▼ もう一度だけ抱き締めさせて
連なる天幕は光を消し、皆が寝静まっていることを顕著に表している。
それもそのはず。もう時刻は真夜中の二の刻。さらに明日は最終決戦。皆は早々と床に就いていた。
しかし、そんな中でも1人、彼女、ルフレは起きていた。
「明日で全てが終わる……」
月明かりを映す湖に、自分の顔を写して覗き込む。最終決戦を目前に控えていると言うのに、何処かもの悲しげな、儚い表情だった。
ナーガが教えてくれた二つの道。
一つは、神竜の血を継ぐ者、つまりクロムの力で邪竜を封印すること。
もう一つは、邪竜の血を継ぐ者、つまりルフレの力で邪竜を滅ぼすこと。
封印した竜は、千年の間封印される。しかしそれは、千年後に再び、自分達のように傷つき、苦しむ者が現れるということ。
反対に、邪竜ギムレーを滅ぼすと、もうギムレーは二度と復活しない。しかしそれと同時に、自分の事も犠牲にすることとなる。
「私1人の命で、みんなが救われるのなら、答えは一つですね…」
湖に向かってそう呟いた。ゆらりと揺れる水面は、映る月の影を少し崩してしまった。
───明日、ルフレはギムレーと共に消滅をするつもりでいる。
そしてその意思を曲げるつもりも、ない。
ゆらゆら揺れる水面を見つめていると、不意に背後から声がした。
「こんなところにいたのか、ルフレ。」
振り返ると、そこにいたのは我が軍の将であり、自身の半身でもあり、大切な夫でもある、クロムの姿がそこにあった。
「クロムさん…」
俯き、また湖の方に身体を向ける。
彼は隣に座って、ルフレの肩を抱き寄せた。
「明日は苦しい戦いになる。お前にも頑張ってもらわなくてはならないんだ。早く休んだ方がいいぞ」
「それを言うならクロムさんもです。」
優しく頭をぽん、と撫でられて、不意に泣きそうになりながら、ぐっとこらえてクロムに言い返す。
まだ、気付かれてはいけない。
「長かった戦いも、明日で終わるんだ。ギムレーを封印して、皆で帰ろう。」
自分がギムレーに止めを刺すと、言わんばかりの口ぶりでクロムはルフレに話す。
「皆さんの平和のために頑張りましょうね、クロムさん。」
彼の言葉に、頷くことはしなかった。
「さ、そろそろ本当に寝ないと不味いぞ。天幕に戻ろう。」
そう言って立ち上がるクロムをぼんやりと見つめる。逞しい身体つきに、キリッとした顔立ち。改めて見るとかっこいいんだな、なんて今更気が付いた。いつでも一緒にいたはずなのに。まだまだ、新たな魅力が見つかって行くばかりで。
もっと、一緒にいたいなんて、欲深くなってしまう。決心が、揺らぎそうになる。
「ほら、立てるか?」
気が付けばクロムはこちらを向いていて、手を差し出してくれた。
あの日、初めて出会った時のように。
「…………っ、」
目の前の視界がぼやけて、薄い膜が張られたように見える。だめだ、今泣いたら気付かれてしまう。涙を堪えないと、本当に、私は───
「ルフレ」
手を取るより先に、クロムがルフレの手を取った。ぐっと引き寄せ、抱き締められる。涙は、すでに頬を伝っていた。
「………行くな、何処にも行くな…お前には、ずっと、そばにいて欲しいんだ…っ」
弱々しい、震えた声でクロムがルフレに呟いた。ルフレは大粒の涙を零しながら、クロムを見上げた。
「…私は明日、ギムレーと共に消滅します。そして、全ての人に、平和を届けます。もう、傷つくことも、悲しむことも無くなるように。皆が笑顔で暮らせる世界になるように…」
「ルフレ…!」
「………帰ってこれる可能性は限りなく低いです。でも、これまでも奇跡が起こせたように、きっと、また奇跡が起こせますよ。だから…」
ルフレは泣きながら、クロムを見つめて、そっと目を閉じた。そこに、優しい口付けが降って来て、ルフレの目からはまた、涙が零れ落ちた。
「奇跡を信じて私を待っていてください。例え何年かかっても、貴方の元に帰りますから…」
「ルフレ……分かった。
お前のこと、ずっと待っている。だから帰って来い。必ず、な…」
「はい…………貴方の元に、必ず帰ります。愛する私の夫である、貴方の、ところへ」
再度きつく抱き締め合って、2人はそのまま天幕へと帰った。
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支部とか読んでてね、クロルフ読んで号泣して触発されこんな、中途半端な作品を生み出してしまいました。
このサイトでは書いてないけどクロルフはかなり好きなCPの一つです。
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