誰かが見ている


(※お父さんはソールです)



墓前で、1人の少女が花を添え、手を合わせていた。


「ねぇ、父さん。あたしね、今年で17になったんだ。今年もちゃんと、誕生日を迎えることができたんだよ。」

友達にもらったプレゼントの装飾品を身につけて、彼女はくるりとその場で回った。綺麗なそれは、綺麗な彼女によく似合っていた。


「このプレゼントもね、とっても綺麗で、もらってすごく嬉しかった。だから大事にして、身につけようと思うの。でもね。」


彼女は首から少しくすんだネックレスを取り出した。それは綺麗だったが、他のものに比べるとデザインも少し古かった。


「あたしはやっぱりこれが一番の宝物なんだ。」


大切そうにそのネックレスを握りしめながら、彼女、セレナは昔の事を思い出した。


***


それを貰ったのは10年前の誕生日。

朝起きて、眠たい目をこしこしとこすりながら居間に入った。すると

「おはよう、セレナ。」

その日は珍しく、セレナの父親が、穏やかな表情を浮かべながら居間のソファに座っていた。セレナは驚いて、眠気なんてすぐに覚めた。そして父親のもとにぱたぱたと駆け寄る。

「おとうさん!?おとうさんなの!?おしごとはきょうはないの!?」

「うん。今日は久しぶりに仕事がないから、ずっとセレナと一緒にいられるよ。」

「やったぁ!!!ずっといっしょ!!!」

今日はセレナの誕生日。
自分の誕生日に、大好きな父親が家にいてくれるなんて、これほど嬉しい誕生日プレゼントはない。

さらに。

「今日はセレナの誕生日だったよね。君の好みに合うかどうかは分からないけど、プレゼントを買って来たんだ。ちょっと背中を向けてくれる?」

言われるがままに、セレナは父親の方へと背を向けた。すると、首元にひんやりとしたものが触れる感覚がして、よく見るとそれは可愛らしい花のモチーフのネックレスだった。


「ありがとう!とってもうれしいよ!!えへへ、すごくかわいいね!このネックレス!」


「喜んでくれてよかったよ。」


優しく頭を撫でられて、ぎゅっと抱きついたらふわりと体が浮いて、父さんに抱っこしてもらいながら、母さんの元に向かった。


「みてみて!おとうさんがくれたんだ!かわいいでしょ?」

「ふふ、そうね。とっても可愛いわ。」

何か作っている手を止めて、こちらを向いた母さんは、父さんと同じように優しく頭を撫でてくれた。

母さんの奥に、お弁当箱が見えた。
でもそれは、家族みんなで食べるような、大きなサイズのお弁当箱だった。

「せっかくだから、今日はピクニックにでも行こうか。お昼はお母さんの美味しいお弁当、夜は美味しいレストランに行って、ごちそうとケーキを食べよう。どうかな?」

そうやって言った父さんに、嬉しくてたまらなかったあたしはぎゅってまた抱きついて、準備を済ませたらさっそくピクニックに出かけた。

沢山沢山遊んで、美味しいご飯をいっぱい食べて。夜は家族三人でお風呂に入って、それから一緒に寝た。


最初で最後の、家族三人でお祝いをしてくれた誕生日だった。


その次の年の誕生日を迎える頃には、大好きだった父さんは既に遠い所に行っていたから。

それから数年後に、母さんも父さんの所に行ってしまった。

母さんには、最後の最後まで甘えることができなかった。素直に好きって言えなかった。誰よりもかっこよくて、誰よりも自慢できる世界一の母さんだって、面と向かって言いたかった。言えなかった。

父さんには、もっと甘えたかった。大好きだった。いつも優しくて、たまに帰って来た時も、自分だって疲れてるだろうに、それでもわがままを聞いてくれて一緒に過ごしてくれた。


***


「あたしね、もうすぐ過去の世界に飛ぶんだ。」


みんなと話し合って決めた。過去に飛んで、このどうしようもない未来を、希望に塗り替えようと。


そしてもうすぐ、セレナも過去に飛ぶのだ。


「父さんの若い頃ってかっこいいのかな。母さんは若い頃からしっかりしすぎてたのかな。

ちゃんと、素直になれるかな……」


つっけんどんな態度しか取れなかったけど、ちゃんと母さんにも優しくなれるかな。そう思いながら優しく墓石を撫でた。

「大丈夫だよ」

優しい声が、何処かから聞こえた気がした。


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子世代の未来の話はいつも泣けますね…絶望の未来編いつも泣きながらプレイしてますw



  
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