▼ 誰かが見ている
(※お父さんはソールです)
墓前で、1人の少女が花を添え、手を合わせていた。
「ねぇ、父さん。あたしね、今年で17になったんだ。今年もちゃんと、誕生日を迎えることができたんだよ。」
友達にもらったプレゼントの装飾品を身につけて、彼女はくるりとその場で回った。綺麗なそれは、綺麗な彼女によく似合っていた。
「このプレゼントもね、とっても綺麗で、もらってすごく嬉しかった。だから大事にして、身につけようと思うの。でもね。」
彼女は首から少しくすんだネックレスを取り出した。それは綺麗だったが、他のものに比べるとデザインも少し古かった。
「あたしはやっぱりこれが一番の宝物なんだ。」
大切そうにそのネックレスを握りしめながら、彼女、セレナは昔の事を思い出した。
***
それを貰ったのは10年前の誕生日。
朝起きて、眠たい目をこしこしとこすりながら居間に入った。すると
「おはよう、セレナ。」
その日は珍しく、セレナの父親が、穏やかな表情を浮かべながら居間のソファに座っていた。セレナは驚いて、眠気なんてすぐに覚めた。そして父親のもとにぱたぱたと駆け寄る。
「おとうさん!?おとうさんなの!?おしごとはきょうはないの!?」
「うん。今日は久しぶりに仕事がないから、ずっとセレナと一緒にいられるよ。」
「やったぁ!!!ずっといっしょ!!!」
今日はセレナの誕生日。
自分の誕生日に、大好きな父親が家にいてくれるなんて、これほど嬉しい誕生日プレゼントはない。
さらに。
「今日はセレナの誕生日だったよね。君の好みに合うかどうかは分からないけど、プレゼントを買って来たんだ。ちょっと背中を向けてくれる?」
言われるがままに、セレナは父親の方へと背を向けた。すると、首元にひんやりとしたものが触れる感覚がして、よく見るとそれは可愛らしい花のモチーフのネックレスだった。
「ありがとう!とってもうれしいよ!!えへへ、すごくかわいいね!このネックレス!」
「喜んでくれてよかったよ。」
優しく頭を撫でられて、ぎゅっと抱きついたらふわりと体が浮いて、父さんに抱っこしてもらいながら、母さんの元に向かった。
「みてみて!おとうさんがくれたんだ!かわいいでしょ?」
「ふふ、そうね。とっても可愛いわ。」
何か作っている手を止めて、こちらを向いた母さんは、父さんと同じように優しく頭を撫でてくれた。
母さんの奥に、お弁当箱が見えた。
でもそれは、家族みんなで食べるような、大きなサイズのお弁当箱だった。
「せっかくだから、今日はピクニックにでも行こうか。お昼はお母さんの美味しいお弁当、夜は美味しいレストランに行って、ごちそうとケーキを食べよう。どうかな?」
そうやって言った父さんに、嬉しくてたまらなかったあたしはぎゅってまた抱きついて、準備を済ませたらさっそくピクニックに出かけた。
沢山沢山遊んで、美味しいご飯をいっぱい食べて。夜は家族三人でお風呂に入って、それから一緒に寝た。
最初で最後の、家族三人でお祝いをしてくれた誕生日だった。
その次の年の誕生日を迎える頃には、大好きだった父さんは既に遠い所に行っていたから。
それから数年後に、母さんも父さんの所に行ってしまった。
母さんには、最後の最後まで甘えることができなかった。素直に好きって言えなかった。誰よりもかっこよくて、誰よりも自慢できる世界一の母さんだって、面と向かって言いたかった。言えなかった。
父さんには、もっと甘えたかった。大好きだった。いつも優しくて、たまに帰って来た時も、自分だって疲れてるだろうに、それでもわがままを聞いてくれて一緒に過ごしてくれた。
***
「あたしね、もうすぐ過去の世界に飛ぶんだ。」
みんなと話し合って決めた。過去に飛んで、このどうしようもない未来を、希望に塗り替えようと。
そしてもうすぐ、セレナも過去に飛ぶのだ。
「父さんの若い頃ってかっこいいのかな。母さんは若い頃からしっかりしすぎてたのかな。
ちゃんと、素直になれるかな……」
つっけんどんな態度しか取れなかったけど、ちゃんと母さんにも優しくなれるかな。そう思いながら優しく墓石を撫でた。
「大丈夫だよ」
優しい声が、何処かから聞こえた気がした。
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子世代の未来の話はいつも泣けますね…絶望の未来編いつも泣きながらプレイしてますw
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