ぼくらのものさし3(完結)

「なあ、」
「…ん??」
「一つ聞きたいことがある」
「なあに?」
奴の声色から私を警戒していることがわかったが、かまわず続けた。
「なぜ私をここに庇う」

私はベッドに横になり、背中越しに気配を伺った。今までにはない重たい沈黙がしばらく続いた後、奴が「えっとね、」と切り出し、こう続けた。
「君がなんでプププランドを侵略しようとしたのかが知りたかったから、かな」
いつもより声はワントーン低いかった。優しさとか哀れみとかそういうものを予測していた私には少し予想外のことだった。少しためらうも会話を続けようと私は口を開く。
「では何故それが知りたい」
「簡単だよ。きみは正当な理由なく侵略とかする人に見えないもの」
「……」
「ぼくは知りたいな、わざわざ戦艦まで飛ばしてまできみがしたかったこと」
いつの間にか奴のペースに持ってかれていた、と同時に奴がいつの間にか自分の中の核心に一歩近づいてきたという感触もあり、私はしばらく口を開けないでいたがこう続けた。
「国の住人が何故あの独裁的な政治に我慢できるのかが…わからないのだ。今まで治安も乱れる訳でもなかったし、特に何事もないのんびりとした生活が続く。そこへ大王を名乗る存在が、知らないうちにやってきては理不尽な要求をしてきた。私はその現実にとてつもなく不満を感じるのに対して、誰1人疑問に思っていないのが不思議でたまらなかった」
「……」
「どこの馬の骨とも分からぬ奴が偉そうにしているのが我慢ならなかったのだ。そこで私は仲間を集め、デデデ城陥落を目標としハルバードを飛ばした。…もちろん最終目標は自ら政権をとることだ」
自分の中からすらすらと言葉が出てきたことに我ながらびっくりした、ここまで話したのはハルバードのクルー意外には奴が初めてだった。妙にすっきりしたとともに、奴の反応が気になるところである。

またしても居心地の悪い沈黙が流れる。奴の方をちらりと見やると、こちらに奴がようやく言葉を発した。
「じゃあさ、きみが元気になって、もしクルーが全員無事だったらまた侵略しにいくの?」
「…分からん。しかしいつかはそうするだろうな」
それから奴はこちらに向かって発した一言に、私はしばらく言葉を無くした。
「この国の住民が全くそれを望んでいなかったとしても?」

それは自分の中にはない選択肢であった。
誰もあの政治に関して不満がないとでも?
好かれる王どころか市民に迷惑をかけているあの大王が?

布団をまくり右手をついて起き上がる。布団から起き上がっていた奴と目が合った。
「全く望まないなど…そんなことが存在するのか?逆に聞こう。住民はそれを望んでいないのか?」
「僕はそうだと思う」
今度はすぐに答えが返ってきた。先ほどより明るい声で。
「何故だ」
「そういう国なの」
どんな国だ?と自問せざるを得ない。
そんなことがあるものか。あの傲慢な権力者に誰も腹を立てていないなど。
私の中の違和感の正体が一気につき上がっては口から出た。
「皆があいつに迷惑していると私は思ってやったのだ。筋が通っている政治ならいい!しかし奴のそれはほとんど私欲のために振る舞い傲慢でなないか!食糧難をはじめ住処がなくなった者もいる!これだけの迷惑を毎度被っているのだ、何故誰も不満に思わない!?何故私の前に誰も動かない!?」
奴の方へ向かい合ってまくしたてるように言い切ると、また沈黙が流れた。
そして奴がゆっくりと振り返り顔を見せた。私がさっきまで見ていた目とは違った。普段のきらきらとした眼差しではなく、ハルバード脱出の際バイクに跨がった時に見せた、遠くを見据えたどこか本気のそれ。
「きみのものさしとぼくたちのものさしの違い、だよ」
そしてその後流れた沈黙は、単純に私が言い返せなかったからだ。

「デデデだっていい人なんだよ実は。あんまりそうは見えないけど。でも、命を奪うとかそんなことはしないから、僕たちに直接害はないのかもしれない」
すこしひやりとしたものを感じた一方で、その一言でどこか腑に落ちた自分がいた。
冷静になるとそうだ。黒い雲からやってきた集団に比べれば、大王の行いは多めに見るとまだ可愛いものだ。命は決して奪わない。私欲のための行き過ぎた行動も、必ず目の前の少年が罰を与えている。住民もその後は何事もなかったかのように、大王を受け入れたように生活をするではないか。
…私はこの星に来て一体何をみていたのだろう。

「…そうだな。回答に感謝する。」
罰が悪いような気まずいような空気を上手く破れなかった。そう放つと私はまた横になり、布団を頭からかぶる。
「あのねメタナイト、」
「なんだ」
「きみのものさし、少しは形が変わったかなあ」
奴の声色が少し変わった。顔を見なくても分かる。恐らくいつもの無邪気で曇りのない瞳をしているだろうことが。

「…それは分からんな」
その問いに関して私は少しぶっきらぼうにそう答えた。
よくわからないが、悔しさのようなもどかしさのようなそんな感情に襲われて、奴の顔をさらに見たくなくなった。奴に何か大切なものを教えられたような、でも奴から教えられるのは心外で、胸の奥がちくちくした。

そしてそれから私が眠りにつくまでに数刻かかった。
奴はいつものようにすやすやと寝息を立てている。




end.
・・・・・・・・・・・・
あとがき
メタナイトさん一人称でお送りしましたー!
書き終えるのに1年以上かかってしまったとかそんなばかな
個人的にメタ逆は、デデデ政権がゆるせないという若気の至りなメタさんの仕業で起こったと思っています。
メタ逆後は少しメタさんに丸くなって欲しいです性格的に。
ぴりぴりしてプライド高いメタさんも好きですけどね。
2012.4.10


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