エクシーズについて

 僕はデストーイシザーベアーでダイレクトアターック」
 奏良のダイレクトアタックが通り柚子と奏良のデュエルは素良の勝ちで終了した。おいしそうにお菓子を頬張る奏良を見ながら柚子は悔しそうにデュエルディスクを外した。
「やっぱり奏良は強いわ。私だってだいぶ強くなれたと思ったのにまだまだ手も足も出ない」
「そりゃ柚子にだってそう簡単に僕は越せないさ。でも僕の弟子だけあって上達は凄いよ。僕も鼻が高いや」
 何度も奏良と対戦することで融合のコツをつかんできたがまだだまだ奏良を超えることは出来ず弟子入りする前よりは強くなれたと思えてもまだ塾を守れるには程遠い。LDSに襲撃された時自分が何も出来なかったことの悔しさを武器に特訓を続けてきた柚子は、もう悩む時間も意味もないと思いつつも本当にこのまま進んで大丈夫なのか不安にかられる事があった。
「もっと練習して練習して強くならなきゃ」
「その意気だけど思いつめるのも良くないよ?」
 ころころ表情を変える柚子を楽しそうに見守る奏良は弟子の成長が面白くて仕方のない様子だ。柚子のデュエルディスクが光り、デュエル中修造から着信のあったことを思い出した奏良は軽くため息を付きながら言った。
「塾長から電話あったの覚えてる?」
「あっ今日私が夕ご飯作る日だったのすっかり忘れてた!」
 最近電話がしつこく無意識のうちに意識から追い出していた柚子は慌てて奏良に頭を下げた。
「今日も特訓に付き合ってくれてありがとう。帰り道気を付けてね」
「柚子もお父さんの事大切にね。塾長僕のところにも柚子はどうか?とか聞いてきてしつこいんだよねー」
「お父さんが迷惑かけてごめんなさい、ちゃんと言っとくわ」
 そう言いながら走って帰っていく柚子に柊親子のすれ違いを感じながらも、まあしばらくこのままでも良いかとチョコレートの包みを広げながら感じていた。こっちの世界のお菓子も美味しい、甘党の奏良はチョコレートを食べながら幸せなため息を付いた。
 息が切れ、足を止め肩で息をしている柚子に音もなくユートが近づき背後から声をかけた。
「柚子、また融合の練習をしているのか?」
 突然現れた声の主に驚きながらも、弱いところは見せられないと精一杯虚勢を張りながら言った。
「驚かさないでよユート。そうよ、融合をマスターしてもっと強くなって塾を守るんだから」
「だったらエクシーズも覚えるべきだ」
「エクシーズ?この前融合は似合わないって言ったけどそれって瑠璃がエクシーズ使いだから?」
 貰った大切なカードにケチを付けられたのを思い出し言いたいことを全部言ってしまおうと口を開いたが、ユートはそれより先にマスクを下げながら言った。
「違うそうじゃない。明日のこの時間あの倉庫に来れるか?今は急いでいるんだろう、続きは明日言う」
「明日なら空いてるけど」
 どういう事だろうと一瞬目をそらしている好きにユートは姿を消してしまった。いつも何処からともなく現れて消えてしまう、不思議なユートに柚子は自分が思っている以上に気になるようになっていた。
「いつも急に現れて変なの…それより大変早く帰らないと」
 明日は色々聞こう、そう考えながら頭の中は今日の献立の事、父親の事で一杯になっていった。
 次の日、柚子は初めて出会った倉庫の中をうろうろしながらユートを待っていた。そもそも本当にユートが来るのか分からないし、ユートに呼び出された目的もよく分からない。あたしに似ている瑠璃という人が関係しているのだろうか。色々な考えが出て来てまとまらず混乱しているとユートがドアを開けて入ってきた。
「ユート…」
「デッキを見せてくれ」
 言われるままに差し出したデッキを受け取り、丁寧に広げながらユートは真剣な表情で考え込んでいた。しばらく考え込んだユートは、丁寧に言葉を選びながら言った。
「確かに融合も強力な召喚方だ。ただもっと強くなりたいならエクシーズも使えた方がより幅広い戦略を立てることが 出来る。幻奏にエクシーズ向きのカテゴリだからな」
「幻奏はエクシーズ向き」
 思いもしなかったことを言われて混乱した柚子は思わず
「瑠璃って人が幻奏でエクシーズしてたの?私は柚子、瑠璃じゃないのよ?」
 と言った。柚子が瑠璃ではないとユートは分かっているはずなのに、ユートが自分ではなく瑠璃という人を見ているような気がし、思わず言ってしまった自分に恥じながらごめんなさいと謝った。ユートは気にするなというように頷いて続けた。
「もちろんアリアとエレジーでロックをしたり、ソナタとエレジー、柚子がデッキに入れているフレイヤで攻撃力を高めつつ豊富な天使族サポートを使うのも一つの策だろう」
ユートの真剣で落ち着いている声は柚子の心を落ち着けた。一言一言を反芻しながら考えている柚子の反応を見つつ続けた。
「ただ、カノンは幻奏モンスターが自分のフィールドにいれば特殊召喚出来るし、モーツァルトの効果を使えばセレナを特殊召喚出来る。セレナが特殊召喚出来れば通常召喚に加えてもう一度幻奏モンスターを召喚できる。レベル4の幻奏を並べてエクシーズ召喚をするのは難しい事ではない。エクシーズ召喚に特別な魔法カードは要らないし縛りのないものも多い。ヴァルハラを使えばレベル4の幻奏だけでなくモーツァルトも特殊召喚出来るからそこから繋げるのも手だ。もし幻奏のエクシーズモンスターが手に入れば第1楽章を使って特殊召喚するのも良いだろう」
「あ、ありがとう」
 自分のデッキでもない幻奏を完全に理解しているデュエリストとしての能力の高さに圧倒されながらも、一つも漏らすまいと頭を働かせる柚子を見つめるユートの目は普段の鋭い目付きからは想像できないものであった。その後もユートの講義は続き、そろそろ柚子の頭がパンクしそうなところで講義は終わった。
「私、幻奏でエクシーズって考えた事無かったわ。それにこういう回し方も考えた事無かった。こういうデュエルもあるのね、凄く勉強になりました。本当にありがとうございます」
「もちろん無理にエクシーズする必要はない。融合やモーツァルトとフランソワで勝ちに行ったり臨機応変に対応するのも大切だ。柚子は柚子らしく自分のデュエルをすればいい」
 すぐにその場を立ち去ろうとしたユートの腕を慌てて掴みながら叫んだ。
「待って!もし都合がつくなら明日もここに来てくれない?今日のお礼もしたいし」
「例には及ばない」
「違う、そうじゃないわ。もっとエクシーズについて知りたいし、あなたの色々お話したいの」
 口数は少ないが沢渡にとどめを刺そうとせずこの間は真澄を守ろうともした。今日の講義もあたしを見かねてきっと教えてくれたんだろう、ユートの優しさに触れユートの事をもっと知りたいという気持ちを抑えることが出来なくなっていた。ユートは軽く頷いてから立ち去った後も柚子はその場をしばらく離れられずにいた。
「私は私らしく」
 デッキを握りながら、自分の進むべき道が広がったのを感じた柚子


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