したまつげ

「お前、以外と下睫長いな。」
稽古が終わり、二人でお茶を飲みながら食堂で休憩していたときのこと。目の前で呑気に砂糖を入れてかき混ぜている彼、ソードが突然そんなことを言った。
「え、あ、なっ何だよ突然」
本当に突然そんなことを言われたから、びっくりして入れ立ての紅茶をこぼしそうになった。
「いや、見ててなんとなくそう思った」
しれっとした顔で彼は答えて、紅茶を一口飲む。こいつは人の都合とか雰囲気とか考えずに突然的になにか発するから、たまにひやりとしてしまう。
とりあえず紅茶を一口飲んで、気を取り直そうとする。熱い液体が喉を通ったのを確認し、ひと呼吸置く。
「…目は母上に似たとよく言われるんだ。下睫のことも昔は色々な人によく言われた」
「あ、母上って…あの写真にいた人だっけ?」
「そう。美人だろう。自慢の母上だ」

話しているうちに、自分の母の顔が自然と目に浮かぶ。故郷に残してきた、武人の妻にはもったいないくらい気だてが良い、優しくて美人な母。その懐かしさに目が細くなるのが自分でも分かった。

「…どれ。」
その瞬間、不意にソードの顔が目の前に来たと思ったら、顎をくいっと、それはキスでもするように、彼の大きな手で無理矢理視点を彼に合わせるように持ち上げてきた。彼の顔はいわゆる目と鼻の先という状況で。
「わっ、な、ななな何するんだよ!」
「よく見ようと思って」
だから近いっ顔近いってば!
恥ずかしさでいっぱいいっぱいになり目が合わせられず、反らしてしまう。
「目ぇ伏せたらよく見えないじゃん」
「べっ別に見れればいいだろう…っ」
いやっそんなこと言われても!この状況で顔を直視するなんてとてもじゃないができない!
ようやく彼がその手を解放して、もとの体制に戻ったころには、自分の心臓の鼓動が激しくなっていることに気がつき、よけいに恥ずかしさが増した。
「…お前はなんでいつも突然そういうことするんだっ」
「そんなに怒る事ないじゃん…まあいいだろ」
そう言って彼はにっこり笑う。それからテーブルの上のクッキーを摘んで口へと放り込んだ。

「あ、クッキーもうないけど、俺貰ってこようか?」
「…うん」
「お前どうかした?」
「…別に」
「ならいいけど。じゃ、サキんところ行ってくる」
彼は空になった皿を持って、キッチンへ向かっていった。
その後ろ姿へ向かって、無意識に言葉を投げつける。

「…あのバカ。あんな近距離で顔もまともに見えるかよ」



自分だけがこんなに恥ずかしいような嬉しいような感情だったのかとか、あいつは自分のことを何とも思っていないんだろうかとか、そんなことを考えたらまた居心地の悪いような感情が襲ってきて胸が締め付けられた。

end.

‥‥‥‥‥‥‥
おまけ
「思わずキスするところだった…」
ソードはもっとムラムラするべき!!

title…ひよこ屋、いろいろ50題>したまつげ



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