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ここから劇場までは少し時間がかかる。
余裕を見て早めに出た僕は、そこである人に声をかけられた。

「社長から劇場までお連れするよう言われておりますので、どうぞ乗って下さい。」

そこにはいつも政明様が乗っている車があった。

どうやら政明様が手配してくださったようだ。

「はい、ありがとうございます。」

僕は車に乗り込み劇場に向かった。



「なんだか天気が崩れてきましたね〜。」

途中運転手の言葉に窓から空を見上げると、昼間の快晴が嘘のようにどんよりとした雲が空を覆っていた。

「これは一雨きますね〜。」

どこか楽しそうな運転手によほど雨が好きなのかと首を傾げた所で、外の風景に違和感を感じた。

「すみません、なんだか道が違うようなんですが…。」

劇場は街の中心部にあるのに、この車はどんどんそこから外れていくような気がした。

「いや、ちゃんとあってますぜ。」

そう言ってこちらを振り向きニヤっと笑う顔にはどこか見覚えがあった。

「ーーっあ!?」

思い出した!!

「い、石田さん!?」

それはかつて政明様の第二秘書として働いていた石田という男だった。

僕も今まで1、2回しか会ったことがなく、しかも以前は秘書らしくびしっときめていた髪も今は白髪混じりでぼさぼさで、とても彼だとは思えなかった。

「ああそうさ、俺だよ。お前のおかげで秘書から降ろされた石田だよ!…この一月お前と二人きりになれる機会をずっと窺ってたんだ。今日はあの男もいないしな、ゆっくりと楽しもうじゃねえか!」


そう言って彼はアクセルを強く踏み込んだ。



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