夜の口笛

風呂から出た後、ヘアゴムを取りに自室へ戻った。扉を開けるとぶわっと風が吹きぬけて、風呂上がりの火照った体でもそれは少し冷たく感じた。
部屋では窓が開け放たれており、ソードが窓のサンに半身で腰掛けながら夜空を眺めていた。
聞こえてくるのは彼の口笛だろうか。耳に心地よい。
「あ、おかえり」
彼が私に気がついて、こちらをちらりと見やる。
「こんな寒い夜に窓を開けなくてもいいんじゃないか?」
私が不満そうに言うと、まあいいじゃん、と視線をまた夜空に戻した。
「堅苦しいなあ。ゆっくり空くらい見させてくれって」
「それは構わないが私が寒い」
「じゃぁ早く髪乾かしてこい」
「…そうするよ」
キャビネットの上のヘアゴムを取って腕に通し、生乾きの髪を数回タオルで擦っていると先程の口笛が真後ろで聞こえた。
ちらりと後ろを向けば、見慣れた後ろ姿が空を仰いでいる。長いこと一緒にいるが、今までソードの口笛など聞いた記憶があまりない。うまいんだな…と妙に感心してしまった。タオルを持っている手が止まっていたことに気がつき、はっとする。妙に恥ずかしい。
「ソード、」
「ん?」
「夜に口笛吹くと泥棒が来るんだぞ」
「そうか。…ってヤバい!本当に来るかも」
「…どうかした?」
「いやあ…タックにちょっと借りてるものがあってねー。ははは」
そう言って彼は視線を逸らし頭を掻いた。そういえばタックがグチグチとそんなことを言っていた気がする。
「じゃあ、泥棒がくる前に窓閉めろ。」
「はいはい。」
そう言うと彼はサンから降りて、ドアをパタンと閉める。すると、

ガシャーン!
大きな音がした。恐らくガラスの割れる音だ。この部屋のものではないが、自分達の部屋からは遠くない位置のようだ。
「うわっ何の音?」
「…ビックリした…。俺ちょっと様子見てくる」
ソードがサンから降りて地に足を着いた直後だった。「どこじゃぁメタナイトーーっ!」という聞き覚えのある叫び声が聞こえたかったと思うと、ドタバタという足音が近づいては遠のいていった。
部屋のドアを開けると、廊下には割れたガラスが散らばっており、側の窓は豪快に割られていた。
しかしこんな光景も迷惑なことに、私たちには日常茶飯事になりつつある。
「…また奴か」
「奴だな」
二人同時にため息をつき顔を見合わせると、愛用の剣をとり部屋を飛び出す。

「だから夜に口笛吹くなって言っただろ?本当に泥棒が来たじゃないか!」
「あれは泥棒じゃなくて変質者だ!」
「どっちも変わらん!…全くこんな夜中に来なくたっていいじゃないか、あの椎茸仮面」
「本当、最近俺達の事お構いなしな時間に来るよなぁ」
私は生乾きの髪を頭の後ろで結いながら、ソードは剣の鞘のベルトを体に固定しながらドタドタと廊下を駆けていく。
「椎茸仮面よりもタックが部屋に奇襲しかけてくる方がマシだよバカヤローーっ!」

相方の悲鳴に聞こえる叫び声が真夜中の廊下に響いた。


end.
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

この二人は普段これくらいあっさりしてます。
あっさりしたソドブレを書きたかったんだ!

変質者(?)=ギャラさん 今後郷と一緒にちょくちょく出したいです。

09.07.16


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