chocolate

 バランスボールの上で伸びながら遊矢は新たなる一手を考えていた。部屋の隅で奏良が二枚目の板チョコに手を付ける。手持無沙汰なのだろう、ぼーっと食べ始める素良を見て遊矢は顔を顰めた。
「さすがに食べ過ぎじゃないか?」
 遊矢が自分を見ていた事に気付いた奏良は包みを開ける手を止めた。
「これくらい大したことないよ、ちゃんと運動してるし。ほら見て無駄な贅肉何てないでしょ?」
 確かに素良はぷよぷよしていないしお腹も出ていない。けれどこんな生活を続けていたら体を悪くするのも時間の問題に思えた。
「そのうち病気になるぞ」
 怖そうな顏をする遊矢に奏良はいつものおどけた表情をした。真面目に取り合っていないことが一目で分かる。
「うわ〜こわっ。遊矢は心配性だね。僕は大丈夫だよ。そんなことより自分の心配した方が良いよ?食べて鍛えてる割
に筋肉付いてないじゃん。お父さんはガッチリしてるのにね」
 ボールから降り近づいてきた遊矢の細腕を掴み、その感覚を確かめた。この細腕で地を駆け宙を舞うアクションデュエルがうまれてくるのが不思議である。
「いつもゴンちゃんの隣にいるから余計目立つよね」 
 筋肉隆々の人に言われるならともかく、同じように細く背も低めの素良に言われると何だか悔しい。素良から腕を離して力瘤を作って見せた。
「ほら見てみろよ。いつも鍛えてるから見た目より筋肉付いてるし。筋肉無きゃアクションデュエルなんて出来ないだろ?それに素良だって人の事言えるクチかよ?そんな細い体して」
「僕は調整してるんだよ。だってストロング石島みたいにムキムキになったらイメージ崩れちゃうじゃん」
 それに、と遊矢を見上げながら言った。
「これでも苦労してるんだよ体型キープするの。だから大丈夫大丈夫」
 そう言いながら手に持つチョコにかぶりついた。素良の言う通りセーブしながら食べているのだろう。何を言っても無駄だと分かっていても思わず口に出してしまうほど素良の食生活は気になった。
「まあそりゃそうだろうけど、それならお菓子やめた方がもっと楽なんじゃないか?」
「これは別〜」
 今まで一体どのような食生活をしてきたのか遊矢には想像も出来なかった。
「言った傍から…」
 今までも手持無沙汰になったらお菓子を食べて気を紛らわせていたのだろうか。妙に大人っぽいところがあると思えば子どもじみた事もする素良が一緒に居て飽きないような、目が離せないような、複雑な気持ちになった。
「何でそんなに心配するのかな〜」
 もしかして、一つの考えが素良の頭を過った。
「ねえ遊矢?もしかして僕が誰か分からないくらい太っても愛してくれる?」
「えっどうしたの急に」
「だっていきなりそんな事言うからさ。もしかして僕の美貌に惚れたんじゃないのかなってちょっと心配になっちゃって」
 青天の霹靂であった。想像もしていなかったが見る影もなくなった素良はどんな感じか考えてみたが、初めてデュエルした時のようにお菓子を貪るファーニマル・ベアに素良の顔を重ねるのが限界である。変な妄想が頭を占めないよう慌てて首を振った。
「そんな訳無いだろ。それに素良って別に俺のタイプにの顔ってわけじゃないし。でもやっぱりお菓子の食べ過ぎは良くないと思う……」
 遊矢には最初から自慢のカワイイビジュアルが通じなかったしそういう所も好きだった、が好きな人に好みのタイプじゃないと言われるのも複雑である。
「え〜それって僕喜ぶべきなのかな〜?」
「だからそんな顏しても効かないって」
 飛び切りの笑顔で再チャレンジしたものの遊矢は気にもかけなかった。素良は作り笑いをやめた。効かない人に続けてやっても機嫌を損ねるだけだろう。奏良は引き際もちゃんと心得ていた。
「遊矢ってからかいかいがい無いよね。つまんないの」
「俺だってからかわれる趣味なんてないさ。それに奏良は誰かをからかってる時より楽しくて笑っている時の方が良い顔してる」
 奏良の作った笑顔ではなく心からの笑顔を知っている遊矢はちゃんと知っている。
「それにさ、さっきお菓子食べてる時だってあんまり楽しそうじゃなかったじゃん。あんな顏してお菓子食べても美味しくないだろ?」
確かにそんな楽しい気分ではなかったが見透かされているようで気に入らない。
「そう言うなら遊矢が僕を笑わせてよ?お菓子以上にね」
 甘い甘い猫なで声で囁いた。そう言われたら遊矢も引き下がるだろう、慌てて赤くなる遊矢は考えるだけで楽しかった。
 数秒沈黙が訪れた。そろそろ頃合いかと思い遊矢の耳元から顔を離すと遊矢は待ってましたとばかりに口角を上げ笑っている。
「分かった」
 奏良は耳を疑った。普段の遊矢からは想像も出来ない積極性だ。
「どうしちゃったの?らしくないじゃん」
 何だか積極的な遊矢に期待半分不安半分である。何をしてくれるというのだろう?
「じゃあ取りあえず海岸までランニングな」
 てっきり甘い雰囲気になるかと思っていたのに空気を読まないのか何なのか。今度は露骨に顔を顰めた。
「何それ熱血?僕そういうの苦手なんだけど」
「そんな事言うなよ、いい汗かいたら良い笑顔になるって言うし」
 そう言い準備体操とばかりに腕を伸ばした。不満そうな素良には気付いているが気にしている様子もない。自分のペースで淡々と準備をしている。
「じゃあ先行ってるからな」
「ちょっと待ってよ僕まだやるなんて一言も」
 手に持っていたチョコレートを仕舞いながら慌てて付いていった。一緒に居たら何か楽しいことが起こるかもしれない。そう思うと遊矢を無視するのは出来なかった。遊矢もそうだと分かっているから振り向きもせず行ったのだろう。
先に行っているものだと思った遊矢は廊下で素良を待っていた。
「鍛えてるんじゃなかったのかよ、遅いな」
「てっきり先に行ってるかと思ったのに優しいんだね」
「そんな事はしないさ。それよりさっきはほったらかしにして悪かったな。ひと汗かいたらその後に、な」
 遊矢もその気だと分かり素良はほくそ笑んだ。
 お楽しみはこれからだ、という事だろうか。人を笑顔にするのが好きな遊矢だ、どう引っ張れば客をやきもきさせれるかも心得ている。
 一体どう楽しませてくれるのだろう?自分では気付いてないが素良は心から楽しそうな表情を浮かべていた。

 

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