17
自分の仕事も終わり、そろそろ帰ろうと身支度していたところ一本の電話が鳴った。
「もしもし、一葉か?」
それは観劇に出かけられた政明様だった。
「私の机の2段目の引き出しに小さな木箱が入っているから、すまないがそれを演劇が終わる頃持ってきてくれないか?」
政明様の言われたように机の引き出しを開けると、そこには確かに木箱があった。
「はい、わかりました。後ほどお届けいたします。」
電話を切り木箱を手に取る。
悪いと知りつつ好奇心には勝てずそっとその木箱を開けてみるとーー。
「ーーーっ!」
そこには小さなルビーのついた指輪があった。
(これ…政明様が三野様に…?)
確証はないが、きっと間違っていないだろう。
何故ならルビーは三野様の誕生石だから。
以前家に宝石商がやって来た時にルビーを見ながら政明様がおっしゃっていた。
『ルビーは彼の誕生石なんだ。華やかで気品があって、まるで彼そのものだ。』
三野様の事を語る政明様の瞳がとても優しくて、僕はそんな政明様から目が離せなかった。
(政明様……。)
木箱を持つ手に力が入る。
このままこの指輪を捨ててしまいたい気持ちもあった。
でも三野様を想っている事を知った上で政明様に恋し側にいることを望んだ僕には、どんなに辛くても最後まで見守る義務があるように思えた。
(政明様も人が悪いよ…。)
こんな物を僕に持ってこさせるなんて。
「……それでも好き。」
所詮惚れた方が負けなんだ。
ーー僕も覚悟を決めよう。