ずっと君を追いかける

裏庭には予め呼んでおいたワープスターもといスターシップが静かに佇んでいた。
周りに人の気配がないことを確認し、僕一人で乗り込む。
月と太陽が両方でている昼とも夜とも言えぬ空を眺めて、ゆっくり深呼吸した。あと一つ、空には機械仕掛けの彗星が浮かんでいて、ゆっくりと確実にこの星に向かってきていた。
僕が行かなきゃ。あれを止めなきゃ。
歯を食いしばって機動スイッチを押す。

すると、ビーっという聞き慣れない音がうるさく響いた。モニターには「error」と「重量オーバー」の文字。
今までこんなことなかったのに、おかしいな。これ一人乗りだけど、僕しか乗ってないはず…だよ?
駄目だ、慌てちゃ駄目だ。軽くパニックになりそうな思考を無理矢理に抑えてみる。
とりあえず降りて、スターシップの周りとか上とかを確認する。異常はない。
あと怪しい場所は…機体の後ろにある小さな荷物入れ程度のタンクしかない。
一呼吸おいて恐る恐る開けてみると……





「ちっ、作戦失敗か」

中に潜んでいた人と僕の目が合った。そして苦笑いと同時に目をそらす見知った顔。

「バグジー…?」

僕がぽかんとしていると、タンクからよっこらしょ、と出てきて僕の方へ向き直った。
どうしてここに…?

「お前がピンチになったらここから出てくるつもりだったんだけど。ちょっと予想外だったな」

そう言って彼はふっと鼻で笑った。

「…じゃあ、僕が一人で行くって分かったの?」
「少なくとも俺にはバレバレだぜ?」

やっぱり勘がいいな、バグジーは。

「でも、一人でいくからいいよ」
「いや、俺もついて行く」
「いいってば。これは僕一人が解決しなくちゃいけないからさ。だからバグジーは戻って」

バグジーの言葉を遮って、彼に背を向ける。
僕を心配してきてくれたのは嬉しい。だけど…

「だって、僕があの時…マルクと最初に会ったときにちょっと怪しいって思ってたんだよ?それなのに彼の言葉を鵜呑みにしてさ、彼に何にもしなかった。ノヴァのところに辿り着いて、僕が油断したからこうなった。間違いなく僕一人の問題だよ」

僕がそう言うと、彼は黙ったまま何も言わなかった。
僕が行かなきゃいけないんだ。みんなに迷惑かけるわけにはいかないんだ。

「本当にお前一人かよ…?」

バグジーは俯きながらこう言った。
すると突然ぐいっと体を引っ張られる感触。真っ正面にあるのはバグジーの顔。胸ぐらを捕まれている状態になった。
バグジーの顔は今まで見たことないくらい怖かった。声が出なかった。

「この星の未来がかかってんだぞ?お前はここで倒れちゃいけない存在なんだぞ?
ここでお前が死んだりしたら……誰がこの星守るんだよ!」

早口で僕の目を真っ直ぐに見ながらそう吐き捨てた。

「“俺たち”は…お前のためにある存在なんだ。ヘルパーと全力で戦って負けました、ってシナリオじゃないと、俺は納得いかねえ。
もし負けたとして、残された俺たちとこの星のみんなのこと考えろ」

何も言えなかった。
初めて気がついた。みんなの存在に、みんなの気持ちに。
ヘルパーやりたいってみんな自分から言ってくれたんだ。辛いことがあっても、弱音を吐くことがあっても、僕に今までついてきてくれたんだ。得体も知れない『星の戦士』らしい僕に。
それに、僕がいなくなったらきっとこの星は……
僕は何をしようとしていたんだろう……。

バグジーか手を離して、そっぽを向く。太陽の光だか月の光だか分からないものの逆光で、彼の表情はよく分からなかった。まだ僕は何も言えなかった。



「そうだよ、カービィ」

はっとして後ろを振り向くと、大きな帽子の見慣れた人影があった。

「……シミラ?」
「一人で考え込んじゃだめ。最近塞ぎ込んでたから、みんなカービィの心配してたんだから」

みんな……?

「ロッキーとかブレイドも、カービィのこと心配してもう起きてるんだよ」

あれ、どういうことだろ。分かっちゃったのかな?みんな僕が一人で行こうとしてたの。
なんだろう。頭がぐちゃぐちゃで胸が苦しいや。



「泣くんじゃねぇよ、みっともないな」

気がついたらボロボロ涙を流していた。嬉しいのか悲しいのかも分からない。ただ涙は一向に止まらなかった。

シミラが僕の頭を撫でながら、こう言ってくれた。

「カービィが一人で無理するなら追いかけてくから。辛いときは助けるから。私達はそのためにいるの。だから無理しないで」

どうしてみんなこんなに優しいんだろう。どうしてこんな僕についてきてくれるんだろう。分かんないよ。
すでにびしょびしょな服の袖で涙を拭いながら、情けない声でうん、と返事をするのが精一杯だった。





end.
‥‥‥‥‥‥‥

素敵企画様に提出させていただいたもの。

ゲームのカービィに対する自分のイメージや偏見をかなり詰め込んでしまいました。カビ受けに見えないかもですが…
銀ねがの一部分にこんなシーンがあるかも、という感じで受け止めてもらえれば嬉しいです。



09.1104



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