13
「話がある。寝室に来なさい。」
翌朝いつも通り自分の仕事に戻った僕を、政明様が呼び止める。
書斎ではなく寝室。
それはその話というものが仕事の事ではなく、プライベートな事だということだ。
間違いなく昨夜の事だろう。
(行きたくない……)
それでもここで逃げては駄目だと思った。
昨夜散々泣いて、やっと決意したのだからーー。
「昨夜はすまなかった。」
開口一番、そう言って政明様は僕に頭を下げた。
「いや、昨夜だけじゃなく今まで悪かった。お前を愛しく思う気持ちに嘘はないがそれは弟を思う様なもの、私はずっとお前の中に彼の姿を見ていた。」
覚悟はしていても、やはり面と向かって言葉にされると辛い。
「お前を傷つけてしまった。…私の顔が見たくなければここから出て行っても構わない、生活については私が保証する。」
「…僕は出て行きません。」
「え…?」
強く言い切った僕に政明様が顔をあげる。
「僕は政明様に拾っていただきました。そのご恩を僕はまだ返せていません。」
「しかし…」
「それにっ、政明様と離れたくありません。…政明様があの方を思っていても構いません。僕を抱くことで政明様のお気持ちが慰められるなら、喜んで身体も差し出します。だからっ!」
気持ちが昂り抑えていたものが込み上げてきた。
「側に…いさせて下さい…」
政明様へとしがみつき絞り出すような声でそう懇願した。
顔はあげられなかった。
あげたら今にも溢れそうな涙が零れてしまうから。
「一葉……お前は馬鹿だね…。」
ーー私と同じだ。
そう言って政明様はそっと抱きしめてくれた。