Chapter 6
「…ぁ…」
ハッと我に返った莎夜は、それまで見上げていた桜の木に背を向けると、トン、と体を幹に預けた。
蒐がいなくなってから、もう数週間が経つ。
それなのに、莎夜は未だに一人でいることに慣れずにいた。
一緒にいたのは一週間にも満たず、そして状況は蒐と逢う前と同じなのに、心が重くなる自分に、莎夜はやれやれといった表情で微かに笑いを漏らした。
「…だめだなぁ…」
この場所には、嫌な思い出しかないね、と独り言を言うと、再び木に向き直って、軽く口付けをした。
「少しの間だけお別れだね…葵」
腕を回しきれない太い幹を抱擁すると、莎夜はゆっくりとした足取りでその場を去った。
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