その一歩が無理

「だから無理すんなって。」
「大丈夫…これくらいならなんとかなる。」
「いや、足プルプル震えてるぞ。」
「うるさい…平気といったら平気だ。」

卿に頼まれて、ブレイドと何故か崩れかけてしまった城壁を直すことに。
大きめの煉瓦を一つ力いっぱい持ち上げる彼女は、歯を食いしばり眉を限界まで寄せ、それはそれは面白い顔をしていた。

「ふぬぬぬぬ…っ」
女らしくない顔にももう慣れたがこれはちょっと…ないな…とか他人事のように考えていた。そんな事を考える暇があるなら手伝うべきだった、と後になってから思ったのだが。
「おい、それは重たいからやめとけって」
「いや、これくらい出来なければ戦士として…っ」
自分の頭くらいの位置まで重たい煉瓦を持ち上げようなんて…その細い腕折れるぜ?
だがどこからそんな力が出るのか、ブレイドは自分の胸の位置くらいまでその重たい物を持ち上げていた。
「む…あと少し…?うわっ!」
「ブレイド?!」
突然、彼女に限界が来たのか煉瓦がすとんと腕から地面へ落ちた。落下した物体はボスッという鈍い音を立てる。
その反動で後ろによろける彼女。そして気がついたら自分の両腕の中に彼女はいた。どうも無意識に受け止めてたらしい。
「…だから無理するなって言ったのに…大丈夫か?」
「あ、ああ。なんとか…」
久しぶりに情けなさそうな顔をし、一瞬だけ目を伏せるブレイド。
肩そんな彼女の肩は、自分が思っていた以上に細かった。失礼だけどもっと筋肉あるのかと思ったが、意外と固くはなかった。
しかし彼女との距離はほぼゼロ。自然と高鳴る俺の心臓。これはもしやもなにも…オイシイ状況?
「だからよせって言ったのに。慣れないことするからこうなるんだ」
しかし自分の意志とは真逆に、彼女から手を離してしまう。何故か素直に彼女を直視できない。
「……悪かったな非力で」
ブレイドは少し機嫌を損ねてしまったようだ。長年一緒にいれば雰囲気で分かる。それと機嫌が悪くなるとベルトを触る癖が決定打。
「まあ後は俺がやっとくから気にすんな。あとここだけだし、いらない道具先に片付けててくれ」
いつものようにそう返すだけで俺はいっぱいいっぱいだった。彼女の方をちゃんと見れないのは自分でも十分承知だ。

もし彼女の肩を抱けたなら、そんな男らしいことができたなら、どうなっていたんだろう。そのあと一歩が踏み出せる時が俺に来るのだろうか。
自分の気持ちに素直な方がいいとか聞いたことがあるけど、果たして本当にそうなんだろうか。シミラはそんなことをいつも言ってくるけど
少なくとも今の俺には無理だ。

「…俺の臆病者」

遠くなっていく彼女の背中に無意識にそう呟いた。


end.
‥‥‥‥‥‥‥‥
毎回焦れったい彼らが一番似合う!

09.12.17



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