力と知と

「で、どっちだと思う?」
とたけけのライブが終わって、周りに僕とリンクしかいなくなった頃。ステージの隅に座って他愛もない話をしていると、その話題を突然出されて僕は言葉を濁してしまった。答えづらい訳じゃあないんだけど、なんというか、自分の中でうまく整理ができずにいた。
暫くして、リンクが覗き込むようにこちらを見る。僕はそれには答えず、すま村の星空をぼんやり眺めながら深呼吸した。人工ステージだからきっと気のせいなんだろうけど、どこかいつも吸う空気よりは澄んでいるようで、おいしかった気がした。
先日、彼は僕に「力と知恵ってどっちが勝ってるとか劣ってるとかがあると思うか」と聞いてきた。僕がどっちもどっちだと答えたら、どちらか選んで、と言われてしまった。それから今日朝起きてからもずっと悩んでる訳だが、考えが上手くまとまらないのだ。

そんな僕の様子を察したのか、リンクは突然立ち上がって両手めいっぱい空に向かって延ばし、大きく伸びをした。

「んー、なんか突然変なこと聞いてごめん。やっぱいいや。気にしないで。」

僕に背を向け、そう投げかけられた。
すると、僕は反射的に「待って、」と呟いた。驚いた様子の彼が振り向く。

「僕の考えなんだけどさ、なんか、そういうのよりも心の強さが大事だと思うんだ。」

彼の表情は、まだ驚きが強く浮かび上がっている。そんな彼の目をまっすぐ見つめながら、なんとなく頭に描いていたことを口に出す。

「…僕は圧倒的な”力”で祖国を追われた訳なんだけど。それから小さな軍を率いて何倍もの勢力に打ち勝ったのって、きっと‘知恵’のおかげなんだ。真剣に作戦を考えてくれた仲間もいるし、僕の代わりに小さな軍をまとめて率いてくれた人もいる。だからきっとどっちも素晴らしいもので、優劣はないと思う。どちらかがかけてたら、僕はこの戦いに勝てなかった」
彼は黙って僕の言葉を聞いていた。 まだ腑に落ちないというような顔をしていたので、こう付け足した。
「結局さ、どちらにも人を想う強さとか信念が、前提にあると思う」
すると彼は納得したのか、笑ったように見えた。再びくるりと僕に背を向けて、彼は小さく「ありがと、」とつぶやいた。さっきとは違う不思議な空気が漂っているのを、肌で感じることができた。夜空の星の数が、さっきよりも心なしか増えたような気がした。
「あとは…そうだな、勇気も大事だと思うよ」
僕がふいにそう言うと、しばらく時間が止まったかのように、彼は微動だにしなかった。それからこっちに向き直ったかと思うと、さっきまでの考え事をいかにもしている感じの顔が、いつもの顔に戻った。僕と話すときのちょっと不機嫌なような、少し眉間に皺がよった顔。ひとつの世界を救った勇者というよりも年相応の青年という方が相応しい、感情をそのまま表情に出した顔。辺りはすっかり暗くなって、距離的にも表情は読みずらかったが、次に発した彼の声の口調でそれはすぐにわかった。

「マルス、」
「ん?」
「そんなところでお世辞はいらねーよ」
「あ、分かった?」

僕もいつもの、彼をすこしからかったような笑顔で返事をした。



end.
‥‥‥‥‥‥‥‥‥

「でさあ、何でこんなこと聞いたの?」
「それねぇ、俺の相方が前同じ質問してきたんだ。ミドナのこと話したことあったよな?」

不機嫌なのはいつもマルスにいじられてるからだといいなあ。

08.0808 執筆
11.1201 推敲


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