はちみつトースト

昼間のマシュマロ城。ヘルパー達はそれぞれ食事が終わり、歯を磨きに行ったり部屋に戻ったりしている頃。
サキはきれいさっぱりなくなった食器を、テーブルから鼻歌混じりに流しへと運んでいく。家事はたいてい彼女がこなすことになっているが、嫌いではないらしい。
そんな中へ、冷めた一人分の食事のあるテーブルへその朝食を食べるべき人が腰掛けた。
サキは遅れてきた者へ声をかける。
「おはよう。遅かったね、タック」
「…うん。おはよ、サキ」
タックは普通返した。だが、一日の始まりに相応しくない疲れきった顔をしている。その表情のせいで、返事がやや無愛想に聞こえた。
「…クマできてるよ?あ、昨日洞窟行ってきたんだっけ?」
「ん。カービィが急にうちと行きたいって言うからさ。さんざん付き合わされて疲れちゃったよー…ったくもー」
ため息混じりに漏らすタック。
サキはそんなタックを見て食器を運ぶ手を止めた。
「…相当お疲れみたいだねー…。こんなタックの顔見るの初めてかもしれない」
そう言うと、紅茶を一人分入れて彼女の目の前に置いた。
「砂糖はセルフね」
「…うん」
タックは適当に砂糖を入れ、スプーンでかき混ぜてからずずっと雑に一口すする。まだ眠いのか、目は半開きだ。
そんな彼女を見て微笑みながら、サキはテーブルの上のトースターに一枚のトーストを入れる。スイッチを入れ、ジジジジ…とトースターが動き出したのが音で伝わった。
「お宝とれたの?」
「うん、10コはとったかな」
「へぇ…すごいじゃん」
「まあな…サキは昨日何してたの?」
「昨日はねぇ…当番だったから朝ごはん作って、それからジョーと練習につきあってもらったりしたかな」
そんなことを話しながら、サキはもう焼けたトーストにマーガリンを手際よく塗る。その上からはちみつをかけて完成だ。

「はい、はちみつトースト」
タックの皿の前にそれはポンと出された。はちみつがいい具合にパンに染み込んでそれはそれは美味しそうに。
タックは突然出てきた自分の好物に、びっくりした。
「あれ、今日はママレードじゃなかったっけ?昨日散々余ってるって言ってたのに」
「ママレードはねえ、ちょうど切れちゃったのよ。はちみつぬってあげたのはオマケ。じゃ、今日も1日頑張ってねーっ」
笑顔でそう言うと、サキはまた片付けの作業に戻っていった。
はちみつトーストを一口かじってみる。マーガリンの塩気とはちみつの甘さがなんとも言えない。タックは少し顔を綻ばせた。たまたま出てきた好物に、少し上機嫌になる。
ふと紅茶にミルクが欲しくなってきて、彼女は食堂の冷蔵庫へ向かう。冷蔵庫を開けて牛乳を見つけるより先に、あるものが目に入った。小ぶりの瓶に入ったオレンジ色のそれ――ママレードだ。そんなにたくさんではないが、五・六人分はありそうな量。
そこでタックは初めて彼女の好意に気がついた。さっきないとか言ってたじゃん。あいつめ、セルフサービスって言っていつもパンすら焼いてくれないくせに。こういうときばっかり優しいんだ彼女は。
「…覚えといてやるよ。今度見えないようになんかあったら助けてやるかな」
タックはそう呟いた。皿洗いに夢中な彼女には聞こえなかったようだが。


end.

‥‥‥‥‥‥‥

サキはもうお母さんポジションになりつつあります。
タックはただのツンデレ。


title…ひよこ屋、朝で5題>はちみつトースト



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