▼ ライムライトの口づけ
それは、突然のことでした。
「ロンクーさん」
姿の見えた、愛しい彼に声を掛けると、彼は木陰に身を委ねて小さく寝息を立てていた。
「あら、眠っているのですわね…」
そっと隣に腰を下ろして、じっと彼の顔を見る。端正な顔立ちだが、寝顔は意外と幼く見えた。
「……………今なら…」
そっと身を乗り出して、彼の唇にそっと自分の唇を重ねようと身を近づけようとして、寸前の所で彼の目が開いた。
「……………!?」
互いにフリーズする。先に動いたのはマリアベルだった。その身をロンクーから離そうとし──離れる前に、腕を掴まれ、引き寄せられる。
「あっ………」
「……………」
ほんの一瞬、微かに唇が触れ合った。
身体から力が抜け、ふにゃりと地面に座り込む。(正確には、ロンクーの膝の上だが)
「………なかなか、可愛いことをするんだな」
「っ…………はしたなかった、ですわね」
「いいじゃないか、その………嬉しかったぞ」
「!」
足の上に座るマリアベルの腰に手を添えて、ぐっと彼女の身体を引き寄せたら、もう一度、今度は深い口づけを。
「ふふ、幸せ、ですわ………」
「ああ、俺もそう思う」
穏やかな風が流れる、束の間の一時で。
私達は初めて、口づけというものをした。
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