１５

「私の秘書として会社で働かないか？」

ある日の午後飲み物をお持ちした僕は、政明様の突然の言葉に紅茶を注ぐ手を止めた。

「ぼ、僕がですか！？」

家で政明様の仕事の手伝いをしているとはいえ、政明様の会社はとても大きく、そんな会社の秘書が僕に務まるとは到底思えなかった。

「今の秘書の前田さんが家庭の事情で田舎に帰ることになってね。早急に次の秘書が必要なんだ。」

「で、でも僕なんかじゃ前田さんの代わりなんて務まりません…。石田さんはどうされたんですか？」

石田さんとは現在第二秘書として働いている、謂わば前田さんの後継者となる人だ。

「うん…それがな…。」

珍しく政明様の言葉がはっきりしないことから、どうやら何か事情があるようだった。

「あ、あの…では代わりの人が見つかるまでの間、僕に秘書のお仕事をさせて下さい。」

政明様が困っている。

自信はないけれど、少しでも政明様のお役に立てるのならば僕はそれに応えたかった。


「ありがとう一葉、助かるよ。」


こうして僕は政明様の秘書となった。