ぼくらのものさし2

ああ、またあの日の夢を見た。それだけ奴に追いつけなかったのが悔しかったのかと我ながら痛感するとともに、そいつが目の前にいるという事実を未だ受け入れられない自分もいる。
あれから自分は何故か、最も憎むはずの、最も顔を合わせたくない存在であるカービィの家に居座ることになった。

あの日、浜辺で目を覚ましたのは自分が意識を失ってから数刻の時が経ってからであろうか。真っ白い砂浜に、星がいくつか見える藍色の空。夕日は今にも沈みそうで肌寒さを少し感じたのである。自分の右肩から血が流れているの見た時、今までの経緯と激痛と共に思い出した。
腰にギャラクシアがあるのを確認すると、なんとか立ち上がろうと腰を起こし、これからどうしようかと考え一歩踏み出したちょうその時、愛用の仮面を片手に奴が現れた。最後に見た頭のゴーグルはしていない。体にいくつか傷があったが、その様子だと無事に脱出成功したらしい。いつもの調子で、「はい、落とし物」と話しかけられた。
しばらく私は奴を無言でにらんだ後、その手から仮面をぶん取り、奴に背中を向けて歩き出そうとするも、疲れや肩の痛みから全身に力が入らず砂浜に膝をついてしまう。敵に背中を向け弱った姿をさらけ出すことになるとは、情けなさと自分の無力さと悔しさと羞恥のようなものが混ざって歯を食いしばる。
そんな私を知ってか知らずか、奴は自分をひょいと肩に担いだ、離せと抵抗するも、「けが人は黙ってついてきなさい!」といわれ、「どうせかえるところもないし、その体じゃかえれないんだから」と付け加えられた。
そしてなすがままに奴の家につれて行かれ、居座っては衣食住を共にすることになったのだ。

もちろん最初はすごく嫌だった。いちいちマントを洗濯されたりいらないと言っても飯を持ってきたり、よけいな世話を焼かれまくったが、従うしかなかった。他のヘルパーも時々この家に遊びに来た。かつてプププランドを征服しようとした者が哀れな姿で小さな家の片隅にうずくまっている。怪我人という扱いをされるも完全に見せ物扱いであるように感じ、私のプライドやらはここでは無力であった。
私はずっと仮面をとらず、ただただ傷の回復を待ち布団の中でじっとしていた。海を挟んいたので翼が動かぬなら帰れない場所に基地はあったし、基地に戻っても戦いをともにしたクルーたちがいる可能性は低い。皆ハルバードと一緒に海に消えてしまったのだろうか。それすらも確かめることができない現在の自分の惨めさに何度か腹をたてたが、どうすることもできなかった。
奴はそんな私におかまいなしに「ご飯できたよー」だの「ちょっとだけでかけてくるね」だの「布団もっとあったかいのがいいかな?」だの話しかけてくる。最初は答えずに無言を貫き通したのだが、仕方なくああだのいらんだの、私はなんらかの言葉を返すことにした。


そして2、3日経ち激痛が収まった頃に、私は気がついたのだ。奴が出かけないことを。
家を出たとしても、数刻で戻ってくることを。
戦艦に侵入してきた時、奴に関するあらゆるデータを調べ上げた。陽気でふらふらしたプププランドの英雄で、マジルテやキャンディ山などあらゆる場所で確認される奴であると。家はあるらしいが寝にかえるだけで、不在にすることが多いと。
まさか私のために家にずっといるのではないだろうな…?そんなばかな。
そういえば奴が私に対してどんな感情を抱いているのか、自分のことで精一杯で私には全く検討がつかなかった。なぜ家に元プププランドの侵略者を置き、世話を焼くのかが奴の仕草では全く読み取れなかったのだ。どこから来たのかもわからない、無限の可能性を秘めた奴であることも同時に思い出された。
そしてその理由を思い切って聞いてみることにした。その日の夜、奴も布団に入り、私に向かって「じゃあねメタナイト、おやすみ」と声をかける。いつもは無言な私は思い切って口を開いた。




・・・・・・・・
続く


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