当に適当過ぎ!!

今日はちゃんと斧持った?」


「ああ?うるせーな、ちゃんと持ってるよ!」


前武器を忘れたんですね………


「あ、あの……この方は?」

「ああ、こいつはソール。
こう見えて頼りになる騎士だ。」


「始めまして、ルフレ。
君が入団した事はミリエルから聞いてるよ。」



ミリエル………?



「あ、ミリエルはこの自警団の魔導士。後で彼女も来るってさ。」



「そうなんですか、分かりました。よろしくお願いしますね。」

「うん、よろしくね。」


寝癖があちこちに立っている。
柔らかく微笑んだ姿から分かる様に優しい人なのだろう。



「じゃあ、改めて……ん?」


クロム達の元に、また先日と同じ兵が現れた。


「くそっ、屍兵がこんなとこにまで…」

「屍兵?」

「呼びにくいので名前をつけたのですよ。」



皆が戦闘体制に入った時。



「無い、無い、無い!
俺様の斧が無い!」


…なに落としてるんですか


「全く…お前は下がってろ。来るぞ!」

「はぁ、武器が無い人はともかく、皆さん、武器の三すくみを頭に入れて戦ってくださいね」


武器の三すくみとは
剣は斧に強く、斧は槍に強く、槍は剣に強いという関係だ。







戦い始めてしばらくしてから


「ふう、ようやく合流出来たかと思えば戦闘中ですか。」


魔導士の女性がやってきた。

おそらく彼女がソールの言っていたミリエルだろう。


「ん?これは…斧ですか?
全く……気持ちがたるんでる証拠です。」


彼女も持ち主が誰なのかは大方目星をつけているのだろう。

ミリエルはヴェイクの元へ歩み寄った。

「おっ、サンキューミリエル!」

「気をつけてください。
……次からは名前でも書いておくんですね。」

そういうとミリエルはヴェイクのサポートに回った。

「おこぼれは私が撃ちますから。貴方はその斧でせいぜい暴れて下さい。」

「おう!じゃあ頼んだぞミリエル!」


ヴェイクはミリエルと連携して、敵を倒し始めた。


そして前回同様、ソワレとヴィオールが連携を組んでいる。

あそこの2人はなんだかんだ言ってるが息が合うのだろう。

お互いの力が十分に発揮できている。


「やはり仲間との連携は重要ですね………」


リズはフレデリクが守っているため安心だし。


クロムは我関せずと前にずんずん進んでいるが。


(貴方に一番連携をしてもらいたいんですがね……)


ルフレはため息をつきつつ、襲って来た屍兵にサンダーを放った。


その時背後から


「加勢するよ!」


と、ソールが屍兵に剣を叩き込んだ。


「ありがとうございます、ソールさん。」

「戦いに連携は大切だからね」

そう言うとソールは前に走って行った。






敵も倒した終盤頃。

「きゃあっ!」

ミリエルが斧兵の一撃をまともに喰らってしまった。

「大丈夫か、ミリエル!?」

隣にいたヴェイクが心配している。

「すみません、大丈夫です。」

ミリエルは自分にダメージを与えた敵に容赦なくファイアーを放った。














「こんな道端にまで現れるとはな……」

「今後も警戒した方がいいですね」


「………あの…」


クロムとフレデリクは今後の進路について話し合っていた。


「すまんルフレ、後にしてくれ」

「いやだから……」


何故軍師の私を話し合いに混ぜて下さらないのですかねクロムさん、作戦立てられませんよ。



「終わったらちゃんと話す」



いやいやそれじゃ遅いからね!?



「…………そうですか。」






  
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -