かき氷

「あーあちー」
 雲一つ無い青空が遊矢と素良を襲った。木陰を通っても暑さは収まらない。
「この暑さは何なの?僕たち蒸し焼きにでもする気なのかなー、あーやっぱり無理。ちょっとコンビニよらない?」
 目の前に見えたコンビニがオアシスに見えた二人はフラフラと吸い寄せられた。
「それいいな」
 遊矢も天からの恵みのように嬉しそうな顔をしながらコンビニに入った。
 
 冷えた空気が体を包む。一気に体が緩んだ。
「何があるかな?何があるかな?」
 アイスコーナーについた奏良は一気に顔を曇らせた。
「どうしたんだ?」
 つまらなさそうにため息を付く素良に追いついた遊矢がコーナーを覗くと殆どのアイスが売り切れた後だった。業務用の氷や冷凍食品が存在を主張している。
「考える事はみんな一緒なんだな。あ、でもミントアイスあるじゃん」
「えっミント?そういえば遊矢ってミント食べるよね何か意外」
「どんなの食べるって想像してたんだよ」
「なんていうかさ、遊矢って見た目よりお上品だよね」
 ふざけて目を吊り上げる遊矢に奏良も舌をペロっと出した。
「どうする?今からスーパー向かうか家にあるアイス食べるか……」
「僕はどっちでもいいけど」
 それじゃあ帰って家にあるアイスでも食べようという事で二人はコンビニを出た。扉が開いた瞬間二人を熱風が襲う。コンビニで涼んだ体が一気に解ける。
「泳いで帰れたら気持ちいいのにね」
「本当汗も凄いしこのまま流れるプールで浮かんでいたいな」
 汗で張り付く上着を仰ぎながら顔を顰めた。流れるプールに身を任せたくなる、まだ真夏というには時間があるのに夏真っ盛りのような日である。蝉の鳴き声が余計に助長させる。
「プール?近くに海があるのに?」
「やっぱプールと海とじゃ違うじゃん」
「まあね、プールは海みたいにしょっぱくないしベタベタもしないし。ああかき氷食べたい」
「本当食べる事ばかり。かき氷なら家に道具あれば作れるよな」
「でも僕持ってないんだよね。冷房のよく効いたお店で食べるのも何か違うし。海の家とかプールにはまだちょっと早いでしょ?スーパーにもかき氷売ってるけどそういうんじゃなくてもっとふわっとしたの食べたいし」
 そう語る素良は本当楽しそうで、キラキラしてて、遊矢には眩しかった。
「じゃあうち来るか?かき氷器あったと思うし」
「え?本当?」
 体が重くてたまらないと気怠さを全開で歩いていた素良の声が一オクターブ上がった。目も輝いている。まだ準備もしていないのにお菓子を前にした子供の様な感じだ。
「母さんが捨ててないとあると思うし。あっでもシロップが無いや」
 どうせシロップを買いに行かないといけないならアイスを買えばいい話だ。取りあえず家に帰って涼もう、そう考え口を開こうとする前に素良が慌てて遊矢を遮った。
「じゃあ僕がシロップ買っていくから遊矢は先に帰って準備してて。何かリクエストとかある?」
「え?特にないけどかき氷作るくらいならアイス買った方が早くないか?」
「もうアイスじゃなくてかき氷の気分なんだよね」
「ありがとう、素良の好きなやつでいいよ」。
 じゃあね、と言い奏良は端ってスーパーに向かった。
 家に着くと機械を引っ張り出した。一年ぶりだ。箱にしまい込んでいるから埃こそはたまっていないがそのまま使う気にもなれない。
「洗わないとなー」
 スポンジに泡を付けてせっせと洗う。小さい頃は母さんが用意してくれて回すの楽しかったのを思い出した。氷を入れて回すだけだから氷が細かく削られて出てくるだけなのに魔法みたいでそれが楽しかった。
 氷も十分にある。後は素良を待つだけだ。こんなにかき氷が楽しみだなんて久しぶりだ。そう考えているうちにチャイムが鳴った。
「いらっしゃい、素良」
「お邪魔しまーす」
 奏良は荷物をテーブルに置いた。買い物袋が広がる様子を見て遊矢は何を買ってきたのかと頭が痛くなった。どう見てもシロップ以外も大量に買い込んでいる。素良は楽しさを隠し切れないように買ってきたものを並べた。
「何だこの量?」
「だって色々あった方が楽しいじゃん。プールサイドのお店みたいにずらっとシロップ並べてさ」
「でもこれはいくらなんでも……て餡子?」
「そうそう。抹茶と一緒に抹茶パフェのかき氷。ねえねえどれにするか決めた?」
「うーんじゃあ俺は普通にレモンで」
「じゃあ僕もレモン。次は早速氷だよね。氷どこにある?」
「奏良はお客様だし俺が作るよ」
 遊矢は組み立てたかき氷器をテンポよくクルクル回している。氷が削れる音が響く。
「何かかき氷が出てくる瞬間見るのって楽しいよね。四角い氷の塊がサラサラした雪みたいに変身したみたいで」
「俺もこうクルクル回すの好きなんだ」
 あっという間に綺麗な氷の山が出来た。
「よし、もういいかな、シロップシロップ」
 レモンソースが氷の山を溶かしながら広がっていく。
「さあ召し上がれ」
 スプーンを片手にくるくる回している。遊矢は自分の分も急いで作った。


「いただきます」
 レモンの山にスプーンを突き立てる。シャリっとした音か響く。
「冷たいなー」
「でもうまい」
 アイスよりもずっと溶けやすいそれはあっという間に容量を減らす。
「あー美味しかった」
「僕も美味しかったよ。ありがと。次はどうする?」
「次?まだ食べる気か?腹壊さないか?」
「これくらい平気だよ。遊矢もきつそうなら一回ちょっと外出て日向ぼっこでもする?」
 外に目をやると見るからに暑そう。一度家に戻ったらどこかに行こうなんて思えなくなる。体がだれていくのを感じだ。
「やめとく」
「じゃ、何にする?それともお任せ?」
 あっさりしたのでも良い気がしたが素良が楽しそう。
「じゃあそのお任せってので」
「分かった楽しみにしててね」
 そう言い素良は袋を開けて楽しそうに考えている。単純な練乳かき氷みたいな甘そうなものじゃなさそうで良かった。決まったのか素良がかき氷器を回す音が聞こえる。それもすぐ終わり呼ぶ声が聞こえた。
「遊矢出来たよ」
「綺麗だな」
 イチゴシロップの綺麗な赤色が氷の上で輝いている。
「食べてみて食べてみて」
「いただきます」
 氷山にスプーンを突き刺す。
「美味しいなこれ」
「でしょ?」
 そう言いながら一口食べおいしそうな顔をした。
「あー冷たい」
 冷たそうな顔をしながらも美味しそうに食べる。素良も自分用に用意したかき氷を食べている。
「あっ」
 食べ進めると中から練乳と酸っぱいソースが出てきてイチゴと混ざり新たな味をうみだした。遊矢の驚く顔を満足そうに素良は見ている。
「どう?美味しい?」
「ああ」
 素良が練乳をかけない訳だ
「家でかき氷なんて久しぶりだ。楽しかった」
「僕も楽しかったよ。もっと食べたいな」
「おいおい家の氷全部食べつくす気かよ。それに腹壊すぞ」
「だよね」
「あーかき氷って美味しいけどお腹いっぱいにならないよね」
「流石にお昼代わりにはならないけどかといってまだ何か食べたいとは思わないし微妙だな」
「しばらくゆっくりしてから考えよ」
 奏良はソファーに横になった。遊矢を手招きする。
「片づけは後でいいじゃん」
「だな」
 ポットに水を入れてから遊矢は行った。
「やっぱり体冷えた。温かいもの飲まないと風邪ひきそう」
「これでもし凄い夏風邪ひいたらかき氷器見るたびに僕の事思い出すようになるのかな?」
「なんだそれ」
「覚えていてくれるものがあると嬉しいよねって事」
「これから夏だっていうのに夏風邪ひくなんて嫌だぞ」
 素良が何を言いたいのか遊矢には分からないが不吉なことを言った素良にクッションを投げた。
「僕だってやだよ。でもかき氷ってさあんな山になってたのにあっという間にとけちゃって……」
「儚いよな。儚いひと夏の思い出みたいだ」
 奏良につられて遊矢もなんだかセンチメンタルになってきた。
「これからも沢山思い出作ろうね」
 受け止めたクッションを置いて大きく伸びをした。
「暖かい飲み物も良いけど何か作って?出来立てのパンケーキとかきっと温まるよ」
 さっきかき氷を食べたばかりだというのにまだ何か食べたがる素良の変わらない胃袋に苦笑いしながらも変わらないことの安心感も感じた。
「あんまり食べると夕食入らなくなるぞ。今晩も食べてくんだろ?」
「それもそうだよね。あー何だか体冷えてきた」
 ソファーに座った遊矢にぴたっとくっついた。体のシンは冷えたが体温は伝わってくる。
「遊矢あったかいね。ねえねえ暖めてよ」
「自分で何とかしろよ」
「冷たーい。でもそういう所も好き」
 そう言いもたれかかろうとした時お湯が沸いたとポットが知らせてきた。
「素良は何飲む?」
「空気読まないポットだね。僕ホットチョコレート」


「ありがと」
 一口飲むと口の中に甘さが広がる。
「美味しいね」
「ああ」
「どうした?急に黙って何か企んでる?」
「そんな事ないよ。ただこの時が永遠に続いたらいいなって」
「楽しい時間はかき氷みたいにすぐ解けちゃうし温かい飲み物みたいにすぐ冷めちゃう」
「かき氷はすぐ作れるしお湯だって温めればいい」
「ポジティブだね」

「楽しい思い出一杯作ろうな。それはそうまずは片付けからだ」
 机には容器が散らばっている。
「お片付けはこれからだ」
 奏良がボソッと呟く。遊矢は何とも言えない顔をして手を進めた。二人の夏はまだ始まったばかりだ。



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