お祝い

 倉庫で柚子と奏良はデュエルの特訓をしていた。MCSまでもう日が無い。柚子の顔には焦りが見え始めた。
「また負けちゃったわ。私も早くマスターして強くならないと……」
「何言ってるの?これだけで来たら上出来だよ。ここまで出来たらあのお姉ちゃんに負けるわけがないよ」
 心配そうに顔を曇らす柚子とは正反対に素良の表情からは余裕が感じられた。
「だって素良とデュエルしても一回もあともう一歩!って感じにもならないし…」
「僕は本物の融合使いだし、そりゃそうだよ」
 新たにチョコの銀紙を開けながら奏良は続けた。
「でも柚子の成長には僕も驚いてるんだよ?最初は心ここにあらずって感じだったけど」
 そう言い茶化す奏良に柚子は赤くなりながら固まった。柚子にとってあの時の事は忘れたい記憶であり、真剣になりきれなくても見捨てなかった素良には感謝してもしきれなかった。
「本当にあの時はごめんなさい。私どうにかしてた……」
 恥ずかしそうにする柚子を見て奏良は満足そうにほくそ笑んだ。
「柚子はいい子だよねー塾を守ろうと必死になってさ」
「私だって塾の足手まといに、いいえ塾を守れるようになるって決めたんだから」
 そう言いながら柚子はまたデッキの調整を始めた。光津真澄といつ対戦になるか分からないが、勝ち進んだ先にはきっと彼女がいる。彼女に勝って一区切りつけたい、あの時とは違うという事を実感したいそういう思いが柚子を急き立てた。
「柚子の成長も頑張りも師匠としては鼻が高いよ。優しい僕にはあんな必死な柚子見捨てられなくて引き受けたけど正解だったよ。思ってた以上に師匠するのって楽しいし」
「ありがとう、素良が引き受けてくれなかったら多分私まだ前に進めてなかった、みんなに置いて行かれたと思うの」
 柚子のデッキは素良に弟子入りする前とは大分変った。融合が入ったのはもちろん、幻奏たちがより輝けるよう素良のアドバイスを受けながら変えていき完成度の高いものとなっていた。
「こっちに変えようかしら、でもこっちならこういう動きも……」
 真剣にカードと向き合う柚子をじっと見つめながらつぶやいた。
「あ〜早く柚子の融合する姿みんなに見せたいよ」
「そういえばまだみんなの前で融合してるとこ見せた事ないものね」
「違う違う、僕の前に居たところの仲間達だよ」
 てっきり遊勝塾のみんなの事を言っているのかと勘違いした柚子は素良の前に住んでいた場所について聞きそびれていた事を思い出した。
「そういえばまだ素良の昔住んでいた所の事聞いてなかったわね」
 頭を使い少し疲れた柚子はカードを触る手を止め素良の方を向いた。柚子が食いついてき、しまったという顔を見せたもののすぐ普段のおどけた表情に戻った素良はごまかしにかかった。
「多分口で言っても想像出来ないと思うよ」
 それに、と言いながら柚子のデッキを覗いた。
「今はまだ無理かもしれないけどこの調子ならいつか柚子だって認められると思うよ」
「認められる?」
 素良の話に付いていけない柚子だがそんな事はお構いないというように奏良は自分のペースで話しを続けた。
「柚子もこっち側になれるって事だよ。なんたって僕の弟子一号なんだからね」
 柚子が新しく加えたカードを見て、奏良は満足そうに頷いた。
「よし決めた!柚子を認められるほど強くしよう!」
 新しいおもちゃを見つけたような声を出しながら奏良は立ち上がった。
「そうと決まれば善は急げ!ってもうこんな時間かー。明日からはもっとビシバシいくからね?」
「ありがとう。これからもビシバシ鍛えてください」
 何を言っているのか完全には理解できなかったし素良も理解させる気は無かったのだろうけれど、私の為にやる気を出してくれたことは伝わった柚子は丁寧にお辞儀をした。その様子を奏良はお気に入りのおもちゃを眺めるような純粋な目でじっと見つめてからデュエルディスクを仕舞った。
「それにあっち側の事が気になってたみたいだけど、柚子は僕の弟子なんだからね。彼らに横取りなんてさせないよ」
 片付けの音にかき消された独り言が柚子の耳に届くことはなかった。チョコレートを最後のひとかけまで食べきった奏良は突然思い出した風に声をあげた。
「そういえば僕の連勝祝いは?ケーキは?」
 LDS襲撃や何やらでゴタゴタしておりすっかり素良との約束を忘れていた柚子はしまった、という顔をしてから両手を合わせた。
「ごめんね私すっかり…」
「やっぱりー」
 小さな子供のように頬を膨らました奏良を見て思わず柚子は吹き出した。
「ごめんって。じゃあ塾帰る前にケーキ屋さん行こ?」
「本当!?やったー!」
 そう言いながら奏良は柚子の袖を引っ張りながら早足で倉庫を出た。
「僕ね、絶対あきらめない性質なんだ」
 奏良の執念深さに負けた、という顔をした柚子は素良の真意に気付かなかった。二人は人気のない倉庫街を早歩きでかけていった。


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