生クリームとチョコソース



「お前って顔は可愛いけどさ、性格悪いよ」

あ、またか、と思った。目の前に立って私を見下ろす男は、同じ大学の先輩。三か月ほど前に、向こうからのアプローチで付き合った相手だった。

「手も繋ごうとしない癖に、いつも色々買わせるし」

違うよ、あなたが買ってくれたんでしょ。私は一度だって無理強いしたことはないのに、買わせたなんて言わないでよね。その言葉はしっかり飲み込んで、いつもの笑顔で言う。

「じゃあ、お別れしよっか」
「元々そのつもりで話しに来たから。じゃあな」

そう言って踵を返す彼に、笑顔を崩さずに小さく手を振った。






私はただ可愛くなりたくて、その可愛さを誰かに認めてほしいだけ。
髪や肌のケアは人一倍頑張っているし、お洋服だって、あんまり高いものは買えないけど、精一杯可愛く上品に見えるように選んで、皺や毛玉が絶対につかないように手入れをしながら着ている。
メイクや香水も、いろんなものを試して、自分に似合うものを探した。
仕草も話し方も声の出し方も、どうやったら可愛く映るのか、たくさん研究した。
最初は可愛くなりたかっただけだった。高校生のときの私は地味で、可愛い女の子に憧れていたから。
でも、街を歩くと、男性が話しかけてくれる。可愛いと言ってくれる。食べ物や飲み物も、お洋服やバッグも、可愛くおねだりすれば買ってくれる。ここで私は、可愛いことが認められる喜びを知ってしまった。

でもいつも失敗する。可愛いから付き合いたいと言う男性たちは、手を繋いだり、もっとその先を求めてくる。私にとって、それは違った。
性的な女としてじゃなくて、ただ可愛い女の子、として扱ってほしかった私は、それらを全て断ってきた。すると皆、さっきの男性のように、手のひらを返して言う。
「お前、性格悪いよ」って。

少し落ち込んでしまっていた私は、甘いものが飲みたくて、ふらふらと大学近くのコーヒーショップに飛び込んだ。
でもレジに並んで自分の順番が来て、カバンの中を見たときやっと、今日は家に財布を忘れてきてしまったことを思い出した。焦りに焦っていたその時、後ろから声がした。

「お会計、一緒にお願いします」

その声の主を見ると、明るい金色の髪に、同じ色の綺麗な目の人がいた。
すごく優しそうな目をしていて、ああこんな人に可愛いって思ってもらえたら幸せだなって、それぐらいの気持ちで歩み寄った。
思った通り優しかった彼、我妻くんは、たくさんたくさん可愛いと言ってくれた。わがままもたくさん聞いてくれた。それなのに、手を繋ごうとか、その先に進みたがるようなことをちっとも言わなかった。
それを嬉しく思うと同時に、寂しく思う自分がいることにも気付いたのは、付き合い始めて三か月が経った頃。




- ナノ -