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それが間違いだと気付いたのは政明様に抱かれるようになって半年が過ぎた頃。
政明様の仕事を手伝い書類を整理していた時、僕は誤って彼の手帳を落としてしまった。
急いで拾い上げると、そこからひらひらと床に落ちていった一枚の写真。
それを拾いあげ何気なく目にした僕は、その瞬間思わず固まった。
そこには政明様と一緒に僕が写っていたからだ。
いや、正確に言うと僕ではなく、僕に非常によく似た少年だった。
一緒に写っている政明様が今よりも随分若いことから、これはもう何年も前に撮ったものなのだろう。
写真もところどころ痛んでいる。
(こんな昔の写真を入れてるなんて、この人は政明様の親友なのかな?)
そう思い、何気なく写真を裏返すとそこには少年の名前らしきものが記されていた。
「か、ずき…?」
何処かで聞いたことがあるような気がした。
その瞬間、頭の中で何かが繋がった。
『ーーず、きっ!』
それは初めて政明様に抱かれた時に彼が囁いた言葉。
(ーーずき……かずきっ!!)
そのことに思い立った瞬間、ぞくっと背筋が震えた。
(もしかして…政明様は……)
もう一度写真を見つめる。
そして僕は気付いてしまった。
写真の中で僕によく似た少年を見つめる政明様の瞳が、いつも僕を抱く時だけにみせるものと同じ色をしていたから。
(政明様は僕にこの人を重ねているんだ…)
自分はこの人の代わりだと気付いた瞬間、自然と涙が溢れだした。
(僕……いつの間にか政明様をっ!)
自分の恋心に気付いた瞬間、同時にこの想いが報われることはないと知った。